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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
1604/2685

戦争と平和、その142~統一武術大会二回戦、リュンカvsウルス①~

***


 ニアとヤオは2人で統一武術大会を観戦していた。彼女たちの注目は次の試合、獣将リュンカの手並みだ。

 先ほどの試合でヤオは鮮やかな勝利を決め、リュンカの登場を待つのみだった。リュンカが勝てば、ヤオの次の相手となる。リュンカに勝てば、次はアルフィリース、もしくはジェイクと戦う可能性があった。

 ヤオとしては、神殿騎士団で駆けあがるように出世するジェイクにも興味があるが、なんといってもアルフィリースと本気の勝負をしてみたいと常々思っていた。堅物だった姉ニアに強い影響を与え、また自身の雇い主ともなったアルフィリース。手合せは普段の訓練でもするが、ヤオはアルフィリースに負けたことはほとんどない。

 だが同時にいつもヤオが感じるのは、アルフィリースは本気で戦っていないのではないかということ。いや、技術的な面では確かに本気なのだろうが、何でもありの勝負となった時にはどうしてもアルフィリースに勝てる気がしない。それに、アルフィリースのここ一番の勝負強さは、リリアムとの勝負でも見た。

 アルフィリースは目的のある戦いとなると非常に強い。アルフィリースは結末に至るまでの戦いでたとえ百回負けようとも、肝心の1回で必ず勝つ。そういう気質だとヤオは考えている。

 本気のアルフィリースと戦うこと。これが今の自分に足らない何かを埋めることになるのではないかと、ヤオは考えている。そのためにはリュンカを研究し、勝つ方法を考えねばならない。リュンカもまた、ヤオのかつてからの目標だ。そういう意味では、今回の統一武術大会はヤオにとって格好の実践の場となっていた。

 知らず知らず手に力が入るヤオが、ニアに問いかける。


「姉さん、リュンカ様の弱点って知ってる?」

「それを私に聞くか? 直近までグルーザルドにいたのはヤオの方だろう。そちらの方が詳しいはずだ。私は手合せすらろくにしたことがない」

「私だって何度か手合せがある程度よ。でもリュンカ様は忙しいからいつも軽く慣らす程度で、それほど本気で打ち合ったことがない。何でもいい、リュンカ様について知っていることがあれば教えて」


 ニアは少々考えたが、そういえばリュンカは自分が軍に入隊する少し前に獣将を拝命した、新しい獣将だったことを思い出した。


「正直、あまりリュンカ様の名前を聞いたことはなかったな。噂では、リュンカ様の同期にはもっと強い雌の獣人がいたそうだ。なんでもドライアン王に匹敵するのではないかといわれるほどの、強い獣人が」

「噂だけは聞いたことがあるかも。確か名前は――」

「ウサギ族のミレイユ。ただあまりに問題行動が過ぎたせいで、グルーザルドを追われたとも。詳しい事情は知らないが、今ではブラックホークに身を寄せているとの噂もある。

 リュンカ様はこのミレイユに負けないために努力して、強くなったとか。あくまで噂だけどな」

「そうなんだ。私は以前リュンカ様と手合せしたとき、まるで勝てる気がしなかった。あの速度、あの膂力。私たちよりも種族として一回り大きな彼女を倒せる要素が見つからなかった。でも今なら」


 ヤオは人間と暮らす間に、彼らの工夫を知った。種族として決して恵まれていない人間たちの努力と工夫を。ヤオにとって学ぶことの多い時間であり、ニアもまたヤオの成長を感じていた。


「(私はもうヤオには勝てないかもな・・・だがそれもどこかで受け入れている自分がいる。それに私には今は自分の強さどうこうよりも、大切なものがあるしな)」


 ニアは成長しつつある我が子を思い、腹を無意識のうちにさすっていた。今はその存在が何より愛しい。ニアは今までにない感情が自分の中に芽生えていることに気付き、驚き戸惑いつつも受け入れていた。

 そうこうするうちに準備が整ったのか、リュンカが登場する。人間と比べても小柄なニアやヤオとは違い、リュンカは人間の成人男性よりも頭一つ大きく、見るからに精悍だ。だがその顔立ちは女性的でもあり、戦い方も鮮やかなことから、一回戦でも人間から声援を受けることもあった。グルーザルドでもかなりの美人ならぬ美獣として通るリュンカは、人間の世でも受け入れられやすいようだった。

 対して、リュンカの前に立った対戦相手もまた女だった。腰まである茶色の髪をたなびかせ、中性的な整った顔立ちをした女はウルスと審判に呼ばれた。手には皮のグローブ、下半身はショートパンツと、肘あてに脛当て。それ以外は肌を露出することから、明らかに打撃を主武器とする女性だ。獣将のリュンカ相手に格闘とは無謀にもほどがあるが、どうやらウルスは戦い方を曲げるつもりはないらしい。

 ざわつく観客とニアやヤオも同じ心境だったが、ウルスはいたって冷静に審判の注意事項を聞いていた。そしてリュンカが試合前に差し出した手を握ると、一定の距離をとって離れた。そして構えたウルスから立ち上る闘気をニアとヤオは感じ取ると、彼女たちの毛が自然と逆立った。



続く

次回投稿は、4/4(水)22:00です。連日投稿になります。

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