戦争と平和、その94~会議四日目、統一武術大会②~
「出場者が100人いないようなかつての大会でも、それなり以上に実力者がそろっていたわ。それに、私が純粋に戦士としての実力だけで戦ったことも影響したかしらね。3回ほど出場したけど、どんな大会でも一人くらい予想外の実力者が紛れ込んでいるものよ」
「では、今回も?」
「ティタニアを上回るほどの実力者がいるとは考えにくいけど・・・もしいたらそれはそれで好都合ね。エルザ、私たちの目的を忘れていないわね?」
「はい。ティタニアの抹殺であれば、彼女が武術大会で疲弊したところを狙うのが効果的です」
エルザの答えに、ミランダは頷いた。
「よろしい。そのために規模を大きくして長大なトーナメントを組んだのですからね。仕掛ける時期は任せます。そのために巡礼にも召集をかけたのだし、必要とあればジャバウォックたちを駆りだすことも厭わないでいいわ」
「ジャバウォックたちが協力してくれますか?」
「そこはミリアザール様に泣き落としでも色仕掛けでも、なんでもしてもらうわよ。ティタニアを狩れるなら手段を選ぶなってこと」
「わかりました、やれるだけやってみましょう。ところで、ミランダ様が指揮をとらなくてよろしいのですか?」
「私はちょっとやることがあってね」
ミランダはにこりと笑うと、エルザに手を振ってその場を後にしたのだった。
***
朝の会議場は、少し物々しい雰囲気に包まれていた。
統一武術大会が本戦へと入り、各使節団からは参加者が何名も出ている。アレクサンドリアも半分以上が武術会の出場者であり、会議に配慮して午後から夕刻にかけての出場を予定されているものがほとんどだが、召集から時間がない場合もあるため、それぞれが戦闘用の装束で会議に臨んでいた。
毎回恒例のこととはいえ、平和会議が見た目として最も殺伐とする瞬間だった。その中でもディオーレの正装は目を引いた。軽装とはいえ鎧に身を包んだその姿は、まさに戦乙女と言われるだけの凛々しさを醸し出し、彼女が鎧を鳴らしながら闊歩する姿に誰もが目を引かれた。
会議場でアルフィリースと鉢合わせすると、彼女たちは互いに言葉を交わした。
「さすが格好良いですね。それが大陸最強の女騎士の戦装束ですか」
「兜はつけないし、重鎧ではないがね。そなたは普段着に見えるが?」
「傭兵なので、騎士のように鎧はつけませんから。身軽が一番です」
「素早さには自信があるということか。よい情報を聞いた」
ディオーレがやや意地悪く笑ったので、アルフィリースは苦笑いしていた。
「いやぁ、仲間たちはやれどこを露出しろだとか、南方の蛮族女の装いで出ろだとか、好き勝手を言ってましたから。ただ今回はそれなりに本気でやるつもりなので、いつも通りの格好で意思表示をしようかなと」
「ほぅ、本気でね。ちなみに今回の方式を知っているかな?」
「もちろん。今までの戦績や実績に応じて、32名のシードが割り振られています。ただシードと言っても、高名な戦士たちが早い段階で潰しあわないようにするのが目的というだけで、戦う回数は同じみたいです。
16名まで絞られると、そこから先は抽選になる。ただ一回戦は本戦からの戦士と、予選突破者がそれぞれ当たるようになっているみたいです。私も傭兵団の実績からか、シードをもらいました。25番という、なんとも中途半端なシードですけど」
「それなら16名になるまでに、別のシードと当たるわけだ。誰が同じブロックのシードかな?」
アルフィリースはトーナメントの一覧を書き写した紙を見た。最初の対戦相手以外詳しく見ていなかったが、自分と同じブロックのシードは11番と書いてある。名前は、ガンダルス。いかにも強そうな名前だが、アルフィリースは知らない相手だ。
「ディオーレ殿、ご存知ですか?」
「ああ、騎士の世界では有名だな。クライアの大将軍で、一番の武闘派だ。獣人との戦線でもしょっちゅう名前が出てくるし、クライアが他国と戦争状態になった時にはたいてい前線に名前がある。
先の戦争では名前がなかったようだが、かの将軍がいればもうちょっと戦況は変わっていたかもな」
「強い?」
「若い時の彼なら、騎士どうしの交流会で少し。方天戟を使う、大柄の戦士だった。アレクサンドリアに来ても、将軍にはなるだろう腕前だ」
「なるほど」
アルフィリースはあらためて組み合わせを見た。実はそのガンダルスよりも、厄介なのはガンダルスの近くにいるウィクトリエなのではないかとみている。魔術がない状態で、素のウィクトリエとやるとなると、肉体そのものの強さでかなり不利なのではないかとみていた。
ガンダルスとやらの強さが仮にダロン前後だとしても、ウィクトリエが全力でどつけばさすがに勝ってしまうはずである。
そして当面の注目は、緒戦の相手だ。エルシアを負かしたというサティラという傭兵。彼女が緒戦の相手だった。エルシアと拮抗した勝負をしたということでそれなり以上の使い手であることは間違いないが、アルフィリースの立場として苦戦しては立つ瀬がない。圧勝しなければならないが、どのように戦うべきか悩んでいるところだったのである。
そして悩んでいたせいか、いつの間にかディオーレがアルフィリースの手元にある組み合わせをのぞき込んでいることに気付かなかった。ディオーレの顔を間近でアルフィリースは見ることになったが、その表情を見るとやはり少女にしか見えないと思うのだ。
彼女が精霊騎士となる決断をしたときから容姿は変わらないと言うが、少女の時にどのような経緯でその決断をするに至ったのか、いつか聞いてみたいものだと思う。
ディオーレは組み合わせを見ると、面白そうに頷いた。
続く
次回投稿は、12/29(金)13:00です。