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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その93~会議四日目、統一武術大会①~

***


 会議四日目。


 この日の朝は統一武術大会の本戦開始を告げるように、より一層お祭り気分が強まっていた。

 大陸の文化人であるなら、統一術大会の権威と盛り上がりは知っている。優勝者は武芸者としては最上級の栄誉を受けることになり、士官の口にも一生困らない。もっとも騎士や、各国使節団が雇った者以外が優勝したことなどこの十数年ないのだが、部門別であれば突発的に無名の優勝者が出現することがある。

 一攫千金とは違うかもしれないが、平民にとっては充分に夢のあることで、観客たちの多くは自分の鬱憤や夢物語を重ねて、この武術大会を見に訪れる。また今回は立ち見の席などはミランダが無料開放としたため、観客の数はさらに例年よりも膨れ上がっていた。闘技場自体も観客が増えることを見越して、通例よりも遥かに大きなものを用意したのである。

 無料の観客でも、喉も渇けば腹も空く。闘技場に来さえすれば、近くの出店から食料を買い求める。大司教らしからぬ発想だが、ミランダは商業的な収入まで考えて統一武術大会を開催していたのだった。

 今日からミランダは責任者として、平和会議ではなくこちらを中心に顔を出すようになる。会場の視察と、審判の監督をまずは行わなくてはならない。傍にはエルザがいて、補佐のような役目を務めていた。


「ミランダ様、会場の確認は問題ありません。昨日まで部門別の本戦で使用していましたが、特に闘技者からは不満は出ませんでした」

「そう。部門別の本戦は滞りなく進んだのかしら?」

「はい、さしたる障害もなく」

「制限のない総合部門もなんとか予選が終了したし、ここまでは順調かしらね」


 ミランダは本戦の組み合わせを確認した。本戦からの闘技者、予選突破者合わせて計1000名以上の一大競技。怪我での棄権もあったが、不足した分には使節団やアルネリアの関係者から人数を補い、おおよそ予定通りの進行となった。

 ここからは本戦と予選突破者が一回戦で顔を合わせることだけが決まっており、天覧試合となる16名に絞られるまでの組み合わせが発表されている。もちろん、アルネリアからも出場者は多数出る。


「審判の手配は問題ない?」

「はい。アルネリアの巡礼から選抜し、また不公平があってはいけないので各使節からの志願者や、ターラムやギルドの人員も借りています。アリスト、ラファティ、イライザの模擬戦でその能力を確認し、選抜した者たちなので、能力には不足がないかと」

「あの三人の能力を上回る闘技者なんて、限られますからね。最後の16名まで絞られれば、どうなるかわからないけど」


 ミランダの言葉に、エルザはかすかなひっかかりを覚えた。


「一つ質問をよろしいでしょうか?」

「どうぞ」

「ミランダ様は誰が優勝するか、ある程度予想をしているのですか?」

「正直わからないわ」


 ミランダの返事に、エルザは首を傾げた。ミランダはエルザの反応を見て、なるほどと理解した。


「納得がいかないのね? 統一武術大会を見るのは初めてかしら?」

「はい。私はティタニアだとばかり」

「では一つ例を出しましょうか。仮にドライアン、ヴァルサス、アルベルト、ディオーレが全員参加しているとします。彼らのうちだれが勝つと思う?」

「それは・・・わかりません」


 エルザは正直に述べ、ミランダも頷いた。


「私もわからないわ。そして、彼らがトーナメントの早い段階で互いに潰しあったら? 勝ち残った一人も、万全でいるのは難しいのではないかしら。そうなると、もう誰が優勝するかわからないわね。おまけに武器も殺傷能力を押さえたものだし。

 事実、統一武術大会の歴代優勝者が、最も強い者とは限らないのよ。その時の組み合わせ、運も重要になるわ」

「ミランダ様は武術大会を観戦したことが?」

「観戦もしたし、運営するにあたって過去の大会のことを相当調べたし、何より私は参加したこともありますからね。それこそ私がアルネリアに所属する前、相当昔のことよ。

 毎回万全の体に戻せる不死身の私でさえ、最後の8人まで残ったことはないわ」

「ええ? そうなんですか?」


 エルザは素直に驚いたが、ミランダは薄く笑っただけだった。



続く

次回投稿は、12/27(水)13:00です。連日投稿です。

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