表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
1632/2685

戦争と平和、その170~統一武術大会、本戦三回戦ジェイクvsアルフィリース②~

「・・・なんで?」


 ジェイクは呆然と空を見上げていた。負けた理由はわかる。アルフィリースの使った武器に対応できなかったからだ。だがどうしてそんな武器を持ち込んだのか、またその武器を扱えるのかがジェイクには理解できなかった。

 闘技場に横たわって呆然と空を見上げるジェイクをのぞき込むように、アルフィリースが立っている。その笑顔は晴れやかだったので、ジェイクは確信をもってアルフィリースが戦っていたのだとわかった。


「どうして俺は負けたの?」

「あなたが真面目すぎるのよ――というのは可哀想だけど、あなたは騎士団以外の相手と訓練したことがあるかしら? いえ、剣使い以外と訓練しているか、と言い換えてもいいわね」

「剣以外――そういえば、してないな」


 ジェイクは自分で言ってはっとしたが、ジェイクの答えにアルフィリースは笑顔を見せた。


「私は基本的に剣を使うけど、練習では色々な得物を使うのよね。変わった武器があれば仕入れてみるし、色々と開発もしているわ。だからかしら、どんな相手にどんな武器で戦うべきか、思いつくのよね」

「で、あの武器か」

「そ、真面目な騎士様に効果的でしょ?」


 アルフィリースが持ち込んだのは、大きな輪っかに通した、重し付きの複数本の縄である。先端にはある程度の重量をつけているが、途中はわざと縄を荒くしてひっかかりやすいように作ってある。縄は攻撃性のある素材としては認識されなかったため、今回の大会でも使用可能と認められた。

 これらを大量に絡みつけられ、身動きのとれなくなったジェイクはなすすべもなく場外に引きずり出されたのである。


「捕縛縄の改良型だけど、規定では問題なかったから使わせてもらったわ。刃の立っていない剣ではどうしようもないでしょう?」

「そうだね。まさかこんな形で負けるとは思わなかった」

「経験の差よ。あと、職業。騎士じゃあこんな戦いの訓練はしないでしょうし」

「うーん、負けた気がしないなぁ」

「よくわかるわ」


 アルフィリースは絡まったジェイクの縄をほどきながら、手を貸してやった。会場はすっきりしないのか拍手はまばらにしか起きなかったが、アルフィリースとジェイクの両方を知る人間たちからは納得の結果だった。


「やはりこうなりましたか・・・アルフィリースが狡いのはわかっていましたが、ジェイクに彼女の十分の一でも不真面目さがあればいいのですが」

「一点特化か多様性か。競技会ならば規則にもよって勝敗が変わるだろうが、実際の戦場では応用がきく方が強い。生死のかからぬ競技会でそのことが学べたのは大きいな。まぁ絶対的な正解はないから、結局は自分次第なのだが」


 リサとティタニアが別々の場所でそれぞれの感想を述べていた。こうしてジェイクにとって、初めての統一武術大会は終了したのあった。

 ジェイクが控室に戻ると、そこにはギャスが待っていた。彼は軽く拍手をしながら、ジェイクを出迎えた。


「よう、お疲れさん」

「なーんかすっきりしない。まだ負けた気分にならない」


 狐につままれたように呆気にとられたままのジェイクの表情を見て、ギャスは首を横に振った。


「いやいや、どこからどう見てもお前の完敗だ。お前は腕試しがしたかったんだろうが、あの黒髪の姉さんは全力で勝ちに来ている。競技の規則を確認し、あらゆる手段を用いてお前を倒しに来た。傭兵ってのは騎士とは違うからな。お前は剣で腕試しをしようとした、その差が出たのさ。ある意味じゃ魔物より怖いだろ?」

「ああ、そうだな」

「で、そんなお前に任務だ。クルムスのレイファン王女のところに出向し、会議期間中、つきっきりで護衛をしろだとよ」

「は? 今更?」


 ジェイクは命令の内容に疑問を感じ、思わず聞き返していた。


「レイファン王女には国から護衛が来ている。それに、イェーガーが――それこそアルフィリースが護衛についているじゃないか。今更神殿騎士団が護衛について、意味があるのか?」

「何言ってやがる。それを考えるのは俺らの仕事じゃないし、お前は上からの命令に意義を唱えられるほど偉いのか? ちょっと出世したからって勘違いしているんじゃないのか?」


 ギャスの言葉に、ジェイクははっとした。確かに仕事の選択制は上がったし、自らの意見を求められる立場にもなったが、根本的に任務を拒否できる立場にはない。ジェイクは素直にギャスの言葉に従った。


「そうだな、ギャスの言う通りだ。忘れてくれ」

「それでいい。が、確かに俺も疑問はある。なぜ今更護衛なのか。別にレイファン王女の元に、誰かが出向している様子はないしな。新しく護衛をわざわざつけたってことだ。

 考えられる理由は複数あるが、俺も意図は汲みかねる。お前こそ思い当らないのか?」

「さぁ? リサにでも聞いてみるさ」


 ジェイクは首を傾げながら、既に負けた悔しさを振り払い、自らの任務に集中しようとしていた。



続く

次回投稿は5/30(水)19:00です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ