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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その118~統一武術大会二回戦、アルフィリースvsエーリュアレ②~

「なぜ素手なんだ? 武器は使わないのか?」

「いや、貴女なら素手で十分なんじゃないかと思うんだけど」


 試合前の注意がなされる間、半身でエーリュアレを見ようともしないアルフィリースに、エーリュアレは止めようのない殺意を抱き始めた。仇と考えていた頃とは違う、別の殺意。加えて触発されたかつての殺意もまた頭をもたげ、ふつふつとエーリュアレの心の奥底を騒がせている。

 エーリュアレは必至でその殺意をとどめようとしながら、自らもまた背を向けた。


「・・・後悔しろ。貴様を公衆の面前で完膚なきまでに潰してやる」

「そう? ところでエーレアリュだっけ? これが何かわかる?」

「間違えるな、私の名はエーリュアレ――」


 そう言いながらエーリュアレが何事かと確認しようとした時、突然鼻先に軽い衝撃を覚える。観客にはわからない程度の軽い接触で、当然エーリュアレにもダメージはない。だがそれがアルフィリースの拳だとわかると、エーリュアレの怒りは頂点に達した。

 だがエーリュアレが飛びかかる前に、審判が止めに入る。


「アルフィリース! 開始前の攻撃は反則だぞ!」

「いえいえ、ちょっとこの花の名前を尋ねようと思って。当たったのは不可抗力だわ」


 アルフィリースの拳には、一輪の花が握られている。その花は崖に咲くことが多く、美と長命の薬草として重宝されることもあるが、採取の困難さから命を落とすことも多い。壮健を望みながら、命を落とすこともある。花言葉は――愚か。

 そこまで伝わったかどうかは知らないが、アルフィリースは反則の規定に従い、促される前に自らの風船を一つ割った。


「わざとじゃないけど、これでいいんでしょ? さっさとやりましょう。花の名前も知らないみたいだし、もういいわ」

「いや、しかし。エーリュアレ、ダメージは――」

「審判、合図を!」


 当のエーリュアレに促されれば、規則上止める義務を審判はもたない。怒りに燃えるエーリュアレの表情を審判が見ると、すぐに開始の合図がなされた。


「それでは、始め!」

「嬢ちゃん。安い挑発だ、乗るな」

「知るかぁ!」


 パンドラが気付いて止めたが、既に頭に血の昇ったエーリュアレは止まらない。自らの拳をアルフィリースの顔面に叩き込むべく、全力で地面を蹴った。

 エーリュアレの踏み込んだ右拳がアルフィリースの顔面めがけて伸びる。対するアルフィリースは左半身で構え、肩口に軽く拳を上げる。そしてエーリュアレの踏み込みに合わせて、軽く拳を振りぬいた。

 すると突然エーリュアレの膝から力が抜け、力なく地面に膝をついていた。アルフィリースにカウンターで顎を打ち抜かれたのだと気付いた時には、エーリュアレの風船は全て割られていた。


「ぐっ!?」

「あーあ、いわんこっちゃねぇ」


 パンドラがため息をついていた。エーリュアレは自らの失策を呪ったが、アルフィリースの攻撃はそれでとどまらない。風船が全て割れても制限時間は30秒残されている。まだ脳が揺れるエーリュアレの右腕をとり、そっと耳打ちした。


「右腕、もらうわよ」


 アルフィリースはそのまま躊躇なくエーリュアレに体重をかけた。鈍い音と、エーリュアレ悲鳴、そしてアルフィリースの早業と容赦のない戦い方に、観客席は興奮とため息が入り混じった。

 もちろんその戦い方をイェーガーの仲間も見ている。エルシアは思わず手で目を覆っていた。


「うわぁ、アルフィリース団長えぐいなぁ。折ったの?」

「いや、肩が外れただけだろう」

「それにしてもアルフィリース殿はえげつないですね。彼女らしくないというか、公衆の面前でここまでやらずとも」

「それだけ相手が強いってことだ。あのエーリュアレっていう女の拳闘術、本戦をちょっとみたが相当な使い手だ。もっとも正面からの戦いなら、アルフィリースは負けないだろうが」


 フローレンシアの批判めいた言葉に対し、ニアが冷静に分析する。それにヤオが付け加える。


「おそらく、最小限の労力で、しかも徹底的にやりこめたいのでしょうね。アルフィリースの体術なら、引けを取るほどの人間はそうはいないはず」

「そうなのですか? 団長の素手の戦いなど滅多に見ませんが」

「それはそうだろう。アルフィリースは素手の組手は獣人としかやらないからな。純粋な打撃では我々の方に分があるが、それでもレオニードの体格をもってしてもぶん投げられたことがあるし、関節技ありきなら、私でも掴まれたら逃げるのが難しい。それに何をしているのか、最近は体術の上達ぶりが凄まじい。私もこの前本気でやったのに、一本とられた。

 もっとも戦場で人間の打撃なんてほとんど役に立たないだろうから、アルフィリースも使わないのだろうがな。技術だけならイェーガーの中でも五指に入る。アルフィリースの背後から突然触れるのはやめた方がいいぞ? 反射的に反撃が入るからな」


 ヤオの言葉に、多くの団員がアルフィリースの格闘技術を初めて知った。



続く

次回投稿は、2/15(木)10:00です。

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