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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その177~会議七日目、昼①~

***


――会議七日目、昼――


 会議が一時休憩に入り、それぞれが昼食をとるために席を外していた。その中でミリアザール、ミランダはそれぞれ梔子と楓を伴い非常に渋い顔をして控室で黙りこくっていた。


「・・・まずいな」

「ええ、非常にまずい」


 午前の会議で、アルネリアは諸国に問い詰められた。万全の警備を謳ったこの会議場が襲撃され、怪我人が出たのだ。しかも襲撃者は捕まっていないと来ている。目下追跡中であり成果を待つとしかアルネリアは言えなかったが、実際には手掛り一つすらなかった。犯人が誰かはなんとなく想像がつくものの、そもそも見つけることもできておらず、たとえ見つけても証拠がなければ裁くことも不可能だった。

 アルネリアは法治国家である。犯人を見つけましたがその場で処分しました、では誰も納得はしない。何が何でも犯人を捕まえる必要があった。

 そして、ミランダには犯人が誰かは見当がついている。


「それで、本当に何も見つからんのか?」

「ええ、今のところはね。その場の記憶を読む魔術にも、精度には限界がある。相手は気配を断ち、一瞬で射かけてその場をすぐに去っているのでしょう。現場には実際の現物だけでなく、記憶すらもろくに残していなかった。

 ただここまでの相手となれば、誰かはもうわかっているも同然だわ。弓技部門で優勝した、あの若者でしょう。たしかトウタ、と名乗ってたけど、本名かどうかもわからないわ。わかっているのは、東方風の若者ということだけ。達人級の狩人なのは間違いないと思うけども」

「そんな情報はいい。犯人をつかまえねば、諸侯もおさまりがつかんだろう。シェーンセレノだけでなく、レイファンやミューゼまでもがこちらを非難してきおった。だがそれも当然、ワシでも立場が同じならそうする。

 明日になっても進展がなければ、ワシらの立場は危うくなるじゃろうな」

「それはそうね。頭の痛い問題だわ。巡礼を他の脅威に向けて配置しなければいけない中で、これ以上人手を割きたくないし――追跡にもっとも向いているのはメイソンかもしれないけど、生かして連れてくるとなるとメイソン一人でも難しいかもしれないわね」


 ミリアザールとミランダがふさぎ込む傍ら、楓が梔子に密かに話しかける。


「梔子様。不思議なのですが、諸国に多大な援助をしているアルネリアを批判して、諸侯にも何かよいことがあるので?」

「楓、あなたはまだ政治的な駆け引きは知らなくてよい――と言いたいけど、そろそろ覚えていくのよいかもしれないわね。イェーガーとの橋渡しもあるだろうし、この会議が終わったら政治学についても指導しましょう。

 今言えることは、人の欲望には限りがなく、立場が上の者ということだけで人からの妬みや誹りを受ける。あなたも口無しの頂点に立つ気があるのなら、それは知っておきなさい」

「・・・梔子様もご経験が?」


 ふと口を突いて出た言葉だが、楓は言ってからしまったと思った。現在の梔子は部下に厳しく、時に冷徹ともいえる仕打ちをすることで知られている。任務の失敗で放逐された者、無言で切って捨てられた者の話など無数にある。役割の性質上仕方がないのだが、今代の梔子は歴代でも格段に優秀だが、人情に欠けすぎているとの評判だった。

 特に、口答えするものには容赦がない。うかつな質問をして、その後姿を見なくなった者もいるというのに、楓は何て質問をしてしまったのだと自分で言ってから焦っていた。

 だが――


「経験ならあります。くだらないことで親友だと思っていた者と決別しました。大切な者も手放す羽目になった。口無しでなければ、と思ったことなど何度あることか。それは誰もが同じかもしれませんが、私はこの生き方以外を知らない。

 あなたがもし梔子になる気があるのなら、どのような梔子になるのかを考えておきなさい。それが考えられない者が梔子となれば、必ず悲惨な口無しが多数生まれます。心に留め置きくがよいでしょう」

「・・・はい」


 思いのほか人間らしい回答を聞いたことに、楓は逆に不思議な気分になっていた。そして思い返せば、梔子の人間らしい言葉を聞いたのはこれが初めてかもしれなかった。この場には自分たち以外誰もいないから――という考えに楓が気付くのは、もう少し先である。

 そしてミリアザールとミランダは少し話し合いをし、軽食を急いで取ると午後の会議に臨んだ。そこでさらなる衝撃が彼女たちを襲うことになる。



続く

次回投稿は、6/13(水)18:00です。

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