戦争と平和、その141~アルマスの密談~
ウィスパーは二人をじろりと見ると、自分もまたグラスを押して鳴らした。ウィスパーがそんなことをするのが珍しく、のっぺらぼうとバネッサは目を丸くした。
「驚いた、あんたにもそんな感傷があったのか」
「私のことをなんだと思っている? 私にも感情がある。お前たちは私が歴代揃えた中でも、特に優秀な三人だ。一人欠ければ惜しくもなる」
「ああ、そういうことね。あんたに情を期待した方が馬鹿だった」
「そこまで緩んだつもりはない。そんな感情があれば組織の運営などできんよ。それより本題だ。二人とも、首尾はどうだ?」
ウィスパーの問いかけに、二人は澱みなく答えた。
「ローマンズランドの陣にはつっかけたが、予想通りカラミティがいやがった。ちょいと仕掛けてみたが、ありゃあ無理だな。俺一人じゃどうにもならん相手だ。差し違えるなら腕の一本も取るだろうが、そのことに意味があるとは思えんな」
「どのくらいの戦力が必要だ?」
「戦術部隊三つ、それぞれに応じた指揮官が必要だ。そうなると3番の脱落は相当痛い。俺たち3人がいたらカラミティも落とせただろうぜ」
「ふむ、ならば代替案を使用するか。カラミティに対する手配はこちらでやろう。ローマンズランドが暴れるのは構わんが、カラミティが暴走するのはよくない。できればカラミティはここで仕留めておきたいところだ。
1番、貴様はどうだ? 統一武術大会の優勝はできそうか?」
「うーん・・・確実な優勝は難しいかしら」
1番バネッサの言動に、ウィスパーも2番のっぺらぼうも驚いた。
「はっ、こりゃあ驚いた。1番の姉さんが苦戦を予想するほどの相手がいるってのか?」
「ディオーレ、それにイェーガーにも何人か腕が立つのがいるわね。それにシード選手たちはどれも一筋縄ではいかないわ。加えて全くの無名選手にも強いのが何名か。拳を奉じる一族までが出場しているとは思わなかったわ。なんでもありなら仕留めることもできるけど、審判にも尋常じゃないのがいると、ちょっと難しいなぁ」
「なるほど、それは厄介だな。ティタニアはなんとかなりそうか?」
「やってみないとなんとも。ただ競技会っていう形式に限定すれば、勝つ方法はあるでしょうね。それより、ティタニアよりも厄介なのがいるわ。気付いたかしら、ウィスパー?」
バネッサが手の中の酒瓶を揺らしながらウィスパーを見据えた。その言い方に思い当る節がある。
「・・・『使者』がいるのか?」
「げえ、まじかよ。どの程度の奴が来たんだ?」
「多分『斥候』級よ。あなたの話を元にしての想像だけど」
「髪は短かったと?」
「ええ、肩にも届かないわ」
バネッサの言葉に、ウィスパーはしばし考え込んだ。
「奴らは階級が上がるほどに髪が長くなる傾向がある。で、勝てそうか?」
「これも何とも言えないけど、間違いなく競技会ではすまなくなるわね。それでいいのなら、存分にやるけども」
「必要なものは?」
「競技会で私が負けた時のことも考えて、策を練る必要があるわね。最後の16名からは抽選のしなおしよ。どういった組み合わせになるかによっては、片寄りが出るでしょう。
たとえば、ティタニア、私、使者、拳を奉じる一族の長で潰しあったら、誰が勝ち残るか想像もできないわ」
「わかった。では私の方でも少々動いてみよう」
「それまで俺たちは、今の雇い主の意向に沿って動けばいいのか?」
のっぺらぼうの提案にウィスパーは頷いた。
「お前たちの雇い主の考え方は、私の方針と逸脱しない。私が異を唱えるまでは従うといい。十分な報酬も出ているはずだ」
「確かに。俺たちを雇うほどの人間が、平和会議に参加しているとは思わなかったが。平和会議といいながら、殺り合う気満々だよな」
「ええ、面白いわね。でももっと面白いのはここからかもよ?」
バネッサの言葉に、扉をノックする音は同時だった。ウィスパーとのっぺらぼうが扉の方を振り向く。足音もなく、扉の外に誰かがいつの間にか立っているのだ。
バネッサにはそれが誰かわかっているようだった。
「私もここまで面白い人物だとは思わなかったわ。今では雇い主のことがすっかり気に入ってしまってね。どうやら私たちは囮として雇われた。ウィスパーを引き出すための、餌だったのね」
「俺たちを見張っていたということか。どうやって?」
「さぁてね。だけどウィスパーと直接話がしたいのではなくて? ウィスパーの裏をかくとは、久しぶりにそんな人物に出会ったかしら」
「・・・ふん、よかろう。会って話を聞いてみようじゃないか。私と対等な交渉しようという人物は久しぶりだ」
ウィスパーはのっぺらぼうを促すと、扉を開けさせた。その先に立っていた人物とウィスパーたちは、この後しばし密談をすることになる。
続く
次回投稿は、4/2(月)22:00です。