戦争と平和、その136~統一武術大会、弓技部門⑨~
妙なことになったと藤太は考えた。浄儀白楽が討魔協会でなにやら血なまぐさい動きをしているのは知っていた。が、それも蚊帳の外のこととして、自分には関係なかろうとたかをくくっていたのがまずかったのか。あるいは狩りのついでに、討魔協会ですら手を焼く名のある化生を倒して回ったのがいけなかったのか。
トウタはくだらぬ権力争いで力を振るうのを望まない。また、必要のない殺生をすることも恥と考えている。最終的に浄儀白楽の依頼を受けるかどうかは、この大陸に来てから判断することにして、曖昧に返事をした。
もちろん断れば相応の制裁が下る可能性もあると周囲は騒ぎ立てたが、トウタの読みではそんなことはないと考えていた。あの傲岸不遜の男が人にものを頼むなど、余程困っていなければありえない。つまり自分たちがどう振る舞おうが、討魔協会がわざわざ吉備津一族を討つほどの戦力を出す余裕はないと考えたのだ。
一方で、浄儀白楽ほどの戦上手、駆け引き上手を困らせる相手というものにも興味があった。遊興も兼ねて一人でこの地に赴いたのは、浄儀白楽を困らせる相手とやらを確認するためでもある。まさかその相手が、女二人とは思っていなかったが。
猿丸が藤太に尋ねた。
「して、いかがでござるか藤太殿」
「どっちの話だ? 最高教主か、それとも大司教か」
「両方にござる」
長年鬼などの化け物を相手にしてきた藤太なら、相手を見れば狩れるか狩れないかどうかは判断がつく。仮に相手が人間だとしても、その目測に狂いはない。最悪、その目測だけでも浄儀白楽に伝えてやれば、不義理にはなるまいと考えた。
予想外なのは、少々こちらの戦士たちに興味が出てしまったこと。先ほどの弓技部門で本気になってしまった。狩人としての義務より、戦士としての本能が勝ってしまった。藤太にしてみれば、元服後にはない経験である。
そして興味があるのはもう二つ。一つはアルネリアという土地に棲む者たちだった。
「最高教主は化け物だな。だが全盛期は過ぎたのか、生命力が衰えているように感じられた。強敵だが、仕込み次第では狩れないこともない。
だが周囲の連中が厄介だ。あれは群れの頭を護る猟犬の目だ。自分の命も惜しまずこちらに飛びかかってくるだろう。被害が出るのは免れない」
「ふむ。ではやはり大司教から狩るべきですか」
「いや、そちらは無理だ」
「は?」
予想外の答えに猿丸は思わず間抜けな声を出した。猿丸はアルネリアについて詳しい知識などを持たず、ただ役職の上下から実力差を考えていた。最高教主が魔物だとは知っているが、その下の役職がそれほど強いとは考えていなかった。ましてミランダのことは猿丸自らの目で見て確認しているが、それほど強そうな相手には見えなかったのだ。
だが藤太の目では違っていた。
「オラは何度も不死者と言われる類の化け物とは戦ってきた。だが不死と呼ばれようが、そこにいるなら殺せる者が全てだった。そりゃあ色んな奴がいたさ。たとえば、死ぬまでに何度も復活する奴や、特定の条件を満たせないと殺せない奴、極端に生命力が高いだけの奴。だがそれらは見ればおおよその仕組みがわかるもんだ。
だがあの大司教は見たことがない不死者だ。おそらくは戦っても殺せんね、少なくとも今は殺し方がわからん」
「ならば首を落とすなり、四肢を落とすなりして行動を止めればよいのでは?」
「・・・多分それくらいじゃあ止まらないんじゃないんかな。それに傍仕えの騎士――あれを敵に回さん方がいい。仮に殺せても、首だけで復讐に来るような妄執の化け物だ。必ず相打ちになるし、禍根を残すことになる。
やるならこの二人は除けた方がいい。その方法を考えることが、これからの行動の肝になるだろうな。だがそんな機会が訪れるかどうか」
藤太は殺せそうなら片方だけでも始末することを考えていた。だが最高教主ミリアザールを単なる弓でやれるとは思っていなかったし、大司教ミランダに至っては、弓矢を構えてみたが殺せる瞬間が一切想像できなかった。今この距離は絶好の機会なのだが、藤太は諦めてここから弓技部門の表彰式を眺めていたのである。本来なら、ここで大司教ないしは最高教主を仕留めるつもりで、半ばわざと失格になるような行動をしたのだ。ただ、破魔矢のことは最後に手に取るまでその存在を忘れるほど、競技に没頭していたのは事実。
そしてもう一つの興味とは――
続く
次回投稿は、3/23(金)7:00です。