戦争と平和、その100~会議四日目、統一武術大会⑧~
「オーダインと緒戦で戦うのがタジボか、ご愁傷さまだな。ウィクトリエとジェイクがアルフィリースの近くにいて、ヤオは2回勝ったらあんたのとこのリュンカか」
「ほう、見物だな。リュンカもヤオのことは以前から気にしていた。楽しみにしているだろう」
「あとはそれなりに何回か勝ちそうかな。あんたのとこの戦士で要注意なのはいるか?」
「教えると思うか?」
ロッハが意地悪そうににやりとして、残念そうにラインが舌打ちした。
「ちっ、情報くらいくれよ。ケチ」
「よこすほどの情報がないだけだ。グルーザルドの獣将は俺とリュンカだけ。他にも隊員程度は何人も参加しているが、ヤオほど有望なのはいないよ」
「血気盛んな旦那がいなかったか?」
「ヴァーゴか。あいつが会議で何か足しになることができると思うか? まとまりかけた交渉をぶちこわす役目なら、うってつけだろうが」
「ひでぇ言い草だ」
ラインもその通りだと思ったが、あえて賛同はせずに苦笑するにとどめた。ロッハが続ける。
「それなりに人間とも話し合える人材を揃えたつもりだ。中身はともかく、人間の世界でもそれらしく振る舞えるだろう」
「予選会のていたらくを見ていると信じがたいが、まぁ大きな問題を獣人が起こしたとは聞かんな。流れの獣人連中はどうか知らんが」
「獣人は粗暴だという印象を、多少でも拭えればいいと思っているが。これから先、人間との共闘には必要だろうからな」
「共闘?」
「ああ、実はな」
ロッハは会議の成り行きをラインに話した。別段国家機密というわけでもないし、信用できる人間と思っていたからだ。それにどのみちイェーガーの副団長なら、すぐにでも情報が知れることだろうと判断した。
「――というわけで、おそらくは俺たちが先鋒になるだろうな」
「ふーん。まぁ妥当といえば妥当だが。それだけか?」
「どういうことだ?」
「北の次は南。そういうことだろ?」
ラインの指摘にロッハは閉口した。ドライアンは南の蛮族たちは自分でなんとかすべきだと考えているが、ロッハはアルネリアの力を借りてでも解決すべきだと考えている。その目論見をこれだけの会話で見透かしてくるのかと、ラインのことを畏れたのだ。
ラインも少し口がすぎたと感じたのか、気まずそうに言った。
「噂にすぎないんだけどな、グルーザルドの南方が荒れてるってのは」
「いや、事実だ。そして長年の懸念材料であるとともに、絶好の実践の場でもある。だが先日、獣将二人を南方で失った。その死に方がどうも不自然でな」
「不自然?」
「いや・・・」
それきりロッハは黙ってしまった。南方戦線でアキーラとニジェールという獣将二人を同時に失った時、犯行はアルネリアではないかという推論が出ていたのだ。二人の遺骸は距離が近く、獣将二人をまとめて殺せるとなれば、油断させたに違いないと多くの者が考えたからだ。
ロッハが今回ドライアンの補佐としてアルネリアに赴いたのは、アルネリアという集団を直に観察するためでもある。犯人が捜せるとは思っていないが、何かとっかかりだけでも掴みたいのだ。
さらにイェーガーに派遣した獣人は、多くが派遣期間の延長を申し出ていた。彼らの意見、成長度合いを考慮し、その上でグルーザルドはさらに追加の獣人を派遣している。彼らの成長を見極め、今後のイェーガーとの関わり方を検討することも任務である。
もう一つ、老将カプルに頼まれた一件を見極めるという任務もある。ドライアンの後胤が誰なのか、おそらくは今回の大会でわかると踏んでいた。ドライアンの落し胤ともなれば、なんらかの才能をこの大会中に示すであろうとも。
それらをさすがにラインにも語るわけにはいかない。ロッハは話の矛先を変えた。
「それより、南といえば南方からの部族も競技者として見かけたな」
「いわゆる蛮族ってやつか? 確か肌色が俺らと比べて黒いんだよな?」
「肌色でいうなら褐色、というところか。南は陽射しがきついからな。それに彼らは服をあまり纏う習慣がない。中には非常に高度な文明をもつ部族もいるし、自分達の経路で大陸の西部や東部の一部地域と交易をおこなっている連中もいる。それに獣人の国とずっと戦い続けていたせいで、武芸に優れた者が多いのも特徴だ。
仮に彼らの戦士長級の者が出てきていたら、苦戦は免れないかもな」
「なるほど。それは有益な情報だな」
ラインは思い出した。大会の前、有力な戦士を発見したら声をかけるようにとアルフィリースが言っていたのだ。これほどギルド経由で好待遇と情報を流し、近年まれに見る活躍をしておきながらなお新規の逸材がいるのかとラインは疑問に思ったが、未開の部族、なんらかの理由で表に出てこられない者たちなら納得がいく。
予選でダロンとやりあっていた子供の仲間といい、確かにまだイェーガーの戦力を増やせるあてがありそうだとラインは納得していた。
続く
次回明日1/10(水)12:00投稿です。