戦争と平和、その163~会議七日目、早朝②~
「少し考えればわかることだ。人間は他種族に比べて寿命が短い。だからこそ懸命に生きて、そして死ぬようにできている。人生とは、少し悔いが残るくらいの長さが丁度いいのだ。人間が数百年生きたところで、何も良いところはないだろうさ。
それに我々精霊は長命となることで、自然に還った時に大いなる力の一部となることがあるが、人間は死ねばただの肉の塊だ。堆肥と同じ、地面に少しの養分となって死ぬだけ。いや、骨が土に還るのには非常に時間がかかるから、効率は悪いな。人間は火葬しないかぎり疫病の元にもなるし、普通の生物よりもタチが悪い」
「ピグノム、そんな言い方はないでしょうに」
ディオーレが優しく窘めたが、ピグノムはやめるつもりはないらしい。
「人間ほど何も自然とつながっていない生き物も珍しい。だからこそ自然を傷つけ、駆逐しても何とも感じないのだろう。森を切り開き、川を埋め立て、山を切り崩して風の流れすら変えてしまう。どんな生き物でもそこまで愚かなことはやらん、たとえ人間よりはるかに力をもつ生き物でもな。畏れを知らんお前達は幸福だ。
だが同時に人間は不幸でもある。帰依すべき思想も属性も持たず、糞をひりながら死んでいくのがお前たち人間だ。どうだ。そんな憐れな人生を永らえたところで、何かいいことがあると思うか?」
「ピグノム!」
ディオーレが強い口調で精霊を窘めた。さすがに言い過ぎと思ったのか、それとも話し疲れたのか。ピグノムは帽子を目深にかぶり、そのまま黙ってしまった。
ディオーレはため息をつくと、エアリアルとウィンティアに謝罪した。
「すまない。根は良い奴だが、口がいかんせん悪い。それに元来人間嫌いでな。気分を悪くしたと思う、許してくれ」
「いや、大草原を出てから同じことを思う時もある。我も元々普通の人間とは感覚が違うからな、別に不快ではないさ。それに永く生きるべきではないというのは、我も同じ気持ちだ。我はアルフィリースの手伝いがしたいだけ。それが終われば力を返し、人間に戻ろうと思う」
エアリアルの言い分に、ピグノムはディオーレとウィンティアの顔を交互に見た。ピグノムが厳しい表情をしたので、ディオーレは決まりが悪そうに顔をそらした。それはウィンティアも同様である。
「お前ら、精霊騎士の条件をきちんと説明していないのか?」
「う、すまない。ここまで意志が固いとは思っていなかった」
「同様だわ。エアリアルがここまで何かにこだわることはなかったし、私は十分にアルフィリースの役に立っていると思っているから。人間は適材適所。これ以上力を求めても使う場所がないかもしれないのに」
「ち、そういうことか。ならきちんと説明してやらないとな」
ピグノムは不満そうにエアリアルに向き直った。その表情には嫌悪感とも憐れみともとれない色が見えたが、どうやらエアリアルのことを慮っての行動であることは伝わっていた。
「精霊騎士になる条件を知っているか?」
「上位精霊に承認され、契約することだろう?」
「おおまかにはそうだが、正確には違う。精霊に承認させればよいのだから、実際には強制しても構わんのだ。
かつては精霊と有効な関係を結び、その力を行使する者を精霊使いと称し、精霊を何らかの方法で強制的に使役する者を精奴使いとして蔑んだ。それはまた別の話だが、精霊の力を借りるだけなら他にも方法があるということだ。
では精霊騎士とは何か。理解しているか?」
「・・・果たすべき誓約のようなものがあると?」
エアリアルの発言に、ピグノムが頷いた。
「そうだ。精霊使いは力を借りることができるが、精霊が身を削って力を貸すことはない。ゆえに仕えても大きな力は行使できず、また精霊との相性がよくて大きすぎる力を貸そうとすると、術者自身の許容量を超えて問題が起こることもままある。実は非常に使い勝手が悪いのだ。
だから精霊を強制的に隷属させる方法が開発された。そうなると当然、精霊は身を削り死んでいく。また自然と切り離された精霊は力を失うから、強制的に隷属させてもやがて本末転倒になるのさ。そして人間を警戒した精霊たちはやがて人間に語り掛けなくなっていった。これに気付いた人間たちは、精奴使いを蔑み、禁止した。これが今の魔術士の主流だ。
対して精霊騎士というのは、契約の一つの形だ。互いに制約と誓約を掛け合うことでより強力な力を行使する。制約の形は様々だが、まず人間にとって肝心なことは老いもせず、肉体は自分の最高潮の状態を保てる代わりに、自決もできなければ契約の解除もできないということ。これは精霊と人間の互いの合意があっても同じだ。他にも一定距離を離れることができなかったり、あるいは一定時間おきに会わなくてはいけない、などもあるな。
そして誓約だが――」
ピグノムはちらりとディオーレの方を見たが、ピグノムの話を遮るつもりもないらしい。
続く
次回投稿は、5/16(水)20:00です。