戦争と平和、その103~会議四日目③~
「シェーンセレノ殿、一つよろしいでしょうか? 軍を興すと言いだした者が、まさかお金だけを出してはいさようなら、なんてことは言わないでしょうね?」
「その言い方はどうかと思いますが、微力ながら軍略に関しての知識もございます。私どもの手勢を含めて、軍師としてでも参加できればとは考えていますわ」
「それは結構。ですがもう一つ。此度の合従軍、最終的な目標はどのようにお考えか」
アルフィリースの問いかけに、澱みなく笑顔でシェーンセレノは答えた。
「オークを始めとする、我々の脅威の排除ですわ」
「・・・なるほど。失礼いたしました」
「いえいえ。貴女の傭兵団はかなりご活躍ともっぱらの噂。合従軍でも頼りにさせていただきますよ?」
「報酬さえしっかりといただければ」
シェーンセレノの問いかけにアルフィリースは笑顔で応えたが、それが本心ではないことをレイファンは見抜いていた。
そしてその日の会議は午後を待たず、早々に解散となった。議題の大きさに、他のことは話にならなくなったのである。各国が中座を申し出自国の調整に入る中、レイファンもアルフィリースを伴い控室に戻っていた。
「アルフィリース、どうするつもりですか?」
「どうする、とは?」
「とぼけないでください。合従軍に参加するつもりかどうかと聞いているのです。いえ、まずは合従軍そのものに賛成するかどうかですね」
アルフィリースはその質問をにべもなく返した。
「それを決めるのはレイファンや各国の使節でしょう? だけど残された選択肢はそれほど多くないように思えるわ」
「ええ、そうです。そうなってしまいました。合従軍は起こさざるをえないでしょう。それもシェーンセレノの主導によって。主導権はドライアン王に移譲されたかに見えますが、実質の指導者はシェーンセレノとなるでしょう。人間をまとめるのには、誰か補佐が必要ですからね。私かミューゼ殿下がやると考えていましたが、向こうの根回しの方が早かった。残念です」
「・・・あの根回し、会議前からじゃないかしら」
アルフィリースがぽつりともらした言葉に、レイファンも頷いていた。
「ええ、おそらくは。私もミューゼ殿下もそれなりに裏では動き、手ごたえを感じていました。仮に会議開催から寝ずに工作したとしても、現状以上の成果は得られなかったはず。それを会議の期間だけで、あれほどの賛同者を作ることは不可能です。魔術を使った様子もありませんでした。
そうなると、会議が始まる前からこの展開を読んでいて、最初から合従軍を興すつもりで動いていたとしか思えません」
「平和的な解決手段を探るための平和会議のはずだけど、大人しそうな見た目と裏腹に好戦的ってことね。あとは図ったようなタイミングのよさ。一つの可能性として、シェーンセレノとスウェンドルは密通しているかもしれないわ」
「まさか? そんなことをして何の得が?」
「得はないかもしれないわね。ただし、二人とも黒の魔術士の関係者である可能性がある」
アルフィリースの言葉に、レイファンは息を飲んだ。大陸でもっとも勢力のある元首たちが征伐すべき敵――そんな馬鹿なことが起こっていれば、そもそもが黒の魔術士を打倒することは無理ではないか。そんな絶望的な考えがレイファンの脳裏によぎったが、アルフィリースはレイファンの肩に優しく手を置いた。
「心配しないで。良くはない状況だけど、想定した範囲内の出来事よ。レイファン、これからの作戦をあなたにだけ話しておくわ。あなたは合従軍の中枢に食い込むことだけを考えて頂戴。これ以上シェーンセレノに好き勝手をさせてはいけないわ」
「それはそうですが、アルフィはどうするつもりなの?」
「奴らと同じことをするのよ。私がローマンズランドに乗り込むわ」
「!? アルフィ、あなたまさか・・・」
アルフィリースは笑顔でレイファンに微笑むと、これからの作戦を伝えたのである。
続く
次回投稿は、1/16(火)11:00です。