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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その173~統一武術大会、本戦三回戦ヤオvsウルス③~


「我々は正直あまり戦闘向きではない種族だ。獣人にしては非力で、人間と大差がない。牙も爪も、それほど鋭いわけじゃない。強いて挙げるとしたら俊敏さと柔軟性さだが、単純な移動速度で我々を上回る種族は多数いる。ヒョウ族やウマ族もそうだし、オオカミ族もそうだ」

「なるほど。ならば戦闘方法はおのずと限られるわね?」

「そう、だから私は関節技を含む、柔軟性を生かした戦い方に活路を見出した。だがヤオは少し違う。ヤオはあくまで速度にこだわり、そして出した結論があれだ」


 ニアが指さす先には、残像を残すほどの速度で動くヤオ。単純な移動速度ではなく、短距離を反復する速度を追求したのだ。その速度がさらにあがり、残像が4、5と増えていく。

 そのヤオを見てウルスも一瞬青ざめかけたが、すぐに防御の姿勢をとった。リュンカと戦った時と同じ戦法だ。

 アルフィリースが疑問を呈する。


「非力な種族というのなら、あの防御を突破することはできるのかしら?」

「それは見てのお楽しみだが、ヤオが早いのは足だけではないぞ?」


 ニアが得意気に笑うと同時に、ヤオが前に出た。遠目に残像を伴うほどの移動速度なら、近距離になれば姿を追うことすら難しいだろう。ウルスの目的は、明らかにヤオの体力切れ。闘技場の端近くに後退したのは、背後の風船を割られないため。もしヤオがうかつに背後に回る様な事があれば、その時は場外を狙うのだろう。

 ウルスの専守防衛の構えに、ヤオが襲い掛かった。


「(ふん。最初こそ驚いたが、いかに早く移動しようが、この『不動』を突破することはそうできんぞ。まして昨日のリュンカより非力な種族、下手をすれば打ち込んだ拳の方が痛むだけだ。

 息継ぎの瞬間、一撃を放り込む。それで圧倒的に有利に戦える)」


 ウルスがそう作戦を立ててヤオを迎撃しようとした瞬間、ウルスの体に十数発もの衝撃が同時に襲ってきた。


「(!?)」


 信じられないことだが、ほとんど時間差なく拳が叩き込まれたことになる。一つ一つの威力は小さいが、同時に襲ってくるとなると話が違う。しかも、とてもではないが捌ききれる速度ではない。


「(移動だけでなく、打撃速度も異常に速い! 昨日の獣将の非じゃない。こんな獣人が、平兵士だと?)」


 正確には平兵士ではなく、グルーザルドに帰国した際には五百人隊長に相当する役職が用意されているのだが、ヤオですら知らない事情をウルスが知るはずもない。

 そんな考えを抱くうちにも、ヤオの見えない連撃がウルスに命中し続ける。嵐が突然発生したかのような凄まじい攻勢に、観衆から大いに声援が上がった。


「凄いぞ!」

「相手は防戦一方だ!」


 大いに盛り上がる観衆の声援を受けるかのように、ヤオの勢いが徐々に増していく。既に獣人の常識すら凌駕する速度に、イェーガーの仲間からは応援よりも感嘆のため息が漏れていた。


「なんだあの速さ・・・」

「冗談じゃない、俺たちとの手合せじゃ手加減してたってのか?」

「それはそうだ。ヤオが本気で動くとついていける戦士はイェーガーの中にはいない。だからヤオは速度ではなく、多対一での戦いや、純粋な技術を上達させるための訓練、あるいは人間の武器を持っている相手を想定した訓練を行っていたんだ。

 だから手加減というよりは、今できる訓練を行っていただけだ。もっともたまには速度重視の訓練も独りでしていたようだがな」


 ニアの言葉に納得できるような、歯がゆい思いをしたようなイェーガーの戦士たち。何人かの戦士は、冷静にヤオの戦いを分析する。


「でもあれほどの速度で動くと、相手が不意にだした拳にぶつかるだけでも致命的になるのでは? それにどれほど手数が多くても、致命的な一撃がなければあの防御を突破できるようには思えません」


 ウィクトリエの指摘も最もだった。だがニアはその意見を否定するように、得意そうに笑ったのだ。



続く

次回投稿は、6/5(火)19:00です。

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