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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その131~統一武術大会、弓技部門④~

「的が・・・風で回転している」


 オーリが紐で括りつけた的は、風でくるくると回転していた。もちろんオーリはそのことも考えていたのだが、想像以上に風が強く、仮に紐を切ったとしてもどう落ちてくるかは全く読めない状況となった。

 さすがに最初に構えたバルドレも、緊張の表情となる。バルドレは最初の二つを外し、三射目で紐を切ることに成功するも、落下する的に対しての矢が間に合わず、まさかの無得点となった。天を仰ぎ大きくため息をついたバルドレ。残り全員が外すとはバルドレも考えておらず、実質上の脱落と考えられた。

 そしてフェンナもまた緊張の面持ちである。二射目で的を落とすも、矢は的に嫌われて無得点。続くシャーギンは一射目で的を落としたが、ふらふらと回転しながら落下する的は矢を躱すように動き、シャーギンもまさかの無得点となった。


「なんと・・・」


 シャーギン自身も信じられないといった顔つきだったが、あの回転ではいかんともしがたかったことに諦めもついたのか、ため息をついた後、悔しがる様子はこらえて自らの場に戻った。

 次は提案者でらうオーリの番だ。いつもは静かに無表情でフェンナに付き従うオーリだが、その気性は決して大人しいわけではない。むしろシーカーの中では若々しく感情豊かなオーリは、炎のような気性を押さえて過ごしている。それが事実に、矢を射る場所に構えたオーリからは凄まじい集中力が迸り、観衆にすらわかるほど場の空気を緊張させていた。

 そしてオーリは一射目で見事に的を落下させ、即座に放った二射目で回転する的の淵付近に命中させた。観衆からは大きな拍手が巻き起こり、オーリは20点を確保していた。


「意外と点数が低いのだな」

「ええ、端っこでも当たれば点を計算できるようにしていました。風向き次第では外すことも当然考えていたので」

「外した我々にもまだ好機はあるということか」


 シャーギンが再び獰猛に課題を睨んだが、次のエアリアルはオーリとは対照的に、構えと同時に即座に矢を射った。


「え?」

「何!?」


 観客も他の競技者もその早業に驚くしかない。そしてエアリアルの点数は――


「――エアリアル殿、90点!」

「おおおっ!」


 ほぼど真ん中を射抜いたエアリアルは、風でたなびいた髪を手で払い、何事もなかったかのように元の位置に戻る。驚愕の目でエアリアルを見る他の競技者だが、フェンナだけがエアリアルに話しかけていた。


「エアリー、どうしてそんな簡単に射ることができるんです? 我々でさえ、慎重にやっても難しいのに」

「フェンナ、私が大草原の守護者であることを忘れたのか? 風を読むなら私が団内はおろか、大陸でも私の右に立つ者はほとんどいない。まして弓矢を扱えるとなると、風が強い状況で私より精度の高い弓使いはまずいないだろう。

 今日は私にはおあつらえ向きの天気だ。今日でなければ私はもっと苦戦しただろう」


 エアリアルの言葉は傲岸不遜とも取れたが、エアリアルの性格から彼女は事実しか告げないため、全員が固い表情となった。であるならば、風が吹く以上この点数差はほぼ覆すことができない。この後エアリアル自身が考えた課題も残っているし、風が弱まる気配もない。エアリアルの優勢はゆるぎないものになると全員が考えていた。

 そして次にトウタが射る場所に立つ。その顔には苦笑が浮かんでおり、射る前から敗北を受け入れている様子にすら見える。だがエアリアルのトウタを見る表情は最初から変わることがない。なぜならば、エアリアルはこの弓技部門の最大の敵はトウタだと考えていたからだ。

 トウタは矢を構えると、大きくため息をついた。


「はぁ~競技会であんまり本気になるつもりはなかったんだけどなぁ。ま、手抜きができるような器用な性格でもないし、最初の課題でやらかしてしまった以上はしょうがないかぁ」


 トウタは矢を二本同時に番えて射た。もちろん反則ではないし、二本目を構える時間を省ける以上制度は高まるだろうが、先に縄を切る必要があるのだ。二本撃ちともなれば、先に縄を切ることは不可能だと誰もが考えていた。

 だがトウタは同時に矢を射たにも関わらず、二本の矢には速度差が出て、一本目の矢が縄を切った瞬間、二本目の矢が的の正中を捕えていた。観衆にはわからぬほどの一瞬の差だったかもしれないが、弓矢使いにははっきりとわかる間である。

 当たった瞬間、観衆はどよめき、そして他の射手たちも思わず身を乗り出した。


「馬鹿な! ありえない!」

「どうして同時に射た矢に速度差が・・・?」

「やはりな」


 エアリアルだけがぼそりとつぶやき、トウタの100点を告げる審判の声を聞きながら、次の課題に真っ先に向かっていた。トウタは笑顔を他の競技者に向けたが、何かを語ることはなかった。そしてその目はエアリアルだけを追いかけていた。

 そして五番目の課題。エアリアルの提案によるものである。風を読んで矢の起動を曲げる必要のある課題だが、バルドレ、フェンナ、オーリがそれぞれ40点を獲得した。そこからしか無理だと判断したのである。

 シャーギンだけが唯一60点をとれる場所からの挑戦を試みたが、それは失敗に終わり1点も獲得することができなかった。結果は判断ミスだが、誰も彼の挑戦を笑う者はいない。物理的に不可能なことを見極めるのもこの課題の内だが、挑むこともまた必要な勇気なのだ。



続く

次回投稿は、3/13(火)8:00です。

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