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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その115~会議五日目、早朝③~

 男は驚くマスカレイドを見ると、残念そうに話しかけた。


「見てもうたんか」

「お、お前は!」

「挨拶したやんな? 巡礼五番手のブランディオや、よろしゅう」


 ブランディオはさらりと挨拶したが、マスカレイドは逆にその態度が不気味だった。わざわざ番手まで明かす必要があったのかと、マスカレイドはブランディオのことを測りかねた。

 あるいは目の前の男がこの事態の元凶かと訝しみ、ひょっとすると自分を消すために現れたのかとも考えたが、どうやらブランディオ本人も困惑の状況のようだ。


「納得いかん顔しとるな。なんでハミッテが生きているか、知りたいか?」

「・・・お前の仕業じゃないのか?」

「ワイやあらへんよ。ワイにも死霊術ネクロマンシーは使えるけど、あんな精度では無理やな。もうちょっと決められた動作や応答しかできへん。それに死霊化した対象に回復魔術を使わせるような真似は、どれだけ上級の死霊術師でも無理や。

 アンデットが回復魔術なんか行使しようもんなら、それだけで普通は崩壊するからな」

「じゃあ誰がどうやって?」

「教えると思うか? そもそもあんさんが無事でここから出ていけると?」


 殺伐とした言葉にマスカレイドとブランディオはしばしにらみ合ったが、マスカレイドの方が先に口をひらいた。


「わざわざ私の前に現れたんだ。教える、ないしはハミッテについて口止めをするつもりなのだろう? 殺すつもりならさっき気絶していた時にやっている。違うか?」

「・・・詰めの甘い女やけど、阿呆ではないか。まぁその通りや」

「ならば取引だ。私がカラミティから黒の魔術士の情報を引き出す、ないしは囮をする。まだカラミティの本体は生きているし、私が生きていると知れれば、黒の魔術士が接触を図ってくる可能性があるからな。お前たちはせいぜい私を利用するがいいさ。

 代わりにお前たちは私の生命の保障をしろ」

「はっ、スコナーの復権とやらはええんか?」


 なぜそれを知っているのか、という言葉をマスカレイドは飲み込んだ。そして動揺もせずに言葉を続けた。


「ふん、今の私の立場では大きな事は言えないよ。それにスコナーの復権も、誰に託せば適うのか正直迷っているところだ。正直オーランゼブルが何を考えているのか、はっきりと聞いたことはないからな。

 今の差別体制を作ったのはアルネリアを始めとする大戦期の諸国だが、確かにアルネリアならそれを覆すことは可能かもしれない。シーカーへの態度も見るに、スコナーもやり方次第ではもう少し歩み寄れるのではないかという希望が持てる。

 お前の主が本当にアルネリアの聖女ならば、の話だが」

「疑ぐり深いやっちゃ。せやけど、あんさんを味方につけるメリットがワイらにあるんか?」

「どうだろうな。だが黒の魔術士、特にカラミティに近しく、なおかつ奴らを裏切る可能性のある人間が他にいるかな? それに手札は多い方がいい。違うか?」


 マスカレイドの申し出にブランディオはしばし悩んだが、やがてゆっくりと手を差し出した。


「まぁその通りや。ええやろ、交渉成立ってことで」

「手は握らない。お前たちの中には、記憶を読むことのできる奴もいるからな」

「慎重で結構や。とりあえずあんさんは外部委託ってことで、ワイの裁量で採用にしとく。やけどまだ信用でけへん。いくつか仕事したら、ワイらのことはおいおい話したるわ。

 とりあえず今はあんさんの命の保障やな。危険が迫ったら匿うくらいはしてやれるけど、なんか希望があるか?」

「一つ問題がある。私が知る限り、カラミティは4体いた。仕留めた三体は分体だ。ひょっとしたら、私のところに来た奴が本体だという可能性がある。分体がやられたことに気付いたらなんとしても復讐にくるだろうし、私のところにも事情を調べに来るだろう。どうしたらいい?」


 マスカレイドの質問に、ブランディオはしばし考えた。


「本体の顔を見たか?」

「見た。だが何者かはわからない。奴のことだから誰かに寄生しているのだとは思うが。今までの傾向を見れば、奴は美しい女に寄生したがる。それに、身分が高い者にも」

「ふむ。具体的にそれが誰かわかれば手の打ちようがあるんやけどなぁ・・・よし、さっそくやけど一つ依頼や。カラミティの本体が来たら教えてもらおうか。何せぇとは言わん、教えるだけでええよ。まずはカラミティの本体が誰かを突き止めんとな」

「待て、私は安全なんだろうな?」


 ブランディオは笑顔で頷いた。


「当り前や。あんさんにはこれから四六時中見張りがつく。命の危機があったら助けたるから安心しいや。場合によっちゃあその場でカラミティを仕留めるから、そのつもりでな?」

「(ふん、結局私を捨て駒に使うつもりか・・・まあいいさ。ただでは転んでやらんからな)」


 マスカレイドはブランディオの言葉を鵜呑みにするほど愚かではない。だが現状ではブランディオの方が、まだカラミティよりは安全ではないかと考えられた。


「ハミッテはどうする? そもそも私にまとわりついて面倒だということで、カラミティが殺す算段を立てたんだ。隠しておいた方が無難なんじゃないのか?」

「そうは言うてもなぁ、ワイも何してああなったんかわからんのや。普通通りさせといたらええってことなんやけど。とりあえず、あんさんのことは綺麗さっぱり忘れたみたいやから安心してや」

「それならまだいいが・・・お前も仕組みを知らないのか? それでいいのか?」

「全部が全部理解できるってもんでもあらへん。結果良ければ全て良しって言うやろ? それに計画の全体図を知っているのは常に頂点におる人だけよ。ワイみたいな下働きは、言われたことをきっちりこなすので十分や」


 マスカレイドはブランディオの瞳を見据えたが、嘘をついているかどうかはわからなかった。マスカレイドは経験上相手の嘘を見抜く術には長けているつもりだったが、ブランディオはそれ以上に嘘をつくのが上手いようだった。


「(嘘と真実半々というところか。まぁいいさ、私は何を利用しても生き延びて見せる。これでカラミティを撃退できるなら、鬼でも悪霊にでも魂を売ってやるさ)」


 マスカレイドは一つの決意と共に引き上げたが、残されたブランディオはてきぱきと働くハミッテを見ながら、思わずつぶやく。


「本当の仕組みなぁ・・・ワイも理解できへんってわけじゃなくて、理解したくないってのが本音やな。今更ながら、おっそろしいものに味方したもんやわ。

 マスカレイド、あんさんももう逃げれへんで? ワイらを裏切ったら、死ねるなんてもんやあらへんほど残酷な結末が待っとるわ」


 ブランディオは祈るわけでもなく、何かを畏れるようにハミッテに向かって合掌し、その場を去ったのだった。



続く

次回投稿は2/9(金)10:00です。

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