戦争と平和、その125~統一武術大会二回戦、試合の間①~
「正直、俺も同じことを考えていた」
「え、お前も?」
「いや、考えない方がどうかしているだろ。それはデュートヒルデやロッテも同じだ。あんな急激に成長していく友達を見て、俺はどうなんだろうって考えない方がどうかしている。そんなぬるい発想の奴は、グローリアじゃ生きていけない。そうだろ?」
「それはそうかもな」
グローリアは貴族や王族が箔をつけるために留学させることも多いが、その中にいる生徒の向上心を目の当たりにすると、多くは同様に切磋琢磨する。中にはそうでない者もいるのだが、そういった者は静かにグローリアを去るだけだ。
またラスカルのように平民の出自であれば、グローリア内部での成績によって受けられる奨励制度が変わってくる。そのためラスカルは顔には出さないが、いつも少しでも良い成績をとろうと必死になっているのだ。
ブルンズもまたラスカルとは少し違うが、家名を貶めるわけにはいかない。彼なりに必死に取り組んできたのである。
「だけどジェイクはまるで違う。どうしてこんなに差が出る? 最初は俺と同じくらいの剣の腕前だった。いや、腕力は俺の方が上のはずなのに、実績が段違いだ。あいつが神殿騎士団の上層部に目をつけられているのは知っている。だけど、納得ができない」
「そりゃあ実戦経験が違う、って言いたいところだが、一番は何のために剣を振るうのかっていう意識だろうな」
「何のために、か。俺だって強くなろうとしているぞ?」
ブルンズが納得できないといった顔をしたが、ラスカルはあっさり否定した。
「漠然と強くなるんじゃなくて、ジェイクは大陸一の騎士になるっていう具体的な目標がある。それもおそらく、神殿騎士団長のアルベルトっていう具体的な目標が傍にいる。それが俺たちとの違いだろ」
「じゃあ俺たちはどうしたらいいんだ?」
「――俺はこの武術大会が終わった頃に、神殿騎士団への入隊申請をするつもりだ」
ラスカルの言葉にブルンズが驚いた。神殿騎士団へは入隊申請をすることは誰でも可能だが、審査は厳しい。実力や座学もそうだが、人望、出自、人柄なども厳しく審査される。
学年上位数名は神殿騎士団の方から声がかかるが、それ以外で神殿騎士団へと入隊が許可されるのは、毎年グローリアからは10名にも満たない。多くは周辺騎士団、各地方の騎士団から推挙があり、その中からさらに選抜されるのだ。
もしグローリアからの直接入隊に失敗すれば、その後は周辺騎士団に所属し、地道に功績を積み上げるほかはない。そういう意味では、グローリアからの入隊は狭き門であると同時に、最大の好機でもある。なにせ、グローリアの一学年はせいぜい300名程度だが、周辺騎士団の総数は万に上るからだ。その中から推挙を勝ち取るのは容易ではない。
ラスカルとブルンズには、ジェイクの従騎士となりその後神殿騎士団への推挙を受けるという裏技もある。だがそれをラスカルもブルンズもよしとはしていなかった。そしてラスカルが初めて、強く自分の意志を口にしたのだった。
「俺はジェイクと対等でいたい。そのためには、ジェイクからの推挙を受けるだけじゃだめだ。俺自らが神殿騎士団への道を勝ち取って、ジェイクの隣に立つ。それが今の俺の目標だ」
「なんだよ、ジェイクに勝つんじゃないのか?」
「自分の分はわきまえているつもりだ。俺は剣ではジェイクにもお前にも勝てないよ。だから俺は新学年からは軍略や薬草学、地理学の授業も履修する予定だ。騎士にはおよそ必要ないものかもしれないが、普通に騎士になるための授業だけじゃあ足りそうにもないからな」
「む・・・」
ブルンズが唸った。ブルンズにはまだ具体的な考えと方向性はなかったからだ。そしてラスカルがたたみかけるように話す。
「ギャス、いるだろ?」
「ああ、あのターラムから来たジェイクの補佐」
「あいつ、滅茶苦茶凄いんだ。知ってるか?」
「いや? なんだかスカした嫌味な男だってことは知っているけど」
ブルンズの言葉は確かにギャスの一面だが、ラスカルは首を横に振った。
続く
次回投稿は、3/1(木)9:00です。