戦争と平和、その149~統一武術大会二回戦、レイヤーvsゼホ③~
会場ではレイヤーとゼホが審判の注意を受けながら、挨拶を交わしていた。
「よぅ。予選ではうちの副長が世話になったな?」
「・・・誰?」
「追加予選の一試合目だ。ザックスって名前だったが、覚えてないか?」
「すみません、他人の名前を覚えるのが得意ではなくて」
レイヤーは正直に答えたが、ゼホには挑発と受け取られたようだ。眉が吊り上がり、表情が一段階険しくなった。
「ほほぅ、じゃあ俺の名前は忘れられないようにしないとなぁ? お前をぶちのめせば俺の名前を憶えてくれるか?」
「ぶちのめされたら、記憶が飛ぶと思うけど」
「・・・面白い奴だ、ちょっと気に入ったぜ。試合の後に五体満足なら酒でも飲まねぇか」
「いや、僕は未成年なんで。あなたもそうでしょ?」
レイヤーの言葉にゼホと審判があんぐりと口を開けた。どうやらレイヤーはゼホのことを本当に知らないらしい。審判が紹介していたにも関わらず、ミュラーの鉄鋼兵のことも知らないとは、傭兵でありながらモグリにもほどがある。それは確かに、身長からはゼホは少年にしか見えないと思われるが。
ゼホは腹の底から豪快に笑うと、レイヤーの肩に手を置こうとしたがレイヤーがそれをするりとかわす。ゼホはあました手をぶらぶらとしながら、レイヤーを見て苦笑いした。
「いい度胸だ、小僧。最近じゃ俺と戦う前にたいていの相手はぶるっちまって、まともな戦いにならねぇからな。俺に勝ったらなんでもいうことを一つ聞いてやるぜ」
「そう。僕は負けても何もしないよ?」
「ははっ、それでいい。俺がお前を気に入っただけだ。じゃあ楽しもうぜ」
「楽しめるかなぁ・・・」
二人は軽く握手をすると離れた。ゼホは背を向けて悠然と離れたが、レイヤーは背を向けることなく数歩後ろに下がった。その間にフードを脱ぎ捨て、競技場の上にばさりと放り投げた。
ゼホが振り向くと、審判が手を上げて構えた。
「それでは――始め!」
審判が手を下ろすと同時に、ゼホが全力で突進した。重量のある大きな武器を持っているとは思えないほどの速度と迫力。ゼホの突進の風圧で審判は尻もちをつき、柱のような太さの斧を振り回しているとは思えないほどの速度で、ゼホは横薙ぎに払った。
競技場に突然竜巻が現れたのではないかと見まがうほどの一撃。受ければ上半身が吹き飛ぶのではないかと錯覚するほどの一撃を、レイヤーは顔色一つ変えることなくさらりとかわしていた。
ゼホがニヤリとする。
「ちょっとくらい青ざめろよ」
「十分青くなってるよ」
「顔色一つ変わってねぇぞ?」
「元々こんな顔さ」
ゼホが回転を上げた。競技場のある全てのものを消し飛ばさんばかりの勢いで斧を振るう。凄まじい風斬りの轟音に会場中が息を飲んだ。もはや木製の武器などとは関係ない。当たれば死ぬのは間違いなく、レイヤーは防御すらままならず避けているように見えた。
事実レイヤーは剣を抜いてこそはいるものの、大きく避けているだけで、反撃には一切至らないように見えた。だがゼホの方も攻撃は横薙ぎが中心であり、単調に見える。
一方的に見える攻防の中で、突然レイヤーが体勢を崩した。ゼホは逃さず、斧の軌道を縦にして、唐竹割のように振り下ろす。
「キャアアア!」
ゼホが轟音と共に振り下ろした斧が地面に当たると、斧は爆発で吹き飛んだように粉々になった。会場自体も大きく揺れ、客席にまで振動が伝わり悲鳴があがる。誰もがついに死人が出たと勘違いしたが、レイヤーは無傷だった。身を捻ってうまくかわしたのだが、その際に思いがけず飛んできた木片まで捌いたことに気付いたのは、会場で数名もいなかった。
会場そのものはゼホの登場に合わせて魔術で補強されており大きく破損していないが、それでも会場にひびがはいっている。腕力だけで普通は突き破ることのできない結界なので、アルネリアの関係者たちが互いに顔を見合わせたのは、彼ら以外には意味のわからないことだろう。
ゼホは柄だけになった武器をぽいと放り投げると、代わりの武器を取りに行った。その隙をレイヤーは突くことなく、堂々とその後をついていく。レイヤーのその行動に、ゼホが首を傾げた。
続く
次回投稿は、4/18(水)21:00です。