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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その130~統一武術大会、弓技部門③~

 課題は提案をした順に、一つずつ全員で行うことした。最初に行う者が一番不利では、との声が出たが、バルドレがそれを否定した。


「これほどの腕前にもなれば、それぞれが自らの射方を心得ている。そこまでの配慮は不要です」


 バルドレは見た目こそ長い金髪を蓄え優雅な見た目だが、服の下にある体つきは相当に鍛えこまれたものだった。貴族ではあるが、その性質は限りなく戦士に近い。伊達に弓技部門で何度も優勝していないと、エアリアルはバルドレに感心していた。

 最初の課題、的五つの同時射ち。バルドレがまとめ打ちをどのくらいやったことがあるかは知らないが、シーカーでさえ通常は三本程度までしか打たない。五本同時に矢を弓に番えたバルドレは、十分に弓を引き絞ると矢を解き放つ。その矢が全て的に当たると、観客からは盛大な拍手が起きた。


「おおっ!」

「全部当たったぞ!?」

「バルドレ様、素敵!」


 全て当たったことに観客は歓声を上げたが、当のバルドレは不満気だった。


「ふむ・・・全て中央は無理でしたか。五本ともなると、少しのブレが命取りですね。思ったよりも修正が難しい」

「いやいや、大したものだ。シーカーでさえ全て的に当てるやつは多くはなかろう。息をするように弓矢を覚えるシーカー達以上の技量を備えるだけでも、人間としては充分図抜けている」

「褒めてはいただいているのでしょうが、大陸で一番の弓技を持っていると自負していた私としては、些か不満ですね」

「バルドレ殿、合計72点!」


 その点が高いのか低いのかは観客も理解しかねたが、次のフェンナが矢を射た段階で、この面々が尋常ではないことに気付き始めた。フェンナは先ほどのバルドレよりも、もっと小さな動作であっさりと矢を放ったが、その矢もまた全て的を射ていた。観客が再度どよめき、フェンナもまたバルドレの様に悔しそうな顔をした。

 

「やはり五本ともなると、腕力がないと精度が上がりません。残念です」

「フェンナ殿、82点!」

「おおおっ!」


 バルドレよりもさらに高い点数に、観客の声も一際大きくなった。だがここからシャーギン93点、オーリ88点、エアリアル86点となり、凄まじく高度な戦いに観客は一層盛り上がった。

 そして最後のトウタ。彼が矢を放つのを期待して待つ観衆達。この素晴らしい戦いの6人目はいかなる技量の持ち主なのか――だがトウタの矢の2本はあらぬ方向に飛び、3本だけが的に命中していた。

 思わず漏れる観衆のため息。当のトウタは恥ずかしそうに頭をかいていた。


「やっぱ五本は無理だぁ。やったことねぇしな」

「まぁそんなこともあるだろう。五本の矢を番えて射るなど、そのような必要もないだろうしな」


 シャーギンが頷きながらトウタを励ましていた。皮肉でもなんでもなくトウタを慰めるシャーギンの態度にフェンナは彼の成長を感じたが、エアリアルはそれよりトウタの当たった的の方を見ていた。


「トウタ殿、60点!」


 観客からはまばらに拍手が起こっただけだったが、その点数に競技者たちはそれぞれトウタの表情を静かに見た。ここまで全員が放った矢の内、ど真ん中はわずか一本。トウタは2本を外したが、放った三本はど真ん中を射抜いていた。

 シャーギンが再度トウタを見つめながら、話しかける。


「五本は無理――ならば何本までならやったことがある?」

「ん? 三本までだ。それがどうかしたか?」

「ならば三本までなら、一体どのくらいの命中率であの的を射抜く?」

「この距離なら百回までは真ん中を外さねぇな。オラは狩人だからな。外すってのはそのまま命を失うことを意味するだ。もし的を外したら、その時は死ぬ覚悟で矢を放ってる。

 もっともオラは集中力はあまりねぇから、あまり長時間やってると精度が落ちるけどな!」


 トウタが恥ずかしそうに言ったが、シャーギンは背中に氷を入れられた気持ちになった。シャーギンでも三本打ちでは精度が落ちる。百回全て真ん中を射ろと言われると、そんな自信はとてもない。そしてそれは誰もが同じだった。どうやらトウタは弓矢を構える時の心構えが普通とは違う――同じ決勝の場に立った全員がそう理解したのだった。

 次に2番目の課題。弓の性能限界を超えて射るわけだが、性能限界の飛距離は一直線に飛ぶ距離で示されているため、やや上方に向けて射れば距離は延びる。だが本日は強風で、しかも的が小さな果実ともなれば相当に集中力を要される課題だったが、これは全員が一撃で的を落とし、百点を獲得した。

 ただエアリアル、オーリ、トウタがど真ん中を射抜いたのに対し、他の三人は正中を外していたし、構えてから射るまでの時間はエアリアルが一番早かった。

 そして三番目の課題。的の位置を確認し、見えない場所から射る課題。軌道も山なりになるし、その中で各自が相当に苦戦した。バルドレは1射外し、57点。自分で提案したフェンナは自信があったのか、全て命中で83点を獲得。シャーギンは全て命中させるも、点は伸びず68点。オーリは全て命中で76点、エアリアルは1射外して62点、トウタは2射外して46点だった。

 そして四番目の課題。ここが思わぬ難所となった。



続く

次回投稿は、3/11(日)8:00です。

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