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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その143~統一武術大会二回戦、リュンカvsウルス②~

「姉さん、あの相手――」

「わかってる。相当できるぞ」


 同じ感想をリュンカも抱く。獣人相手に徒手空拳などなんの冗談かと考えていたが、これがウルスの最も信頼する戦い方なのだと理解した。リュンカも油断なくフットワークを刻み始める。そして審判の合図がなされた。


「始め!」


 その瞬間リュンカの姿が消え、複数の衝撃音と共にウルスが弾き飛ばされた。見えた者は少なかったが、リュンカは正面から突撃し、数発の蹴りを浴びせて離脱した。ただそれだけの単純な攻撃方法である。普通ではないのは、その速度だった。

 通常の相手ならこれで昏倒して終わる。だがリュンカの足に反動は少なく、ウルスは全て腕で捌いていた。ウルスが弾き飛ばされたように見えたのは、衝撃をいなしただけであることが腕の下の表情でわかった。ウルスはリュンカの速さを目の当たりにしても、驚いた様子すらない。


「(獣人だとしたら、小隊長以上の実力はあるな。加減は必要なさそうだ)」


 リュンカが表情を引き締めながら、刻むフットワークが回転を上げる。リュンカの攻撃方法は実に単純だ。まっすぐ行って、蹴飛ばすだけ。だがその速度が凄まじく、また蹴りには重さも同居する。加えて足技も非常に多彩で、これを捌いてなお反撃できる者が獣将以上になるまで一人を除いて周囲にいなかったので、リュンカは獣将まで出世したのだ。

 同じ速度重視のロッハは多角的に動き、チェリオは虚実を混ぜるのが上手い。リュンカは性格的にも小細工は好まず、あくまで真っ向勝負のみを仕掛けてくる。先ほどよりも速く、重い攻撃がウルスに襲い掛かった。

 様子見の先ほどとは違い、今度は相手が後退するまでその場で蹴り続ける攻撃である。まるで片足が三本にでも増えたかのような速度に、見ているニアたちですら驚嘆した。

 だがウルスは驚かない。その場で黙々と、ただ捌くのみ。


「(この女・・・!)」


 リュンカは速度をさらに上げる。ウルスはそれを捌く。リュンカが恐ろしいと思ったのは、同じ軌道の蹴りに対して、ウルスの捌く能力が上がっていくこと。より小さく、より正確にリュンカの蹴りを逸らしていく。

 このままではまずいと思ったリュンカは、途中で蹴りのリズムを変えた。膝だけが別軌道で動く可変蹴り。獣人の強靭で柔軟な関節は、威力も速度も落とすことなく、蹴りの軌道を変化させることができる。死角から飛んでくる蹴りに、今度こそ手ごたえを感じたリュンカ。

 だが同時に、リュンカは腹に鈍い衝撃を感じた。


「むぐっ!?」


 虚を突かれた一撃を入れられ、リュンカは慌てて飛びずさった。どのみち呼吸は限界に近かったし、腹を殴られた影響とウルスの様子を確認したかった。だが衝撃が小さかった通りに、腹はまるで痛くない。殴ったこと自体が無意味にすら思える一撃。どうしてこの程度の一撃を入れたのかが、リュンカには理解できない。

 加えて、ウルスは少し体勢を崩していた。これもリュンカには理解できない。一撃必倒で打ち出す全ての攻撃がまともに入ったのだ。『少し』体勢を崩すはずですむはずがない。人間が受ければ場外まで吹き飛ぶのが道理のはず。

 蹴りの衝撃でたなびいたウルスの髪が、緩やかに流れて戻る。顔を上げたウルスが少し微笑んだのを見て、リュンカの背筋は再度冷たくなった。



続く

次回投稿は、4/6(金)22:00です。

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