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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その160~会議六日目、夜⑦~

 ベルゲイはしばしの間黙していたが、やがて何かを決意したようにその重い口を開いた。


「――我々の一族のことを、どこまで知っている?」

「魔王を倒すために武器を収集していた一族、と聞いているわ。今では滅亡したとも。拳を奉じる一族っていうのは、最近その存在を知ったのだけど」

「そうだ。元々は魔王どもが跋扈した時代、奴らを打倒するために考えられた方法論の一つだ。世にある強力な武器、防具などを収集し、魔王を倒しうる者に与える。それが剣を奉じる一族の使命だ。最も槍や斧を奉じる一族などもあったが、役割が違うだけで同じ場所で生活をしていた。家名が違うだけで、同じ一族だった。

 我々だけは少し目的が違った。自らの肉体を鍛え、来たるべき者が出現した際に、その供をすることを目的とした。そのため我々だけは、少し彼らとは離れたところで生活をしていた。そのおかげで、現在まで恥をさらすことにもなったのだが」

「当時、何があったの?」


 ミランダはなんとなく何があったかを察していたが、そこはあえてベルゲイに問いただした。ベルゲイがこちらをそれなりにでも信用してくれるなら、話を聞かせてくれるだろうと期待したのだ。

 そしてベルゲイはやや迷っていたが、その口で事情を説明し始めた。


「ティタニアは――奴は、一族の裏切り者だ」

「裏切り者? 一族最強の使い手ではないの?」

「それは奴の父親と、兄たちのことだ。奴の兄たちはそれこそ尋常ではない使い手だったと聞く。黄金の大剣、漆黒の大剣。それらはかつて奴の父が使い、その後兄2人に継承されたものだ。ティタニアは旅には同行していたが、ただの荷運びだったと聞いている。母が早くに亡くなっていたから、物心つかないティタニア里に置いておくのも不憫だと思ったのだろう。奴らの仕事は武器の収集で、いつ里に帰るとも知れなかったからな。

 父は病で命を落としたが、兄2人はティタニアが殺したと記録には残っている。当時ティタニアは12歳そこそこ。あの屈強な兄2人を殺せるような年齢ではない。何かしら卑怯な方法を用いて殺したのだろうと、里の者は言っていた。正当な方法で殺したのなら双方の大剣がティタニアを所有者として認めるだろうが、ティタニアを捕縛した時に大剣はまるで力を発揮しないどころか、枷になったらしいからな。

 そしてその罪で幽閉されたティタニアは数年間大人しくしていたが、何をどうしたのかある日剣を奉じる一族を皆殺しにし、そして宝剣の全てを奪って逃走した。里の者は赤子に至るまで皆殺しになっていたそうだ。里が別だったため生き残った我々は、それから千年近くティタニアとの因縁が続いている。奴を倒すことこそが、残された我々の使命となったのだ。

 奴を殺し、宝剣の奪取と封印を奪い取るまでは、我々は何が起きても止まることができん」

「封印――やはりあるのね」


 ミランダの表情が暗くなった。まさかとは思っていたが、報告は全て正しかったのだ。ベルゲイも神妙な面持ちで頷いた。


「ある――大魔王ペルパーギス。人の記録に残る中では最古の一体だ。あらゆる攻撃を反射し、誰も傷つけることができなかったと言われる不滅の魔王を封印した何らかを、ティタニアは有しているはずだ。封印の方法は我々とティタニアしか知らぬから、なんとしても我々が奪取する必要がある。

 もし奪取できなければ、当時の人類全戦力で倒せなかった大魔王が復活してしまう。それだけは避けなければいけない」

「報告は本当だったか・・・どうしたものかな」


 ミランダは肘をついて組んだ腕に、額をぐりぐりと押し付けて悩んだ。現在の魔王や黒の魔術士、それにローマンズランドや討魔協会の対応だけでも頭が痛いのに、この期に及んでさらに大魔王の存在など考えたくもない。

 だがこれが人を率いるということなのだから覚悟はしていたが、いざ率いてみると面倒このうえなかった。だがここで折れてはアルフィリースを助けることなどできはしないと、ミランダは顔を上げた。


「つまり、やるべきことはティタニアの討伐と、その大魔王ペルパーギスを封印した何かの奪取、そういうことね?」

「そうだ。一見してティタニアが大荷物を持っているようには見えないから、身に着けられる程度の大きさの何かだと考えている」

「ならば、できれば無力化して捕縛が望ましいのね・・・こりゃ無理難題だわ」

「アルネリアは結界などの魔術に詳しいのだろう。捕縛するのに効果的な魔術はないのか」

「あるにはありますけどね・・・実行可能かどうかは別問題だわ」


 仕掛けるにはそれなりの人数と、場所が必要だ。それに大魔術となれば、周囲に気付かれることは必定。もしティタニアの捕縛作戦中に、他に大きな事件があれば対応ができない。仕掛けるのであえば、イェーガーとの連携作業が必須になる。

 それに、ティタニアの自由を奪うほどの捕縛結界となれば、誰か囮が必要だろう。おそらくは、囮は魔術に巻き込まれれば圧力に耐えかねて死ぬ。ミランダはちらりとベルゲイを見た。


「(やるなら彼らが囮だけど、もしそうするなら一人も生き残らせるわけにはいかないわね。一人生き残れば恨みを買う。まぁどのみち考えていた作戦の一つではあるけど、この男が大人しくかかってくれるかどうか。賭けね)」

「どうした、まだ何かあるのか?」

「いえ、何も。楓、彼らの元にいかせる人間を見繕って紹介なさい。口が堅い人を選ぶように」

「かしこまりました」


 楓が頭を下げると、外を確認してベルゲイを外に連れていく。一応秘密の会合であるゆえ、誰にも知られるわけにはいかなかった。

 楓とベルゲイがいなくなった後、アルベルトが口を開いた。



続く

次回投稿は、5/10(木)20:00です。

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