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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その171~統一武術大会、本戦三回戦ヤオvsウルス①~

***


 アルフィリースが自分の控室に引き上げると、そこにはヤオがいた。試合は次の次、控え室は逆だと思っていたが、尾が左右にはためくところを見ると、どうやら言いたいことがあるらしい。姉妹揃って、こういうところは似ている。

 アルフィリースは微笑ましい気分でヤオに話しかけた。


「ヤオじゃない」

「さすが団長殿。圧勝だった」

「作戦が上手くいってよかったわ。本当に有効かどうかは賭けだったから。それより試合の準備はいいのかしら? 控室は反対のはずだけど」

「一言、言っておきたいことがあって」


 ヤオは深呼吸すると、真摯な眼差しをアルフィリースに向けた。


「私は団長殿――アルフィリースと全力で戦ってみたい。訓練の手合せではなく、真剣勝負の場で。今ならニア姉さんがアルフィリースと旅をした理由がよくわかる。人間の戦士としては私が見た中でアルフィリースが一番なんだ」

「あら、随分と高く買われたものね? 私よりも強い人はここにいっぱいいると思うけど」

「お世辞じゃない、私は世辞は苦手だ。だからこそ次の試合に勝って、必ず願いを叶えてみせる。私がもう一つ強くなるには、アルフィリースと真剣勝負をする必要がありそうだから。

 言いたいことはそれだけ。じゃあ後で」


 ヤオはアルフィリースの返事を待つことなくくるりと踵を返すと、足早に去ってしまった。ヤオなりの決意表明であることはアルフィリースにもわかっていたが、獣人にしては真面目な性格は苦労が多いだろうと、小さくため息を出していた。ヤオがもう一つ強くなるには、その生真面目な性格こそが邪魔なのだろうとアルフィリースは思うのだが。

 そしてアルフィリースの視線は、控室の隅にいる一人の女戦士に向けられる。ヤオと戦う、獣将を倒した女格闘家ウルス。アルフィリースはアルネリアからの情報で、彼女達が『拳を奉じる一族』なる戦闘集団で、かつティタニアの縁戚に当たることを聞いてはいたが、それ以上にアルフィリースがウルスに興味を持っていたのだ。

 アルフィリースは大股で瞑想中のウルスに近づいた。ウルスは瞑想しながらも張り詰めた空気を発しており、おおよその者達は話しかける雰囲気ですらなかったのだが、アルフィリースはその空気を遠慮なく突破し、友人にでも話しかけるように声をかけた。


「あなたがウルス?」

「・・・」

「何用ですか?」


 ウルスの傍に控えているのは、弟のマイルス。予選でダロンに負けた少年だが、彼のこともアルフィリースは聞いている。外見は少年でも、ひとたび襲われれば怪我では済まないだけの実力は備えている。ウルスの瞑想を邪魔したのがマイルスには気に食わなかったのか、想像以上に鋭い殺気を発してアルフィリースを牽制していた。

 だがその殺気すらもアルフィリースは無視する。


「用はないわ。ただ挨拶をしておきたくて」

「瞑想中です。あなたも戦士ならわかるでしょう? 邪魔をしないでください」

「坊やに用はないわ、引っ込んでいなさい。それに邪魔されたくないのなら、ぎりぎりまで控室にこなければいいのよ。人がこんなにいるところに来ておいて邪魔するななんて、虫が良すぎると思わない?」

「く、礼儀知らずの人ですね。これ以上邪魔するのなら腕ずくでも――」

「やめなさい、マイルス」


 ウルスが瞑想をやめてゆっくりと目を開けた。マイルスはアルフィリースに向き直りかけた体を、姉の方に向けた。


「しかし姉さん、この人は」

「いえ、この女傭兵の言う通りよ。声をかけるのもかけないのも、その人の勝手。誰にも邪魔されたくないのなら、他所に行くべきだわ。

 だけど私に何の用かしら? 本当に用がないわけではないのでしょう?」

「話してみたいってのが一番の理由。そのついでに一つ、私と賭けをしてほしいと思って」


 アルフィリースの言葉に怪訝そうな表情を浮かべるウルス。アルフィリースはウルスが何かを言う前に、強引に次の言葉を紡いだ。


「私があなたと戦って私が勝ったら、一つ頼み事を聞いてほしいのだけど」

「――おかしなことを言う。これから私は試合だし、その相手はあなたの傭兵団に所属している戦士ではないのか。それを差し置いて私と戦うだと?」

「だから、その次の試合の話よ。勝てば四回戦は私とでしょう?」


 アルフィリースの発言の意図がマイルスには理解できず、不安そうに姉の方を見た。だがウルスはその意図を理解したのか、興味深そうにアルフィリースの方を見つめていた。

 ウルスは今度は自分から質問していた。


「そうだな。では私が勝ったら?」

「なんでも言うことを聞くわ。お金でもいいし、イェーガーを巻き込んでできることでもいいし、なんなら私の裸踊りでも」

「裸踊りは結構だ、誰もお前の裸など見たくない」

「なによ。やりたいわけじゃないけど、傷つくわね」


 アルフィリースがふてくされたので、それを見て小さくウルスが笑っていた。マイルスは気付く。姉であるウルスが一族以外の他人に興味を示し、口元をほころばせるなどいつ以来だろうか。

 ウルスは続けた。



続く

次回投稿は、6/1(金)19:00です。

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