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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その108~統一武術大会本戦一回戦⑤~

「恐ろしいほど戦い慣れていたわ。エルシアくらいの少女なのに、日々戦いの中にいるのでしょうね。手斧の投擲軌道が途中で変化するとか反則よね。木製の武器じゃなかったら、大けがするところだったわ」

「だがアルフィの武器も相当えげつねぇのを使ったじゃねぇか。ありゃあアタイの部下の武器をいじくったな? 鞭の先端に鷹手をつけるとは、恐れ入ったぜ」

「とういうか、あの武器はなんだべ? 何本もの紐を結い合わせて、その先端に色々なものを取りつけていたべ? 捕縛網といえばそれまでだども、最後はがんじがらめのうえに首まで締まって気絶しただ。団長、あんな武器で戦ったことがあるだか?」


 ドロシーの質問に、アルフィリースは意地悪く笑っていた。


「縄術というものよ。武器の制限がないと聞いたから、一応ミランダに確認をとってから使ったわ。あんなものと戦ったことのある戦士はないでしょうし、エルシアから相手が正統派の戦士だと聞いたからね。あの手の姑息な武器が効きそうだと思ったら、その通りにはまったわ」

「あんな戦い方が・・・」


 エルシアがその場の末席で唸っていた。エルシアは無事女性部門の本戦出場を決めていたが、自分を倒したサティラとアルフィリースの戦いが気になり、その場に赴いた。そしてアルフィリースの戦い方を見た。

 懸命に戦うサティラに、どこかからかうように一つずつ縄を絡めて相手の自由を奪うアルフィリース。紐の先端には鷹手、釣りに使う返し、相手に当たると輪が閉じる獣用の罠がついており、サティラが盾で防御しようが、全く意味のない結末をもたらした。

 アルフィリースの縄でがんじがらめになって動けなくなったサティラは、振りほどこうとして自ら首を締め落とされて敗北したのだった。

 エルシアは唸った。まさかあんな方法で相手を封じ込めるとは考えていなかったのだ。エルシアは生き延びるためならなんだってやるつもりでいたが、戦いにおいてどうしてそうしなかったのかと思い直した。剣の型を学ぶうちに、知らぬ間に考え方まで型にはめてしまっていたようだ。

 だが同時に、アルフィリースの戦い方は真似できないこともエルシアにはわかっていた。エルシアは自分に戦い方について再度模索する必要がありそうだと、話の途中で席を立って去っていった。

 アルフィリースはそんなエルシアの背を見て面白そうに笑うと、自分の話題に戻っていた。話はそれぞれの次の相手に移っている。


「団長の次の相手は誰だよ?」

「エーリュアレって人らしいけど、誰?」

「デカ女、頭が沸いてますか? 本当に誰か忘れたのなら、命に関わりますよ?」

「冗談よ、忘れるわけないわ。それより私はその次が気になるのよ」


 アルフィリースはややリサに気遣って言った。勝ち上がれば、次はジェイクの可能性がある。リサもまたため息をついていた。


「互いに戦士なら、こういうこともあるでしょう。ですが今回はあくまで武術大会。誰に遠慮することもありません。むしろ全力で戦っていただけることこそ本望」

「そう言ってくれるならいいのだけどね。ジェイクの相手も気になるのよ」

「・・・やはり、『あの』ミルネーですか?」


 リサは覚えのある名前に、不吉な予感を感じていた。それはアルフィリースも同様だ。


「ええ、私が追い出したミルネーだと思うわ。だけど、彼女は予選を勝ち抜けるような腕前ではなかったはず。死ぬほどの努力をして運を味方につけたとしても、ここで出会う出来事自体にどこか禍々しい印象が拭えないのよ」

「戦いぶりを確認したわけではありませんが、確かにそうですね。イェーガーを出てから何をしていたのか、今どこの傭兵団にいるのかなど、少し調べてみるとしましょう」

「お願いするわ。取り越し苦労だといいのだけど」


 アルフィリースはリサに伝えて本戦初日の勝利を祝うと、食事を早々に済ませてレイファンの元に戻った。ここからはレイファンの補佐と警護をしながら、自らが統一武術大会に臨まなければならない。

 アルフィリースには優勝する気などないし、さすがに優勝できると考えるほど己惚れていない。魔術のない純粋な戦闘能力ならラインやヴェン、ウィクトリエなどが上だと考えている。

 だが話題のイェーガーの団長としての注目度が想像以上なのは感じていたし、無様な負け方をするわけにはいかなかった。それに影との特訓でどこまで自分の力が伸びているのか、純粋に試してみたかったのだ。


***


「遅くなってしまったわね」


 アルネリアの介護教諭であるハミッテは、グローリアでの残務を片付けると帰宅の途についていた。統一武術大会の規模が大きいせいで、元々口無しであった彼女にまで仕事が舞い込んできた。回復魔術を使うほどでもない軽症者、体調不良などの介抱を担うこととなり、その後グローリアに戻って仕事をする日々だ。

 介護教諭といっても、正式に医学や薬学も学んだハミッテの知識はアルネリア内でも有数だ。口無しとしての暗殺術、毒物や薬物の知識から簡易の回復魔術、医療技術まで修得したハミッテの出番は思ったよりも多い。経験の差はあるが、後方支援要員としてはラペンティよりも上だと認識されている。医術が普及していないこの世の中では、ハミッテの知識だけでもと必要とされる場面は多い。

 グローリアの学生は将来のアルネリアを担う貴重な戦力だし、彼らを護りまた適切な創傷や病への対処を教えることは重要視されている。

 ハミッテ自身も自らの役割の大切さを理解しており、アルネリアへの貢献を考えているが、同時に不満も抱いている。最前線に残ることができなかった未練がその際たるものだが、鬱積した不満は時間が経つに従い熟成され、恨みへと昇華していた。


「(アルネリアに、あの女に思い知らせてやる。まだ私は終わっていないということを。そのためには実績が必要だ。今のままの後方支援では貢献度が足りない。ブランディオも得体がしれないし、『あの人』がどこまで先のことを考えているかもよくわからない。このままでは『あの女』に復讐する機会が訪れるのは期待できないけど、そんなのは我慢がならない。もう我慢の限界はとっくに超えているのよ。

 切り札はマスカレイドだと考えていたけど、そもそも役に立たないかもしれない。ならばどうするか・・・次の手を考えるべきだろうか)」


 ハミッテがそのような考えを抱きながら、暗くなったグローリアの廊下を歩いている。もうグローリア内にはほとんど人気がなく、夜間警邏やかんけいらの周辺騎士団員が定期的な巡回をする程度でしかない。慣れているハミッテですら、カンテラをかざしながらでなければ歩けないほどに暗い。グローリアの周囲には民家はなく、夜にもなると灯りは月や星が頼りとなる。

 そして反対側から同じようにカンテラの灯りが近づいてきた。警邏の騎士が二人組であることを確認すると、ハミッテは笑顔で挨拶した。


「夜間警邏、お疲れ様です」

「・・・」


 だが騎士からは返事がなく、うつろな瞳で彼女を無視して通り過ぎた。足取りも怪しいし、余程疲れているのかとハミッテは思ったが、すれ違った瞬間、緩慢な動きがなんだったのかと思われるほど素早い動きで騎士が襲い掛かって来た。



続く

次回投稿は、1/26(金)11:00です。

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