戦争と平和、その85~会議二日目、夜①~
「感謝する! これで我が国にも光明が見えた」
「大袈裟よ。たかが一傭兵団で」
「戦は数ではない、信頼できる兵士の質だ。我々には地の利がある。自国内で持久戦になれば、負ける道理はない。そこで講和に持ち込めばいいのだ」
「そうね。そうなればいいのだけどね」
アルフィリースの言葉には含んだところがあったが、アンネクローゼはそこまで意図を汲み取ることはなかった。そしてさらに細かな打ち合わせをした後、アンネクローゼは城外に抜け出して、翌日の会議に臨むことになったのである。
***
「夜の訓練はここまで」
「ありがとうございました」
ティタニアとジェイクの夜の訓練が終わった。夜は瞑想による集中力強化と、その後の実戦形式の手合せだった。もちろんティタニアは相当手加減を加えているが、ジェイクの手ごたえは相当上がっていることを感じていた。
深く集中した後の戦いは、今までとは一線を画している。ジェイクは筋力や剣の腕がいきなり上昇したわけでもないのに、実感としてそのことを理解していた。ティタニアは稽古が終わった後もしばし剣を振るうジェイクを見て、問いかけていた。
「どうでしょうか。深く瞑想した後の戦いは、全く別物でしょう?」
「うん。よく相手の剣筋や、筋肉の『おこり』が見えた。これが極意?」
「明確な極意などというものは、戦いにはありません。やってきたこと全て、その志までもが出るのが戦いというものですから。
どれほど才能に恵まれていても、戦う気概に恵まれていない者は強くはなれませんし、なってはいけません」
「そうか」
ジェイクはそのまま素振りを続けていたが、ティタニアはその横顔を見ながら不思議な気分になっていた。ジェイクの才能はお世辞にも飛びぬけているわけではない。素直ではあるし、努力家でもある。集中力は並外れているが、これくらいの素材なら今までにも何人も見てきた。
だが、どこまで強くなるかが想像できない。人間の素質と成長力を見れば、ティタニアはおよそその人間がどこまで強くなるのか想像がつくのだが、ジェイクだけは想像ができなかった。まるで成長力そのものが成長しているかのような、不思議な印象を得ていた。
「(運命に愛される、というのは大袈裟でしょうが、それでも何かの力が働いているのでしょう。特性という言葉だけでは説明がつかないかもしれない。あるいはこの少年が私の目的となる可能性だって。
この大会期間が終わったとしても、長く見守りたいものですが果たして私は・・・)」
ティタニアはしばし自分に考えに没頭していたが、ジェイクが剣を収めてこちらを向いたので、はっとしていた。今剣を向けられれば、手傷を負いそうなくらい油断していたことに気付いたのだ。どうもこの少年を前にすると、少々調子が狂うことは間違いがない。
ジェイクは一礼すると、ティタニアに礼を言ってその場を後にしていた。
「ティニーは凄いな。まだまだ剣を教わっていたい。任務がなければ一日中でも教えを乞いたいんだけど・・・不審者がいちゃあ仕方がないよな。
おい、出て来いよ。朝からずっと俺のことをつけまわしているだろ?」
ジェイクがぎろりと睨んだ闇から、真紅のドレスを纏った少女が出てきた。その禍々しい殺気と周囲にかしづく悪霊から、一目でこの世の者でないとわかる。ジェイクは何者かを問う前から、既に抜剣していた。
「会ったことがあるか? まぁ聞かなくてもドゥームの仲間だよな」
「・・・オシリアよ。言葉を交わすのは初めてかもしれないわね」
「何の用だ? 祭りに参加したいだけなら見逃してやるけど」
「随分と神殿騎士様は優しいのね。だけど私の用事は一つだわ」
オシリアの周囲からざわざわと悪霊が現れる。敵意に溢れたその行為の目的は一つしかあるまい。
「大きな祭りも困りものだな。変な奴らまで湧いてくる」
「随分と余裕ね。今は誰も助けてくれる仲間はいないわよ?」
「そうだな。だけど好都合だ、大事になる前に仕留めてやる」
「できるかしら。私を誰だと思って?」
オシリアの殺気が膨れ上がった。かつてアルネリアを急襲した時よりも格の上がったオシリアが、さらに本気となっている。オシリアは本気でジェイクを殺しに来ていたのだ。
「街一つを廃墟に代えた私を単独で狩ろうなんて、思い上がりも甚だしいわ!」
「そうかな?」
ジェイクは自分でも驚いていたが、不思議と自信があったのだ。今の自分なら、この相手にも遅れはとらないだろうと。
続く
次回投稿場、12/11(月)14:00です。