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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
1624/2685

戦争と平和、その162~会議七日目、早朝①~

***


 明けて早朝。会議は7日目に入り、折り返しの日となった。また統一武術大会は本戦三回戦となり、対戦もそれなりに名のある者同士の組み合わせが目立つ。ここまで競技が進むと残った競技者も名が知れ始め、観衆の口にも具体的な名前が出てくるようになる。

 だがそんな喧噪もまだなりを潜め、アルネリアには珍しく霧けぶるこの朝に、エアリアルは人と待ち合わせをしていた。霧があろうが風を読むエアリアルが場所を間違えることはありえないが、相手にもさほどの心配はしていない。むしろ大地を読む相手にとっては好都合だろうと、エアリアルがそんな気遣いを見せていた。

 そして早朝6点鍾が遠くで鳴ると同時に姿を現したのは、アレクサンドリアの将軍ディオーレ。大草原の守護者であるエアリアルが頭を垂れることは滅多にないのだが、呼び出した側の礼儀として一礼するくらいの常識は身に着けた。そしてディオーレを前にすると、エアリアルさえも彼女の発する威厳を前には身が固くなる思いを抱いた。

 ディオーレは周囲を見渡すと、エアリアルに楽にするように促した。といっても、腰かける場所すらない木陰だった。

 こんな場所にエアリアルがディオーレを呼び出したのはわけがある。それは木の上にいる人物にも関係していることだった。ディオーレが木の上をちらりと見ると、話し始めた。


「待たせたか?」

「いえ、さほどは」

「さて、呼び出した要件はわかっているつもりだ。精霊騎士の件、納得できなかったのか」

「はい。今一度お聞かせ願いたい。なぜ我が精霊騎士に向いていないとお考えか」


 エアリアルは数日前、ディオーレに精霊騎士のなんたるかを聞く機会を得た。求めたのはエアリアルだが、多忙なディオーレが何を考えて語ることにしたのか、エアリアルにはわからない。見どころがあったのか、ただの気まぐれなのか。だがかねてよりさらなる力を求めてウィンティアとの契約を考えていたエアリアルとしては、ディオーレの話は参考になると考えていた。

 だがディオーレはしばしエアリアルの手を取り、その瞳をじっと見据えていたが、ふぅとため息をつくと、「やめておけ、向いていない」とだけ伝えて去っていった。後に残されたエアリアルはしばし呆然としてしまい、その理由を聞くことすらままならなかった。

 だがらこそ今日はその理由を聞こうと思ったのだ。まさかウィンティアにも同じようなことを言われていたが、それで納得できるエアリアルではなかった。そう考えたから、今日はウィンティアも連れてきた。


「ウィンティア」

「私を朝から連れ出したと思ったら、こういうことなのね」


 木の上で腰かけていたウィンティアが、風を纏ってひらりと降りてくる。朝から半ば強引にエアリアルに連れ出されたウィンティアだが、なんとなくその理由はわかっていた。だがエアリアルに期待させた分その責任があるかと思い、付き合ったのだ。

 ディオーレは上級精霊であるウィンティアの姿を見ると、頭を垂れて礼を示した。扱う系統が異なるとはいえ、精霊に対する敬意は少しも変わらない。


「お初にお目にかかります。大地の精霊騎士ディオーレ=ナイトロード=ブリガンディと申します。お目にかかれて恐悦至極。

 わが友人はピグノムと申します大地の精霊。ご挨拶させていただきたく存じますが」

「かしこまらないで。上級精霊同士顔を合わせるのは珍しくもあり、感慨深くもあるわ。ぜひともこちらからお願い申し上げます」

「それでは」


 ディオーレが軽く会釈すると、その背後で土が腰の高さほどに盛り上がり、中に空洞が出現した。その中をのそのそと歩いて初老に見える男が出てきたのだ。

 男は無愛想な瞳をウィンティアに向けると、名乗った。


「・・・ピグノムだ」

「ウィンティアです。よろしくお願いいたします」

「ふん、よろしくするようなことなど何もない。大地と風は相性が悪い。出向いてもらった礼儀こそ返すが、もう帰ってもいいか、ディオーレ」

「そう言わないでくれ、友よ。あなたの姿を見るのは私も久しぶりだ。しばし話し相手になってくれないか」


 愛想の全くないピグノムに対しディオーレが苦笑したが、その表情を見て配慮したのか、ピグノムは指をちょいと上げると、地面が程よい高さに盛り上がり、そこに腰かけて腕組みをした。


「話も何も簡単なことだ。そこの娘が精霊騎士に向いていないということだろう」

「あなたも同じことをおっしゃるのか? その理由を聞きたいのだ」

「ふん、理由など簡単だ。精霊騎士などに向いている人間など、そもそも一人もいはしない。そこのディオーレが精霊騎士になる時も、俺は反対した。それを強引に契約を結びやがったのさ。そのせいでこの体たらくだ。お前にはディオーレが幸せそうに見えるのか?」


 思いがけないピグノムの言葉に、エアリアルは戸惑った。だがディオーレも反論することはなく、その言葉を黙って聞いている。

 ピグノムはディオーレの様子を長い眉に隠れた瞳で伺いながら、話し続けた。



続く

次回投稿は、5/14(月)20:00です。

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