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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その98~会議四日目、統一武術大会⑥~

「結構やったわね、リリアムの奴。悔しいけど、最強相手に堂々の戦いぶりだわ」

「素直だね、エルシアにしては」


 レイヤーの評価にエルシアがむくれていた。


「当然でしょ!? 私をなんだと思っているのよ。相手が半端じゃなく強いのは私でもわかったわ。純粋な剣技って意味では、うちの団にも対抗できるのがいないんじゃない? ヴェンか、ライン副長・・・でも無理な気がするわね。あんなに強い人が世の中にいるのね。

 そんな相手に対して、リリアムは堂々とした戦いぶりなんじゃない? まぁ、相手が本気なのかどうかは疑わしかったけど」

「へぇ・・・」


 エルシアの感想に、レイヤーは感心していた。まさかエルシアがそこまで敏感に相手の強さを測れるとは思わなかったのだ。一つ異論があるとすれば、リリアムは端から勝てないことを悟っていたが、技量を出し切りながらも「演武」としての役割を全うしたのだろう。

 そしてレーベンスタインは本気ではあったろうが、実戦慣れしていないのではと考えた。実戦の勘を戻すために、手堅い戦い方をしたのだと予想をした。それでもリリアムをあしらえるほどの強さ。おそらくは日程が進むほどに本領を発揮するだろう。

 レイヤーは1-2回戦で棄権するつもりだった。対戦表を見て、もしリリアムが勝ち上がってくるようだったら、そこまでは行くつもりだった。そして健闘して、負ける。それが筋書だったのだが。


「困ったな・・・」


 レーベンスタインがあそこまで強い剣士となると、どうしても戦ってみたい。だが全力で戦えば周囲に力量がばれるだけでなく、木剣であってさえレイヤーにとって命がけの戦いになる。あれほどの剣士を相手に加減などする余裕もないだろうし、加減されるほどの自分の実力が低いとはもはや思えない。少なくとも、全力を引きずり出すことくらいはできそうな実力差だと、肌感覚で理解していた。

 だが葛藤から思わず漏れたレイヤーのつぶやきは、エルシアにとって別の意味だと思われたのか、エルシアが脇を小突いてきた。


「何が困るのよ? それより次の対戦相手に集中しなさいな。本戦から出てくる相手に弱いのはいないんじゃない?」

「・・・どうかな」

「どこかの国の騎士でしょう? 対策は?」

「相手のことがわからないんだから、どうしようもないさ。お腹でも壊してくれないかと、昨日はずっと祈っていたよ」


 レイヤーの言いようにエルシアはぽかんとしたが、不満をぶちまけようとしてやめていた。


「・・・この数日であんたに何度呆れたからしらね。もう呆れて何も言えないわ」

「そう言われてもね」


 エルシアが盛大にためいきをついてみせたが、実はもう相手のことはわかっている。そして勝負の結果も。レイヤーは去って行くレーベンスタインの背中を見つめていたが、彼の姿が見えなくなると、自身も会場に背を向けて、控室に向かったのだった。


***


「次の闘技者、前へ!」


 会場に足を踏み入れたレイヤーは、円形競技場からの光景に驚いた。後ろに行くほど高くなり、万を超える人数を収容するように設計されたこの競技場に満ちた人から歓声が降り注ぐ。これほどの人間から注目されることなど、これから先の人生でそう何回もないだろうとレイヤーは思う。

 観客の歓声が大きく、審判の声がようやく聞こえる程度だった。審判はリリアムの戦いと同じ人物で、近くで見るとアルネリアの関係者として見覚えがあるような気がしたが、レイヤーは名を知らない相手だった。

 審判はレイヤーが年少だと思ったのか、戦いの前に他愛のない話をした。緊張をほぐそうという配慮だろうが、レイヤーに一切の緊張がないのを悟ると、事務的な説明だけをした。


「では次の競技者の紹介だ! 一人はイェーガーの剣士レイヤー! まだ成人前なのに予選を勝ち抜くとは驚きだ。普段は荷運びの作業を請け負う少年で、剣を握ってまだわずか2年。運も味方した予選だったようだが、その幸運はどこまで続くのか!?」


 自己紹介の内容は事前聴取の用紙に審判が手を加えたようだが、レイヤーは面倒だからほとんど書き込まなかった。なのに工夫して紹介してくれる審判の人となりを見て、ちょっと申し訳ない気持ちになっていた。

 審判が続けて対戦相手を紹介する。


「対戦相手は、ザルツ公国の上級騎士シュトラー男爵! 通算4回目の参加になるが、最高で3回戦まで勝ち上がり、前回大会ではシード相手に激戦を繰り広げたともっぱらの評判だ! どのような戦いだったのか気になるが、私は知らない!」


 それはそうだと、観客が野次をいれる。審判を気を取り直して、


「ではその実力をかいまみよう! しかしシュトラー男爵はどこへ・・・?」


 そう、目の前に対戦相手のシュトラーはいない。自己紹介が終わるまで登場しない競技者もいるそうだから、必ずしもおかしくはないのだが、シュトラー側の控室から人が走って来た。明らかに関係者の格好をした男が、何やら審判に耳打ちをした。

 すると審判は少し驚いた顔をした後、頷いていた。


「えー・・・シュトラー男爵はどうやら控室にいないようだ。ならば規則に従って、イェーガーのレイヤーの不戦勝とする!」


 観客がどよめいた。名誉ある武術大会に出場しないなど、騎士であるなら余計に考えられない。だが同時に会議が開催されていたり、あるいは予選から勝ち上がった者などは負傷がひどくて戦うことができない者も多いため、棄権自体はそれほど珍しくはない。最高の治療を受けられるアルネリアのお膝元であるとはいえ、予選勝者にも重傷のため、本戦を辞退した者はいた。

 しかし騎士であるなら辞退の場合事前に通告することが多いのだが、それもなく審判たちも不思議そうな表情をしていた。だがレイヤーは動揺するでも喜ぶでもなく、その場で一礼をして、先ほど自分がいた場所にいるイェーガーの応援に向けて手を振ると、会場を後にした。

 そして会場と控室の間、丁度死角になる場所にルナティカがいた。



続く

次回投稿は、1/6(土)12:00です。

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