戦争と平和、その77~会議二日目、予選会⑬~
「樹脂を固めた刀身の刺突剣だよ。槍の柄なんかには使用されることもあるらしいけど、エルシアの剣技ならこれを刀身に使うのもありかなって。先端に殺傷能力を持たせれば実戦でも使えるかもしれない」
「びよんびよんのふにゃふにゃね。おもちゃみたい」
「刺突剣というよりは、短鞭に近いかもね」
エルシアは剣を振りながらしなり具合を確かめていたが、面白いことを思いついたのかくすりと笑った。
「鍔の部分を幅広にしてもらってもいいかしら。この刀身じゃあ防御に使えないわ」
「わかった、夜にでもやるよ」
「それまで振っておきたいわ。奇襲には使えるかもしれないから」
「夜になったら部屋に来てよ。仕上げるのはすぐだから」
「ゲイルには見られないようにしないとね」
「? なんで?」
「だって、それは――」
夜に男の部屋に行くなんて、誰にも見られたくないとは言えなかった。同時にレイヤーが自分をそういう対象として見ていないのかとエルシアは思い、残念がったことに驚いていた。
そしてエルシアが躊躇ったところに、思わぬ人物がやってきていた。
「あら、レイヤーじゃない」
「リリアム!?」
まさかの人物が目の前にいることに、レイヤーですら驚きが隠せなかった。リリアムは駆け足気味にレイヤーによると、その手をとった。
「こんなところで出会うなんて、運命的とでも言うのかしらね」
「そう? 会場整理をやっているから誰とでも出会うけど、驚きはしたかな。なぜここに?」
「つれないわね。こんなところにいる理由は一つ、統一武術大会に参加するためよ」
「え? あんたも出るの?」
エルシアが驚いた。今から出場するとなれば、女子部門しかない。リリアムは肩をすくめて同意した。
「本当は総合部門に出場したかったのだけど、登録が間に合わなくてね。特に招待も受けていなかったから、本戦に出場することもできなかったし」
「手紙ではもう少し早く来る予定だったと思ったけど」
「自警団の後処理に手間がかかったのよ」
「後処理?」
「辞めてきたわ、カサンドラと一緒にね」
リリアムの言葉にレイヤーは固まった。そんなレイヤーの反応を見て、リリアムが意地悪そうに続けた。
「で、私の宿の手配はしてあるのかしら?」
「あ、いや、まだだよ。だっていつ来るのかわからなかったし」
「困ったわね、じゃあどこに泊まろうかしら・・・貴方の部屋にでもお邪魔しようかしら?」
リリアムがウィンクをしたので、エルシアがかっとなって割って入った。
「ちょっと! 娼婦みたいな真似はやめてくれる!?」
「あら、あなたに関係がある?」
エルシアを初めて意識したとでも言わんばかりに、リリアムがエルシアを見つめた。
「わ、私は――レイヤーの幼馴染よ! レイヤーは今日の夜、私の武器を直してくれる予定なんだからね!」
「なぁんだ。なら彼女の用事が終わったら声をかけて頂戴。まさか一晩中武器を直すわけじゃないでしょ?」
「それはそうだけど・・・」
レイヤーがなんと答えたものかと思案しているのを、エルシアがさらに割って入った。
「やめなさいよ、レイヤーが困っているじゃないの!」
「あなた。レイヤーの幼馴染ってだけで、恋人でもなんでもないんでしょ? ならレイヤーがどこで誰と何をしようが、勝手じゃないの? それとも何か? あなたはレイヤーに気があるとでも?」
「わ、わた、わたしは――」
エルシアが青ざめたり真っ赤になったりするのを見て、さすがに度が過ぎたかとリリアムも思ったのか、それ以上はやめておいた。
「――からかいすぎたようね、謝るわ。出場者用の宿がまだあるかもしれないし、そちらをあたってみるわね。カサンドラがロゼッタのところに行っているでしょうし、良い案が出るかも」
「ごめんよ、リリアム」
レイヤーが約束を守れなかったことを謝罪したが、リリアムは笑顔だった。
「謝る必要はないわ、幼馴染を大事にしてあげなさい。それに欲しいものは実力で奪い取る主義なのよ」
「どういうことかしら?」
「本戦で勝ち進んだ方がレイヤーを好きにするってことでどう?」
明らかなリリアムの挑発だったが、頭に血の上ったエルシアはその挑発に乗ってしまった。
「受けて立つわ! あんたみたいな女には負けないんだから!」
「よく吠えたわ。楽しみにしているわね」
それだけ言い残すとリリアムはレイヤーに再びウィンクをして去って行った。どうやらリリアムがエルシアをからかって遊んでいることは間違いないのだが、エルシアはまんまと乗ってしまったようだ。だがそれでエルシアが勝ち抜けるのならいいのかもしれないとレイヤーは考えたのだが、
「僕の意志は関係なしか・・・」
と、思わずレイヤーはぼやいていた。
続く
次回投稿は、11/25(土)15:00です。