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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その157~会議六日目、夜④~

 アルフィリースはため息をつきながら、パンドラにさらに質問した。


「まぁ期待に沿えるかどうかわからないけど。それに私は傭兵だから、報酬が気に入らなければ働かないわ。その点は理解しているかしら?」

「もちろんだ。じゃあまず俺のお得な能力を解説しておくぜ。俺はなんといっても遺物の中でも格段に古い存在だ。俺の頭脳に詰まっている情報量も半端じゃないが、そちらは破損していたり、思い出せなかったりする。人間の記憶に似ているが、ひょんなことで修復されることもあるから、神代の事実なんかを教えられることもあるかもな」

「あー、期待しないで待ってるわ」


 気怠そうな返答は、アルフィリースの心からの感想である。あてのないものを期待するほど、アルフィリースは夢想家ではない。だがパンドラはめげずに自分の能力を解説し続ける。


「もう一つ。俺にはほぼ無限に物を収容することが可能だ。生物を入れることはできないが、有機体以外なら可能だ。有機体でも死んでるなら、物扱いにできるな」

「! それは・・・かなり有用な能力ね」


 アルフィリースはすぐさまパンドラの活用方法を考える。たとえば素手だと思っていても、パンドラさえどこかに身につけておけるなら、武器を取り出すことが可能となるということだ。しかも、無制限に。使い方次第では戦況をひっくり返すことも可能となるだろう。アルフィリースは心の中でほくそえんでいた。

 その前で、パンドラは得意げに腕を組んでいる。


「だろ? あとは大きさもある程度変えることができる。小さくなるなら耳飾り程度にまで小さくなれる。デカいのなら、人間が入れる大きさだな。

 ちなみに持ち主の潜在能力を読んで、その力を引き出すことも可能だ。エーリュアレの嬢ちゃんにやったやつだな」

「へぇ。それ、私にもできる?」

「あんたさ、わかってて言ってるだろ? あんたは無理だ、というか意味がない。俺ができるのは、あくまでその人間の元々の能力の最大値を引き出すんだ。魔術で身体能力を強化し、感覚をそっちに慣らそうなんざ、普通の人間じゃ発想しない。魔術分の上乗せまで俺は読むことはできないぞ?

 そもそもがその戦い方が危険極まりない行為だってこと、理解しているんだろ? 体の元の能力を底上げするなんて、体の中をいじって合成獣――魔王を作り出すのと大して変わらん行為だ。体の変調は感じているはずだ。もうあんたの元の能力がどんなものだったか、俺には測りかねるよ」

「そこまでわかるのなら本物ね」


 アルフィリースは自身の変化に気付いていた。影と修行をするようになって間もなく、ヤオの体捌きをはっきりと目で追えるようになった。それだけなら速さに慣れたのかと感じていたが、明らかに体の強度が変わった。一度不意打ちでヤオの打撃を急所にくらったのだが、ほとんど痛痒を感じなかった。影との修行は精神的、感覚的な底上げだと思っていたのに、獣人の一撃を急所に食らってそれほど痛手でないのは説明がつかない。

 アルフィリースは、元の肉体がいつの間にか変性を始めていることに気付いていた。これは自身に魔術をかけながら動くことの副産物なのか、それとも別の効果なのか。魔術の中には身体能力を強化するものはあるが、永続効果を持つとは聞いたことがない。

 アルフィリースはこのことをパンドラに聞いてみた。


「私のような状態、前例はある?」

「なくはない。だが正直『強化』ではなく、『汚染』に近い。続ければ強くはなるだろうが、寿命が縮む可能性すらある」

「ほどほどにしないとだめか・・・有効な成長方法だと思ったのにな」

「人間に限らず、有機体は決まった組成から逸脱した身体強化はできんよ。例外があるとすれば、特性持ちや装備武器といった恩恵、あるいは自分以外の何かへの変容しかないな」

「私の特性は?」

「知らん。俺は他人の特性がわかるような便利な能力はもってない。さっき言ったので今の機能はだいたい全部だ。もっともこれから何かを思い出すかもしれないが」


 パンドラは全て言うべきことを終えたとでも言いたげに、手を広げて見せた。どうやらアルフィリースの答えを待っているようだ。

 そこに影が質問した。


「私からも質問がある。なぜわざわざ統一武術大会に来た? 私たちはついでで、何か用があるから出てきたんじゃないのか?」

「その通りだ。実はレメゲートの一件は偶然でな、本来はレーヴァンティンが目的だ」

「レーヴァンティン? 振るうと山を焼くほどの炎を起こす?」


 パンドラは指を振って否定した。


「ち、ち、ち。そんなただの炎を操るだけの剣なら、俺がそこまで気にするかよ。レメゲートが正しく遺跡の封印を解く鍵となるのなら、レーヴァンティンは遺跡を破壊するための剣だ。遺跡が万一暴走し世界に害を成すと判断された時、それを破壊するための剣なのさ。つまり、どんな魔法を使っても焦げ跡一つすらつかない俺を壊すことのできる、唯一の剣だ。

 レーヴァンティンさえあれば、大草原の遺跡の番人トゥテツも、ラムフォート大森林の番人カレヴァンも倒すことが可能だ。ま、当たればだがな」

「・・・大草原の遺跡の番人・・・なんですって?」


 表情を険しくしたアルフィリースを見て、パンドラが口を手で塞ぐ。


「あれ、これって言っちゃまずかったのか?」

「私に聞くな。ちなみに私も大草原の遺跡のことなど知らんぞ? トゥテツとは誰だ?」

「・・・その話、詳しく伺いましょうか? パンドラ」


 アルフィリースの表情がにこやかに笑っているのを見て、パンドラは自身が言ってはいけない情報を吐いてしまったのだと気付いた。『災厄の箱』などと言われてきたことは覚えていたが、かつて誰かに「その通り名はお前の中に災厄があるからじゃなくて、お前は口が軽いから災厄の箱って呼ばれているんじゃないのか? しゃべり過ぎには気を付けることだな」などと言われたことを思い出したのである。



続く

次回投稿は、5/4(木)21:00です。

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