表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
1641/2685

戦争と平和、その179~会議七日目、昼③~

***


「話を聞こうか、マリア殿。いや、ブラディマリア」

「あら~ばれちゃった?」


 唐突な討魔協会の出現に小休止を入れたアルネリアだが、討魔協会を別室に呼び出すとすぐさまミリアザールとブラディマリアが本性を出した。しらじらしく茶化す態度のブラディマリアに対し、室内に充満するミリアザールの殺気。楓は青ざめながら脂汗がどっと吹き出るのを感じていたが、隣に立つ梔子はそれらもさらりと流してみせる。

 場にはミランダ、アルベルト、エルザ、イライザ、それに浄儀白楽と清条詩乃。にらみ合う二人の女に割って入ったのは、浄儀白楽だった。


「落ち着け、ブラディマリア。ここには話し合いに来たのだ」

「・・・はぁ~い。愛しの旦那様がそうおっしゃるのなら」


 浄儀白楽の諫めに従い、ブラディマリアはぽすんとその場のソファーに座り込んだ。あっさりとした態度にミリアザールも殺気を押さえ、その場に座る。周囲に控えた者が思わず一息ついたのは言うまでもない。下手をすれば、今この場で聖都を破壊しかねない戦いが始まるところだったのだ。

 ミリアザールは梔子に出された茶を飲み、気を取り直すとおもむろに質問した。


「で、本当のお前の目的は何なのだ。ブラディマリア」

「いやぁねえ、いきなり本題に入っちゃう? もっと楽しみましょうよ」

「こちらは冗談を楽しむ暇などない。暇なお前と違い、予定は山積みでな」

「あぁん、そんなに生き急がなくても。早く老けちゃうわよぉ? あ、もう老化は始まっているのか。本来そんなに長く生きないはずの種族だものねぇ。古竜の恩恵も切れてきた?」

「(こやつ・・・)」


 全てを見透かすかのようにニタニタと笑うブラディマリアに、ミリアザールは殺気を押さえるので精一杯だった。ここで殺気立っても相手に弱みを見せるようなものである。ミリアザールは感情を必死に押さえていた。

 そんなやりとりをどう見たのか。浄儀白楽が何事も意に介さないかのように会話に入ってきたのだ。


「・・・互いに思うところはあるだろうが、私としては素直にアルネリアに援助を願いたいと考えている。鬼たちとの戦いは凄惨を極めた。東の大陸では物資も人も足らぬ。経済的に諸国の自立を促せるほどの資源を、討魔協会は持たぬものでな。アルネリアと違い、我々は直轄領をほとんど持っておらぬ」

「ふん。生き残った大名を呼び寄せ、首を一斉に刎ねた暴君の言葉とは思えんな。それに直轄領なら討魔の四家が持っているだろうが。鬼の討伐に際してろくな援助をしておらぬ四家なら、たんまりと貯めこんでいるであろう?」

「これだけの戦の後、何もしておらぬ馬鹿どもが分け前だけをねだって来た。役にも立たぬ俗物共ならいない方がましと考え、処分したまでだ。お前でも同じことをすると思うがな?」

「・・・さて、な」

「それにどこの馬の骨とも知れず、後ろ盾を持たぬ俺には四家は援助をしない。わかりきったことだ」


 そこまで言われ、ミリアザールは腕組みをして考え考え込んだ。東の大陸の事情は、詩乃からの連絡や、諜報員、またはその他の協力者によりある程度の事情は掴んでいる。浄儀白楽の言い分は、それなりに筋が通っていると考えられた。

 仮にブラディマリアの力を使い四家を殲滅したところで、財を動かす者がいなければ全てが無に帰す。実力上の支配者は浄儀白楽でも、経済的な支配者は討魔四家なのだ。浄儀白楽が全てを思い通りにできる立場にないことはミリアザールにも予測できる。いかに浄儀白楽が無双の豪傑でも、それだけでは組織は動かない。

 ただ、浄儀白楽ほどの策士がただの援助を請うためにこの大陸に乗り込んでくるとも考えにくいのも事実。ミリアザールは疑り深く浄儀白楽に問いかけた。


「事情は承った。まずは、そちらの具体的な要望を聞こう」

「まずは我々とそちらの大陸との正式な貿易条約の締結。海路は比較的安全が保障されているが、さらに安定した貿易を行うために武装商船などに関する規定の緩和。できればこちらの大陸にも我々討魔協会の支部を設置したい」

「ふん、遠慮なく言いおったな」

「もちろんタダでとはいわん。現在この大陸が抱える問題を解決する手段と、戦力の提示をしよう」

「具体的にはアタシと、その配下の戦力を提供するわぁ。差し当たっては、残りの黒の魔術士の排除が完了するまでかしらね」


 まさかの提案に、アルネリア側の視線がミリアザールに集まった。黒の魔術士の戦力として最も厄介だと考えられていたのは、そもそもブラディマリアとその配下だ。彼女たちに対抗するため、シュテルヴェーゼと古代の魔獣3体にはアルネリアに留まってもらっていると言っても過言ではない。それだけの相手がこちらにつくと申し出てきた。

 これは好機だろうが、それだけの強力な物達をただ受け入れてもよいものかどうか。判断にミリアザールが悩む中、隣のミランダが発言する。


「私からも質問が」

「お前に発現を許可した覚えはないわよ、人間」


 ブラディマリアからの殺気がミランダを捕える。常人ならそれだけで気絶しそうな圧力だが、ミランダは冷静に質問を続けた。



続く

次回投稿は、6/17(日)18:00です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ