戦争と平和、その97~会議四日目、統一武術大会⑤~
果たして、レーベンスタインの構えだけでその実力を感じ取れる者がこの会場に何人いたのか。対峙しているのならわかるが、周囲から見てその実力を感じ取ることができるとは、なんと恐ろしい剣士なのかとレイヤーは感じていた。ターラムで戦った強敵たちが可愛く見えるほど、レーベンスタインの構えは完璧だった。
「(どこに打ち込んでも、崩せる予感がしない。リリアムだって気付いているだろうに、どうやって戦うんだ?)」
レイヤーの予想通り、リリアムの表情は一度青ざめ、次の瞬間には再度引き締まっていた。リリアムもまたレーベンスタインの実力を一瞬で感じ取りながら、戦うために気を引き締めなおしたのだ。
リリアムは「はあぁっ」と息を吐くと、構えを突きに変えた。それに応じてレーベンスタインの構えも変わる。そしてリリアムが今度は居合のように剣を背後にして構えを低くとると、再度レーベンスタインが構えを変えようとする。その瞬間を狙って、リリアムは木製の短剣を複数同時に投げつけた。
観客たちがその不意打ちに「あっ」と言ったが、レーベンスタインもその程度の不意打ちに動揺するほどではない。ただし、木製とはいえ体に当たれば有効な攻撃とみなされる。ダメージはないのだが、点数制の模擬試合ではこのような手段を用いることはままある。
レーベンスタインは最低限の短剣を払い反撃しようとしたが、それより速くリリアムが間を詰める。そして一歩飛びこむ姿勢からの突きで先手をとった。
「シィッ!」
リリアムの高速の突きが連続でレーベンスタインに襲い掛かるが、レーベンスタインはそれを最低限の動きで全ていなしていた。だが何撃かはかすっていたので、審判が有効の判定を下し、手がリリアムの方に上がる。
観客が俄然盛り上がる。
「いいぞー!」
「押しきれー!」
そして盛り上がる観客に応えるように、リリアムが攻め手の勢いを上げた。続けて有効の判定が下され、観客はさらに盛り上がる。
エルシアも観客と一体になり、いつの間にかリリアムの応援を始めていた。
「やるじゃない、あの生意気女! 押してるわ」
「・・・違う」
「え?」
「手を抜かれている・・・とは少し違うのか。攻めさせられている、と言った方が正しそうだ」
レイヤーの読み通り、リリアムはこれだけ一方的に攻めながらも手ごたえを一切感じていなかった。先手をとって一気呵成に終わらせるのは確かにリリアムの得意とするところではあったが、攻撃の回転が上がりすぎて、息継ぎの間すらない。
だが息継ぎをすれば確実に相手が反撃にくる。それだけはわかってしまう。なぜなら、剣先の戻し際を見られているからだ。
リリアムはぞくりとした。剣先を見られているということは、既に剣は見切られているということだ。息が切れた瞬間が、負けになるだろう。二度と攻撃する暇は与えられまい。リリアムは肺が悲鳴を上がるのを聞きながらも、限界を超えて攻め続けた。これほど攻撃が苦しいと思ったことは初めてのことだ。
だが人間の肺活量では限界がある。リリアムは呼吸が限界を迎えると、飛んで間をあけた。追撃はなかったが、明らかに息が切れたリリアムと、生き一つ乱さないレーベンスタインを見て、観客たちもどちらかが真に優勢だったかと悟る者が出てきた。
そしてリリアムは思わず、レーベンスタインに問いかけていた。
「全く反撃しなかったけど、手を抜いていたの?」
「いや、そのようななつもりはない。私は戦いとなれば、相手が女子どもでも手を抜くことはない。だがしばし実戦から遠ざかっていたゆえ、緒戦は勘を取り戻すために使うつもりであった。そこにおぬしという緒戦にしては強敵過ぎる相手と見え、少々手堅くなっただけだ。
勘違いさせたならば許されよ」
「はっ、そうですか。少々手堅いってだけで、渾身の攻めを全部回避されるとはかたなしだわ」
「全ては回避していない。有効打は入っていたはずだが」
「模擬戦ならそうでしょうね。でもこれは実戦だわ。私は生きるか死ぬかの瀬戸際で、常に剣を振るってきた。当てて点数を稼いだからといって、浮かれるような真似はしないわ」
リリアムは再度構えを変えた。突き主体だが、さらに前傾して最速の形をとる。話しながらでも息を整え、最後の攻勢に賭ける。散々ここまで払いを見せた。防御を捨てて突きの速度を上げればついてこれないとの目論見だ。
構えの意味を悟ったのか、レーベンスタインもまた構えを変えた。剣を支えるように小手を添えて、受けの構えをとる。その構えを見て、リリアムが吠えた。
「受けでしのげると思うな!」
「さて、受けには些か自信があるのだが」
リリアムの最速の突きが繰り出され、観客の目にも止まらぬ速度で二人が交錯した。結果――リリアムの剣が高く宙に舞い、その首筋にレーベンスタインの剣が付きつけられていた。
地面に剣が落ちると同時にリリアムはため息をつき、敗北を宣言した。
「――私の負けだわ」
「勝者、レーベンスタイン!」
間髪入れず、審判が勝利を宣言し観客が大きく盛り上がった。緒戦からの熱戦に観客は大きく盛り上がっていたが、その実二人の間には大きな隔たりがあることはほとんど誰もが理解していなかった。
一礼して背を向けたレーベンスタインはリリアムに何も言わず去り、リリアムもまた観客に手を振りながらその場を後にした。悔しくないわけではない。だがこれは祭りの余興でもあり、腕を披露し高め合う場でもある。リリアムにとって、最強と呼ばれる騎士と戦ったこと自体は決して悪い意味を持つわけではなかった。
そして彼らの戦いを見ていたエルシアとレイヤーは、口々に感想を述べた。
続く
次回投稿は、1/4(木)13:00です。