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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その188~会議七日目、夜①~

***


 統一武術大会三回戦は盛り上がった。昼時にトップシード選手を集めて一斉に試合を行ったのは成功だった。会場は満員となり、昼休憩を利用して各国の使節も多数訪れたのだ。天覧試合はまだ程遠いにも関わらず、これほど盛り上がったのは初めてかもしれない。少なくとも、興業としては歴代ではもっとも成功しそうな雰囲気が出ていた。

 大会は徐々に無名の者、また実力の劣る者が排除され、どの試合を見ても実力の高い戦士たちの戦いが見られた。また国を代表する騎士などは自らの名誉だけでなく、国の誇りを背負って戦うため、一筋縄では終わらない戦いが増えている。

 その中でイェーガーは快進撃を続けていた。残っている者はさすがに数が減ってきたが、大隊長以上の者はそれなりに勝ち残っている。ウィクトリエはB級の傭兵相手に圧勝だったし、ルナティカも正規の騎士を相手に軽快な戦いで手玉にとった。ドロシーも敗北寸前から相手を場外に追い込むという、大逆転勝ちを演じてみせた。

 ドロシーは勝ったことで、次の試合は第8シードのティーロッサとなった。ディオーレが質実剛健の騎士なら、流麗華麗と言われるティーロッサに挑むことがドロシーは今から心待ちにしているようだった。

 一方で、ウィクトリエとルナティカの表情は浮かないものだった。勝ち進んで気分の良いロゼッタが不思議そうに尋ねた。


「どうした、ウィクトリエ?」

「いえ、次に勝てばアルフィリースと戦う可能性も出てきたのですが――次の相手が相当な手練れと見ていまして」

「ウィクトリエが警戒するほどの手練れ? 誰だそれは?」

「南の森林の戦士、オルルゥという女戦士です。第11シードのガンダルスを倒した女傑です。得物は棒でした」

「ウィクトリエも棒術は使えるだろう?」

「はい、ただ――」


 ウィクトリエは口ごもった後、どういえばよいのかわからないとばかりにしどろもどろに話した。


「私の棒術は槍の延長です。私は棒術というものについてそれほど深く考えたことがなく、槍とは先端のあるなし程度で考えていました。ですがあの女性の棒術は、それとは一線を画す技術です。先ほどの試合も見に行ったのですが、相手が一度も攻撃をせぬままに敗北しました」

「なんだそりゃ? どうやったらそんな展開になるんだ」

「開始と同時に間を詰め――相手の攻撃に出る手を打ち据え、そのまま歩くように相手を制圧し、そのまま場外に押し出しました。相手は反撃する暇もなく攻撃の出鼻を打ち据えられ続け、どうやら立ったまま気絶していたようです。倒れることすら許さぬ猛攻に、冷や汗が止まりませんでした。

 私は一通りの武器を扱えるとはいえ、あくまでも一般的な手習いを少し出る程度。達人相手にどうしたものかと思案中です」

「ふむ、そんなものかねぇ。しっかしルナティカも表情が暗いとは、どうしたことだい?」


 ロゼッタの問いかけに、ルナティカはふいと顔を背けて出て行った。愛想がないとはいえ、会話を無視するとは珍しいことである。ルナティカの態度に、ロゼッタが肩を竦めて不満を示した。


「なんだありゃ? なんかまずいこと言ったかい?」

「いえ――ルナティカが神経質になるのは珍しいですね。次の相手は誰でしたか」

「ヴァトルカとかいう女らしいぞ?」

「どんな相手ですか?」


 ウィクトリエのその質問に、答えられる者は誰もいなかった。ここまで誰もそれほど注目していない相手だったし、今までどれも接戦で勝ち上がっている。特殊な体術の使い手らしいが、どうやって相手の風船を割っていたのか誰も見ていないらしい。対戦した相手までもがどうして負けたか理解できず、狐につままれたように帰って来たということだった。

 それだけの理由では、ルナティカが不機嫌になる理由がわからない。ただルナティカと同じく、一部が珍しい銀の髪をしているというだけだった。

 それ以外にもめぼしい戦士たちは三回戦を無事勝ち抜けたが、四回戦は見物となる対戦が目白押しだった。巷で評判となっているのは、イェーガーの団長アルフィリースと、獣将を倒した女格闘家ウルス。新進気鋭の女戦士ドロシーと、流麗華麗の女騎士ティーロッサ。大陸最強の女騎士ディオーレに挑むのは、イェーガーの人気者エメラルド。またイェーガーの隊長ロゼッタと、高名な女剣闘士カサンドラ。巨人のダロンと、同じく巨人のミュラーの鉄鋼兵所属ウーナ。

 こういっためぼしい大戦の中、ラインは自分の対戦相手の名前と所属をかみしめていた。


「アレクサンドリア師団長、イヴァンザルドねぇ・・・」


 ラインにはその名前に憶えがあった。確か士官学校の二個下で、主席だった男だ。上級貴族出身の眉目秀麗な男だった。だが飾らず気取らず、また学業も優秀ながら努力家で、剣技が卓越していたと覚えている。何度か指導したことがあるはずだが、将来性に溢れた若者だと記憶していた。


「確か、士官学校を卒業したら辺境配備希望だったな・・・出自を考えれば中央で官僚として出世するはずだが、自らその道を断ったのか。変わった奴だが、師団長まで出世したってことは、実績もそれだけ積んだってことだな。

 なんでそんな将来有望な奴と当たるかな・・・手加減できねぇじゃねぇか」


 ラインは知らず知らず、拳を握り込むほど力を入れながら闘志を燃やしていた。



続く

次回投稿は、7/9(月)16:00です。

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