戦争と平和、その102~会議四日目②~
スウェンドルは続けた。
「どこから湧いて出たのか知らぬが、オークの群れが我が国には多くてな。少しずつ征伐していたのだが、ある日一斉に大軍が湧いてきた。だが我が首都には向かわず、周辺国に向かったのだ。
その群れを追いかけて軍を興した。それが今回の南進の真実だ。それがどこでどうねじ曲がったのか、オークの群れを我々が使役していると噂されていた。迷惑な話だ」
「では全てはオークがやったと?」
「当然だ。このオーク共は指揮官級以上の王種と呼ばれる類の亜種だ。貴殿らも知っての通り、王種は魔王となることも多く、非常に指揮能力が高い。放っておけば別の指揮官を育て、軍体並みに統率の取れた軍勢を作り出す。アルネリアの援軍など待っていれば被害が広がるばかりと考え、単独で軍を興したというわけだ」
スウェンドルの言い訳は、それだけ聞いたならば筋が通っていると言えなくもない。だが本当にそうなら、なぜ昨日のアンネクローゼは何も言わなかったのかということを口にする勇気ある諸侯はいなかった。
それに、疑問を口にする間も与えずスウェンドルが続けた。
「これでもオークの軍勢は崩れていない方面もある。それに逃げた連中、散り散りになったため各個撃破をしている地方もある。それらを倒す過程で周辺諸国に被害が広がったのは認めよう。
だがあれらの残党を全て片付けるとして、正直たった二月はちと短い。ゆえに、どのようにすべきかと悩んでいた」
「ならば、なぜ最初に相談なさらなかったのです?」
ミューゼの問いかけに、スウェンドルが答えた。
「王女よ。武力以外に特徴のない我が国が、いかに大軍とはいえオークごときを全滅させられないと言えると思うか? 国の多くは面子で動く、貴殿ならわかるだろうが」
「実益が勝るならそうかもしれませんが、今はそのような状況では――」
「ではスウェンドル王のお話をまとめると、自らの国の疑いを晴らすためなら、恥も外聞もなくここにいる諸侯に力を借りる。そういうことですわね?」
突然の発言に一同の注目が集まった。ここに来て自発的な発言をしたのは、シェーンセレノ。稀代の弁論家と言われた彼女が、初めて発言らしい発言をした瞬間だった。
そしてシェーンセレノの発言に、初めてスウェンドルが固い表情を崩した。
「ふむ、ようやく話のできる諸侯が現れたか。シェーンセレノ殿と申したか? おっしゃる通りだ。我が国だけでもオーク共の掃討はできるだろうが、いかんせん時間がかかり被害も広がるばかりだ。ゆえに、私がここまで出向き、諸侯の力を借りようとしたわけだ。
初日は様子見。信頼できる者がどれほどいるか測りかねたのでな。だがアンネクローゼの弁論が些か暴走気味だったので、もはや情けに縋るしかなくなったというわけだ」
「なるほど。であるなら、協力しない理由もありませんね。微力ならば力添えになりたいと考えますが、情だけで国が動くものでもございますまい。貴殿の征伐のため出兵した国に対して、利になることはおありですか?」
「もちろんタダでとはいわん。オークは知っての通り、その油を利用できる。それらの処分は全て出兵した国にお渡ししよう。それに我が国からも、鉄鉱石などはお出しできる。あとは近隣諸国であれば、領土内での魔物討伐を請け負う、などというところか」
「なるほど、私は賛成いたしますが、諸侯はいかがでしょうか。賛成の方は挙手をお願いいたします」
ミリアザールとミランダが待てと言う前に、シェーンセレノの言葉に応じるかのように挙手が次々となされた。半数とは言わないまでも、3分の1はゆうに超える数だった。
その場面に来て、アルフィリースやレイファンを初めとして、何人かの使節はこの会議が既に破綻しつつあることを察していた。
「(なんてこと。既にここまでシェーンセレノが動いていたなんて。手を上げた連中は、全て予定調和だわ。シェーンセレノの裏工作がここまで早いとは。議論がなされる前に合意に至ってしまう)」
「(これはまずい・・・このままではシェーンセレノ主導で合従軍が興されてしまいます。戦利品などの分配の懸念を餌にしての話が逸らせるかどうか。ローマンズランドの保障など、軍を出す見返りとして十分とは言えないでしょうに、義などで合従軍が興されれば経済的に困窮している国は窮地に陥る)」
警戒心を抱いたのは、ミリアザールとミランダも同様である。
「(ふん、勢いで合従軍を興すだけならまだよいわ。だがなし崩し的に合従軍とローマンズランドとの衝突が起こるとしたら――最も懸念するのはそこであろうよ。合従軍の正当性を主張する国と、ローマンズランドに靡く国で収集がつかなくなるぞ)」
「(話がいつの間にか、戦いありきになっている。オーク共が湧いた原因をそもそも明らかにすることが重要でしょうに、どうしていきなり殲滅のために合従軍を起こさねばならぬのか。平和会議だというのに、良くない話の流れだわ)」
ミリアザールとミランダも警戒しながらも、現時点では何も言いだせないでいた。アルネリアが主導権を取るのはよい。だがここで反対できるだけの諸侯がいなければ、結局意味がないのだ。そうでなければ、ローマンズランドとアルネリアの対立の様な構図になってしまう。
そこでいち早く動いたのはミューゼ。ぱん、と手を叩くと注目を再度自分に引き戻した。
「合従軍を興すとして、総大将はどうするのか、指揮官はどうするのか。また合従軍に反対の国まで出兵すべきかどうかを決めなくてはなりません。いきなり合従軍に参加しろと言われても、軍事能力や経済能力的に難しい国もありましょう。貢献の仕方はそれぞれあるのですから。
話し合いはこの場で場当たり的に決めるのではなく、一度各陣営に持ち帰ってから話しあっては?」
「その必要はありません。総大将は誰が見てもグルーザルドのドライアン王がよろしいでしょう。軍を興すのに必要な金や物資は、私どもで全て負担させていただきます。諸国は兵をどの程度出すのか、あるいは別の形で貢献するのか。それだけを検討していただければよろしい」
シェーンセレノの提案に場がどよめいた。ミューゼは時間を置いて工作を進めようと思っていたのだが、これでは時間が確保できない。そしてシェーンセレノが自分を指揮官だと言い始めれば、そこから反論の口火を切ろうと思っていたのに、それすらもできなかった。
しかも合従軍を興す際に最も懸念される自己負担を、全て賄うと言っている。どのくらいの費用になるかは不明だが、それほどの義を示されては、ここで反論した方が悪者になってしまう。国を滅ぼしかねないほどの魔物の群れの討伐は、どの国としても是であることに変わりはないからだ。
そして場がどよめく中、諸侯を差し置いてシェーンセレノに質問を投げたのは、アルフィリースだった。
続く
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