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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その127~統一武術大会二回戦、試合の間③~


「お主、もうこの会議では何もするな」

「なんですって?」

「お主が本気で暴れる事態になれば、この会議は中止になる。それどころかお主の正体もばれてしまい、ひいては目論見が外れような」

「はっ、知ったような口を! 私の目論見など世捨て人の爺にわかるのか?」


 カラミティが粗暴な口ぶりを隠そうともせずに語った。だがゴーラはあくまで冷静に即答した。


「この会議の成功は、おぬしにとっては合従軍を興させること。そして泥沼の戦争に持ち込ませることだ。違うかな?」

「泥沼までは合っているわ。最終的には私が勝つのだけどね」

「そのつもりなら、今は大人しくした方が得策だろう。今動けばティタニアに向けられている矛先が全てお主の方を向く。その矛先の強さ、数がわからないからお主は大人しくしているのだろう」

「・・・ふん、わかってはいるのよ。ただどこで動くかがわからないだけ。シュテルヴェーゼとその配下の三魔獣は、私にとっても脅威よ」


 カラミティが素直な感想を述べた。どのみちゴーラには隠しても無駄だろうと思ったのだが、ゴーラはさらに恐ろしいことを言った。


「彼らはお主がアルネリアをこの場で叩き潰そうとでもしない限り、動かないじゃろう。恐れておるのは別の可能性よ」

「別の・・・?」

「ふぅむ、あらゆるところに分体を置けるお主ならあるいは気付いているかと思っていたが・・・む」


 ゴーラが突然話すのをやめた。視線は少し伏せ、その様子は周囲を探っているようでもある。見れば、冷や汗をかいているようにも見えた。

 そしてしばらくすると、ふぅと小さくため息をついた。


「・・・行ったか。ここもダメとはな」

「何の話かしら?」

「気づかぬのならよい。世の中には知らぬ方がよいこともあろう」

「そう言われると、ますます気になるわね」


 カラミティは腕を組んでやや意地悪そうにゴーラを問い詰めようとしたが、その前にゴーラが背を向けていた。


「よいか、忠告したぞ? 流れを壊すでない、一連の流れをな。そうすれば、お主の思うようになる場面も来るだろうて」

「あなた、五賢者は人間の味方じゃないの? 私に忠告するなんて、どういうつもり?」

「ワシは一つ味方を挙げろと言われると、もちろん獣人の味方じゃが、人間の味方もすることもある。じゃからお主のことも、それなりに愛でておる」

「・・・爺、貴様」


 カラミティが殺気だとうとする瞬間、ゴーラはぽーんと大きく飛んでその場から離れた。カラミティがその姿を追いかけて天幕から出ると、そこには既にゴーラの姿はなく、声だけが聞こえてきた。


「(賢者は本来、生きとし生ける者全ての味方じゃよ。まぁワシは不出来でものぐさなものじゃから、自分に牙を向けられて穏やかにはできんがのぅ。古巨人のブロンセルや、有翼人のイェラシャほどできた人格ではないのじゃよ。ホッホッホ)」

「ちっ、逃げられた!」


 カラミティとしても別段本気で捕まえようとはしていなかったが、ここまであっさり逃げられるのも癪だった。そして逃げられてから妙なことに気付いた。虫たちの結界は退いただけでなくなったわけではない。そもそもどうやってこの天幕まで入って来たのか。

 カラミティはさらに歩を進めると、地面に大量の自分が使役する虫の死骸があることに気付いた。その総数は今回連れてきているものの半数にも及ぶだろう。これでは天幕の結界も維持できないし、戦力として半分以下、できることは相当限られる。

 なんのことはない。最初からゴーラは力づくででもカラミティに言うことを聞かせるつもりだったのだ。カラミティはそのことを理解し、地面を思わず殴りつけた。地面が揺れ、ひび割れて手から血が滴っても、カラミティは怒りで震えていた。


「あの・・・狸爺!」


 かろうじて叫ばなかったのは、カラミティの本能が叫ぶという惨めさを押しとどめたからに他ならない。

 そしてカラミティの元から脱出したゴーラは、汗を手の甲で拭っていた。


「ふぅ、上手くいったわい。これでカラミティはこの大会期間中動けんじゃろうて」

「お疲れ様です、師匠」

「おう、シャイアか」


 そう言ってゴーラに手拭いを渡したシャイア。本戦で鎧に身を固めた大男を一撃で沈めた、小柄な少女戦士である。

 ゴーラは手拭いを受け取り、汗を拭きとると続けて差し出された水を飲んだ。


「ふぅ、奴の性質は知っているつもりだったが、肝は冷えるのぅ。戦って負けるつもりもないが、無傷とはいかんじゃろうからな」

「師匠でも苦戦を?」

「さて、どうかな? まぁ本当の強さとは、戦うよりも戦いを起こさんことじゃとワシは思っておる。そういう点では、今回はワシの勝ちと言えるじゃろう。

 もっとも、カラミティが怒りで我を忘れて、虫を後退させていなければこうは上手くいかなかったじゃろうから、運は確かにこちらにあった」

「すみません、私の我儘のために・・・」


 申し訳なさそうに項垂れるシャイアの頭を、ゴーラはぽんぽんと撫でた。



続く

次回投稿は、3/5(月)8:00です。

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