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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その92~会議三日目、夜④~

「その二人を盟主に据える理由は?」

「会議を見渡した限り、もっとも信用できる二人でしょう。盟主を選ぶのは、軍勢を招集した者の権利だったはず。ローマンズランドではなく、対魔王相手の軍勢の召集ということであれば、アルネリアにも正当性があるでしょうな」

「ふむ。だが二人の軍才はいかがなものかな。盟主を務めるのにふさわしいと思うか?」

「獣人が盟主では面白くないと考える諸侯も多いでしょう。そういう点では盟主というものは、諸侯に顔がきけばよい。実質的な軍の総大将は、俺が務めよう」


 ドライアンの言い分はもっともだった。確かにそうなることが理想的だが、ローマンズランドが何というか。明日以降の会議の出方が重要になる。それに、ローマンズランドの調査を依頼した者たちの報告も。

 ミリアザールは決断した。


「わかった、軍勢を招集する時はお主を総大将に据える。だが一つ心配がある。グルーザルド南の辺境は問題ないのか」

「それはグルーザルド国内の問題でしょう。それに、戦線を維持するだけなら問題はない。というか、あちらの戦線も黒の魔術士が絡んでいるのではないかと思っている。ローマンズランドに出兵して、黒の魔術士の目論見を挫くというのは、グルーザルドのためにもなると考えている」

「なぜそう思う?」

「ずっと前から考えていたのだが、戦線がグルーザルド有利になるたびに新しい魔王が現れたり、強力な魔物が湧いて来たり、蛮族たちの反乱が起きる。そのせいでグルーザルドはずっと南に釘付けになり、他の獣人国家へと目が届かなくなった結果、カラミティなどに横行を許す国が出た。あまりに間が良すぎる。

 これが黒の魔術士のせいだというのなら、説明もつこうというものだ。どのみち、やつらを一掃する必要があると感じていたのだ。これは俺たちにとっても好機だと考えている」

「確かにそうかもしれぬな」


 ミリアザール自身も南方戦線で発生する異常な戦闘頻度を疑っていたのだが、アルネリアも獣人たちの国に拠点は少なく調べようがなかった。巡礼を派遣していないわけではないが、蛮族たちの交流関係を調べるには、大陸東の人間は目立ちすぎる。

 ミリアザールはドライアンの申し出をありがたく受けると、いくつか細かいことを打ち合わせ、その夜は解散とした。深夜にたたき起こされた甲斐はあったと考えられる、ドライアンの訪問だった。


***


 アルネリアに深夜の訪問者がもう一組訪れていた。アルネリアの中には既に入れないが、闘技場の周囲には明確な関所などないため、いつでも訪れることが可能だ。深夜になるとさすがに開いている出店は少なくなり、また宿も空きがなくなるため、この時間に起きている者達は出店で酒を飲みながら酔いつぶれるか、朝を迎える者が多い。

 そこに馬を駆り訪れる一組の男女がいる。女は騎乗しているが、馬の汗は尋常ではなく、舌をだらしなく出して体力の限界であることが明らかだった。男は既に馬を乗り潰しており徒歩で女に従っているが、彼らの衣服はかなり汚れており、相当な強行軍をしてきたことが一目瞭然だった。

 深夜に祭りの場所にそのような格好で訪れた二人に対し、多くの者が目を合わせないようにした。なにかしら良くない事情があることが明らかで、せっかくの楽しい祭りに厄介ごとは御免だったからだ。

 それに、二人が羽織る黒いコートは誰にとっても畏怖の対象だった。男が気怠そうに女に話しかけた。


「姐さーん、ようやくアルネリアに着きましたけど、ここまで強行軍する必要があったんすかー? こんな夜中じゃあ、もう宿とか取れないっすよー」

「ここまで来れば野宿でも問題あるまい。適度に食べ物を仕入れ、あとは朝まで寝るだけだ」

「姐さんはそれでいいですけどねー、俺は馬が三日前に潰れてから、馬とおんなじ速度で走ってるんすよー? 温かくで柔らかいベッドで寝たいよー」

「ふむ、気持ちよく寝させてやる手伝いならできないこともない」


 女の言葉に、男がいろめきたった。


「はっ! まさか姐さんの添い寝!? ひゃっほーい! 頑張った甲斐があったなぁ!」

「頭、胸、腹。どれがいい?」

「ん? なんすか、その選択肢は」

「胸は楽だが、下手をすると心臓が止まる。腹は叩き方を間違えると、しばらく飯が食えなくなる。おすすめは頭だな。気持ちよく寝られるうえ、それ以上馬鹿になることはあるまい。どうだ、一発見舞ってやろう」


 女――ルイが剣を抜いてレクサスを見た。レクサスはそれを見て、すっとルイから離れていった。


「さーて、飯を確保して、柔らかい藁でも集めてくるかなー。最上級のベッドを作るぞー!」

「ああ、私の分も頼む」


 レクサスはルイの剣を頭にもらう前に走って逃げていった。峰打ちならまだいいが、うっかり刃をもらってしまえばそのまま永遠の眠りにつくこと請け合いである。

 そしてルイは一人残ると、馬から降りて馬に水を飲ませてやりながら、ふと闘技場の方を見つめた。


「さて、なんとか間に合ったな。あとは何とかしてアルネリアの指導者たち――できれば大司教以上に会うことが重要になるが。アルフィリースを頼ってもいいのだが、あまり借りを作りたくはないしな。

 とりあえず、明日からの本戦で勝ち抜けば会いやすくなるだろうか。しかし、ヴァルサスも無茶を言う。とりあえず統一武術大会のシードをもらったから、出場して来いだのとは。移動用の飛竜が大会期間中はこの一帯を飛べないことを知らないのか」


 ルイは馬の背をさすりながら自らの団長に向けて文句を言い、統一武術大会本戦に向けてひと時の休息をとることにした。



続く


次回投稿は、12/25(月)13:00です。

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