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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その86~会議二日目、夜②~

 ジェイクは魔術で剣に聖別を施した。それを見てオシリアが嗤う。


「フフフッ、そんなちゃちな剣で私を倒すつもり?」

「・・・」


 オシリアの嘲笑も気にかけることなく、ジェイクは無心で構えていた。ティニーとの修行で得た深い瞑想状態の効果がまだ持続していることを感じている。疲労もあるから、全力時に比べて3割ほど動きが鈍る可能性があるだろうと冷静に分析できている。スタミナに関しては、戦い終わるまではもつだろうと想像していた。

 相手は現在13体。際限なく召喚で現れるだろうが、殺気も気配も隠すことなどできない悪霊など、いかに強力だろうとものの内に入る気がしない。

 ジェイクは剣を構えると、まっすぐオシリアに斬りかかった。ジェイクの行動は、オシリアにとっては悪手にしか見えなかった。


「囲まれているのがわからないの?」


 オシリアはジェイクが突進してくるのを見て、左手をかざす。オシリアの攻撃方法の一つに、念動力で空間を捻じ曲げるというものがある。視線だけで発動させることも可能だが、大きな動きを伴うほどに威力は増す。

 オシリアはジェイクの周囲の空間ごと、握りつぶすつもりで念動力を発動した。だがその空間から、最小限の回避で脱出するジェイク。体勢も崩れず、さらに前進してくる。


「偶然?」


 オシリアは周囲に悪霊を発生させながら、盾としてジェイクに向かわせた。ジェイクがそれらを斬り伏せながら下がることなく前進してきたが、オシリアは悪霊ごと構わず念動力を連発してジェイクを潰そうとする。

 だがジェイクは悪霊を全て一刀のもとに斬り伏せながら、前進を止めようとしない。予め攻撃がわかっていなければ不可能なほど、最短経路で自分に向かってくるジェイクにオシリアが焦りを見せた。


「なんなの、お前!?」


 オシリアが地面を強く踏みしめる。地面が念動力で変形し、ジェイクは足をとられるはずだった。かわすために飛べば、空中で握りつぶす。下がれば悪霊を一斉に襲い掛からせる。速度を上げて前進すれば、地面を隆起させて『はやにえ』のように突き刺すつもりだった。

 だがジェイクは地面に剣を突き立て、念動力そのものを発動させなかった。念動力が発動する作用点だけを、正確に剣で止めたのだ。オシリアも想像だにしない止め方、しかも魔術による妨害ではなく、単純に剣で叩き斬ってみせた。そんなことが剣でできるとは、オシリアですら知らない。

 オシリアをぎらりと睨んだジェイクがさらに前進する。既に距離は10歩もない。慌てたオシリアが念動力を数発出したが、ジェイクはそのうち二つを空中で斬り、一つは多少肉を削がれる程度の最小限の動きで躱すと、一気にオシリアとの距離を詰めた。

 ジェイクが上段に振りかぶると、オシリアは思わず左腕を上げてその剣を受け止めようとした。


「ふん、ただの聖別した剣で私を斬れるものですか!」


 オシリアは元来高位の魔術士の素養を持っている。悪霊となった際にその素養は活かされ、魔術に対してほとんど無効化するほどの強力な耐性をもつ。悪霊にとって弱点ともなるべき火や光の魔術も、同様である。

 ゆえにオシリアを傷つける手段は、ほとんどこの世に存在しない。剣そのものに聖別が元々付与されているか、悪霊そのものを殺すためだけに特化した武器なら可能性はあるかもしれないが、そのような物はドゥームとオシリアがオーランゼブルの命令で遺物を収集する際に、処分したり封印したりして回っていた。

 だから、オシリアは不滅に近い悪霊となったはずなのだ。現時点で気を付けるべきはドラグレオのブレス程度しかないと考えていたのに。ジェイクの剣が振り下ろされた時に、嫌な予感がして咄嗟に体を引いたオシリアの判断は正しかった。


「私の左手が・・・!」


 オシリアの左手首から先が宙に舞って消えた。確実に聖別を消去したはずのオシリアが、ジェイクの剣で傷つけられた。

 驚きに怯むオシリアに、ジェイクの剣がさらに迫ろうとする。はっと気づいたオシリアが反射的に念動力をジェイクに向けるが、その瞬間ティタニアがそこに割って入っていた。


「ジェイク、無事か?」

「ティニー?」


 オシリアの攻撃を遮るように乱入したティタニアに、オシリアとジェイクが一度距離をとる。オシリアは口惜し気にジェイクを見たが、ティタニアの鋭い視線を受けてその姿を闇に消した。ティタニアが「退け」と伝えたのがわかったからだ。今ティタニアはジェイクを助けたのではない、オシリアを助けたのである。

 一方でジェイクは今の間合いならオシリアを仕留められたような気もしていたが、加勢してくれたティニーの行為をないがしろにすることでもできず、小さくため息をついた。そしてティニーがジェイクに申し訳なさそうに詫びていた。


「すまない、余計なことをしただろうか」

「いや・・・いいんだ。退けられるならそれに越したことはないから。ただ、どうして今ここで現れたかは気になったかな」

「大した悪霊のように見えたが、知っているのか?」


 ティニーの言葉にジェイクはじっとその目を見たが、逆にティニーが気圧されそうだった。ジェイクの瞳はまるで、ティタニアの嘘を全て見抜いているかのようだったから。

 だがジェイクはついと顔をそらすと、


「いや、アルネリアの討伐リストの最上位ある奴だと思ったからね。単独で倒せるはずはないんだけど、どうやら修行の成果が出たのかな」


 それだけ冷静に呟いたジェイクに、むしろティタニアの方が恐ろしくなった。あれだけの修業でオシリアを圧倒できるはずがない。むしろ、オシリアを傷つけた力は完全に別物だ。


「(ジェイク、あなたはいったい・・・)」


 ティタニアはジェイクのことをもっと知るべきだと考えたが、さすがに騒ぎの気配をかぎつけた騎士たちによって、その考えは果たされなかった。ジェイクもまた彼らに事情を説明しているうちに、ティニーの姿は消えていたのである。



続く

次回投稿は連日になります。12/13(水)14:00です。

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