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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その159~会議六日目、夜⑥~

「ミランダ様」

「なにかしら、アルベルト」

「剣帝を仕留めるのであれば、私に命じていただければ仕留めてまいりますが」


 アルベルトの申し出にミランダは背後を振りむいた。ミランダの目に映るのは、いつもと同じく誠実な騎士だった。アルベルトが強くなったのは知っている。だがその自信がこの発言の後押しをしたわけでもないとまた、ミランダは知っているのだ。アルベルトはただ、ミランダの命令があれば可能かどうかではなく、剣帝を仕留めるために全力を尽くす。たとえ結果、自分が死ぬことになろうとも。

 だがミランダは、こんなところでアルベルトを失うつもりはない。


「よしなさい、アルベルト。あなたならひょっとしたら仕留めるかもしれないけど、問題は仕留めた後よ。剣帝を仕留めたらどうなるか、可能性の話はしたわね?」

「剣を奉じる一族の由来、ですか。確かに聞きましたが、事実なのでしょうか」


 アルベルトですら半信半疑の報告だったが、ミランダは手元にある資料を見て再度考える。今まで剣帝に関する疑問はあった。どうしてただの人間がこれほど長寿なのか。そして剣を奉じる一族とは何なのか。そしてあれほどの剣の使い手が、どうしてティタニア以外誰もいないのか。最初はミランダも報告を受けても、アルベルトと同じく半信半疑だったのだ。

 だが拳を奉じる一族の出現を受けて、報告書は確信に変わった。そしてこれからの話合い次第で、剣帝の秘密に迫ることもできるだろう。

 その時、扉をノックする音があった。


「大司教、お客様をお連れしました」

「お通ししなさい」


 声の主は楓である。楓は扉を開くと、中に屈強な一人の男を通した。男はローブをかぶったままだが、ミランダは立ち上がり客を迎えた。


「呼び出して悪かったわね。でも会場の近くじゃ防音が完璧じゃないと思ったのでね」

「構わん。こちらも機会があれば一度話をしておきたかった。ところで、ここにはお前たちだけか?」

「ええ、私たちだけよ。最高教主もここにはいないわ、現場は全て私に一任されているから。信頼できる者だけだから、せめてローブはもう外しても構わないわ。魔術対策もここより強固なところはないでしょうよ」

「ふむ、では失礼する」


 男がローブをとると、それは拳を奉じる一族の長であるベルゲイだった。白髪となった髪を顔に皺を見るに老齢が近いだろうが、鍛え上げられた肉体には一部の衰えも見られない。強い光を宿した双眸は、ミランダが見てきた強者のそれと一致する。

 楓とアルベルトを背後に立たせると、ミランダとベルゲイは席についた。楓がお茶をベルゲイに勧めたが、ベルゲイはそれをそっと端にどかした。どうやら自分が知らぬ飲み物を口にする気はないらしい。毒の類は当然入れてないのだが、用心深い男だ。同時に、こちらも一切信用していないということだろう。

 ミランダが口火をきろうとして、先にベルゲイが口を開いた。


「さて。せっかくお呼びだていただいたのだが、こんな老骨にアルネリア教のような大きな集団に貢献できる何かがあるとは思わんのだ。その点ははっきりとさせておきたい。

 我々の目的は一つ、剣帝の抹殺のみ。貴殿らに迷惑をかける気はないのだが」

「はっきり言うのね、嫌いじゃないわ。でも過小評価は感心しないし、剣帝の抹殺をこれだけの衆目の中、密かにやるのは不可能よ。そのくらい理解しているでしょう? 自分たちだけでなんとかしたいのなら、剣帝を個人を追えばよいだけの話。だけどあなたたちにはそれをするだけの情報収集力がなく、剣帝がここに来る可能性に望みを託してここに来た。違うかしら?」

「・・・」


 ベルゲイは黙っていた。反論ができないのだろうと、ミランダは理解する。同時に言い訳をしない、愚直なまでに潔い性格だとも。


「私たちとて剣帝がここに来るかどうかには確証はなかった。あなたたちとて確証はなかったけど、ここに来ざるを得なかった。既に我々の協力なしには剣帝討伐はなしえない。違うかしら?」

「・・・恩を着せるつもりか?」


 睨みつけ殺気を放ち始めるベルゲイに、ミランダも負けじと睨み返す。後ろでは楓とアルベルトが武器に手をかけたが、ミランダがそれを制した。


「ええ、そうよ。そのお詫びと言っては何だけど、先手はうたせてあげるわ。その代り、周囲の封鎖はやってあげる。心置きなく戦うといいわ」

「なるほど、捨て駒にするつもりか」

「人聞きが悪いわね。元々あなたたちだけで戦うつもりだったのなら、捨て駒も何もないでしょう? それに連携しようにも、互いに切り札を見せあうほどの信頼感もないはずだわ。そんな中途半端な連携、ティタニアに突かれて終わりよ。共倒れになるのは御免だわ」

「なるほど、その通りだ」


 ベルゲイが頷く。先ほどよりは殺気が薄まったが、まだ警戒は解いていないようだ。


「では仕掛ける時と場所が決定したら、誰かに連絡したい。誰がいいかな?」

「こちらから連絡員をつけるわ。後でそちらの宿に向かわせましょう」

「ふん、塒も押さえておくつもりか。まぁいいだろう。急に時と場所が決まっても対応してくれるのならな」

「最初からそのつもりよ。むしろあなたたちがいなくても、こちらは仕掛けるつもりだったのだから」

「話は終わりか? ならば一時的な共闘関係を築いたということで、私は帰ってもよいか?」


 ベルゲイがフードをかぶりなおしたので、ミランダが先ほどの書類をちらつかせた。


「ええ、それはいいのだけどね。一つ教えてほしいのは、ティタニアを倒した後に何が起きるのかということよ。そこまで対策を練っていないと、本当の意味で討伐したとは言えないわ。あなたたちはそこから先、何らかの手段を持っているのかしら?」


 ミランダの言葉に、ベルゲイの顔色が初めて変わった。なぜそこまで知っているのかと言いたげな表情だったが、それを口にすることはない。だからミランダはこの報告が真実なのだと確信した。



続く

次回投稿は、5/8(火)21:00です。

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