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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その80~会議二日目、予選会⑭~

 そして開始の合図がなされた。レイヤーはまず周囲を確認する。幸い、見知った顔はいない。ならば人が集まる前に、速攻で決めてしまえばいい。この二次予選ともいえる戦いでは、ルールに一つ変更があった。風船を割る点数制は変わらないが、全ての風船を割られた場合、30秒後に失格が宣言されることだ。試合時間の短縮と、逃げ回ることを防ぐための処置だろう。風船を仮に全て割られた場合、制限時間内に相手を倒しきるしか勝つ方法がなくなる。

 レイヤーは盾を選択する相手が積極的に攻めてこないと考えていたが、ザックスはいきなり全力でレイヤーめがけて突進してきた。最初面喰ったレイヤーだが、まずは様子見の一撃を放つ。しかしその一撃を左腕の丸盾で強引に払いのけ、ザックスはさらに前に出た。


「顔に似合わず、強引だね!」


 ザックスの右腕の筋肉が盛り上がる。相手の戦い方は至極単純。盾で防ぎ、殴る。それがわかったレイヤーは連撃でザックスを押し返そうとしたが、ザックスは前進しながらその連撃を全て払いのけた。

 体格に見合わず、防御技術や器用さは一流。ザックスの突進を止めきれないレイヤーは、ザックスの繰り出してきた正拳を抱え込み、ごろごろと地面を回った。長らく取っ組み合う二人に、観客がわあっと盛り上がる。しばらく地面で組み合っていた二人が立ち上がり離れると観客が一層盛り上がったが、その瞬間試合終了が宣告された。


「それまで! レイヤーの勝利!」


 観客がどよめいた。いや、信じられないといった顔をしたのはザックスだったかもしれない。その表情には落胆と驚愕が混じっていたが、レイヤーは一礼すると勝者の称賛を受けることなく、逃げるようにその会場を後にした。観客は何事が起きたかもわかっていなかったが、転げ回った時に風船が全て割れ、時間が経過していたのだった。

 だがザックスが味方のところに帰ると、仲間の中に一人だけ険しい顔をした者がいた。先頭で応援をしていた最も背の低い男である。その男に向かって、ザックスはぺこりと頭を下げた。


「すみません、隊長。負けてしまいました」

「まったく、親父に向けてお前を副隊長に推した僕の面子も考えてくれないか。他の部隊を含めて、副隊長以上で負けたのはお前だけだぞ? で、何があった?」


 一番小さな少年にも見える男は、不甲斐ない負け方をした部下に頭を抱えていた。ザックスは相変わらず変わらぬ表情で答えた。


「地面に倒したところまでは予定通りでした。ですが、転げ回るつもりはなかった。あれは相手に腕を掴まれ、そのまま動きを封じられたのです。相手の風船も当然割れましたが、私の風船は転がる中、的確に一つ一つ割られました」

「あんな小僧に腕をとられただって? お前は普段、全身で大人三人分を超える重量の全身鎧を着て動く人間だろ? あの程度の小僧の腕力を外せなかったのか?」

「それなんですが、隊長。まるで隊長や団長のような腕力を感じました。まるで身動きが取れなかったのです」

「ドワーフの血を引く僕や、ドードーの親父と一緒だって?」


 小さな隊長は驚きの表情になった。


「じゃあ、あいつもドワーフの血筋が入ってるってことか? にしちゃあ身長が高かったな」

「勘ですが、ちょっと違うと思います。顔立ちもドワーフや巨人の特徴がありませんし」

「だろうね、同じドワーフならなんとなく臭いでわかるし。なら何か魔術を使っていた? いや、魔術は使用禁止だし、魔術は使用できないように結界が張ってあるはずだ。ふむ、興味深いな」

「はい、イェーガー所属だと聞きました。彼がただの団員だとしたら、イェーガーは相当に油断ならない傭兵団かもしれません」


 ザックスの糸目が少し開いた。それは彼が敵愾心を燃やしているからなのだが、隊長の小さな男は、ははは、と笑い飛ばした。


「ふぅん。お前を警戒させるなんて、うちとイェーガーが喧嘩にならないことを願っておこう。ただお前が『本当の』武器を使ったら、あの少年もびっくりするだろうよ。

 しかしお前の腕力を封じるだけの少年か。ぜひ本戦で当たったら、力比べを願いたいね」

「それは・・・面白そうですね」

「ドードーの親父に言われて強引に参加させられたけど、中々面白そうじゃないか。巨人以外で力比べできそうな奴がいるなんて、世界は広いね」

「ゼホ隊長、隣の会場で試合ですぜ!」


 部下の一人が走って知らせに来た。ゼホは指を鳴らして自分の武器を持ってこさせたが、大の男が三人がかりでようやく持ち上がる巨大な木槌が運ばれてきた。それをひょいと担ぐと、ゼホは会場に向けて歩き出した。少年のような男が、自分の背丈を遥かに上回る木槌を持つ姿に、人垣が道を開けた。

 それを見て、ゼホが楽しそうに笑う。


「戦場もここも同じだね、どいつも僕を見てビビりやがる。やる気が出てきた、ちょっと相手を殺さない程度に撫でてくるよ」

「油断は禁物ですよ、隊長」

「誰に物を言っている? ミュラーの鉄鋼兵、四番隊隊長ゼホだぞ? 一度戦場と認識したら、油断はしないさ」


 ゼホは不敵な笑みを浮かべてゆっくり歩きだすと、自分の会場に向かったのだった。



続く

次回投稿は、12/1(金)15:00です。

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