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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その74~会議初日、夜⑧~

***


「いてててて・・・本当に手加減されてたのかな」


 ジェイクは周辺騎士団の駐屯施設にて、風呂に入りながら痛む体を実感していた。今夜は深夜から警備だが、それまでの休憩として周辺騎士団の施設を借りることにした。深緑宮に戻るのは遠く、また自宅に戻ろうにも、ティタニアとの訓練で徹底的にやられたこの傷跡をどうリサに説明したものか、言い訳が思いつかなかった。

 それにリサも賓客の護衛についているそうだから、どのみち家には戻っていない可能性も高い。また夜警からそのままティタニアとの訓練を行うことを考えると、汗を一度落としておきたかった。そのため、馴染みの周辺騎士団の駐屯施設にお邪魔したという次第だ。

 もっとも、この周辺騎士団の施設にもほとんど人はおらず、予選会場の警備などでほとんどが簡易テントなどで宿泊している。寸暇も惜しんで仕事をしなければならないほど、今回の会議は人手が足らなかった。こんな警備で大丈夫かなどとジェイクは思いつつも、顔馴染みとなった門番に挨拶をすると、すんなりと中に入って汗を流していた。時間も遅いせいか、誰もいない浴場は快適だったが、裸になってよく体を見れば、体中青痣だらけである。


「強いなぁ、ティニーは。よっぽど名の売れた傭兵なのか・・・あれ、そういえばどこ出身だとか、傭兵の等級なんて聞かなかったな。まぁ明日聞くとしよう」

「聞きたいのなら答えますが。何なら背中でも流しながら語りますか?」

「おお、頼むよ・・・って、ええっ!?」


 ジェイクの背後には、ティタニアがタオルをまとった姿で立っていた。突然のティタニアの出現に、動揺が隠せないジェイク。思わずティタニアに背を向けて問いただすのが精一杯だった。


「な、な、なぜここに! ああそうか、ここは風呂か・・・って、ちがぁう!」

「何を焦っていますか。風呂ならこの姿で当然でしょうに。服を着て風呂に入る方が、よほど変でしょう。確かに文化によっては湯浴み用の衣服を纏う場合もありますが、生憎とそんな文化で育っていないもので」

「そうか、ならいっそ裸でもしょうがない・・・って、だ、か、ら! なんでティニーがここにいるのかっていう話をだな!?」

「あら、女の裸は嫌いでしたか? 鍛錬で筋肉もついていますし傷も多いですが、女としての機能に変わりはないと思っていたのですが。それとも何か私の体はおかしいのでしょうか? それともジェイク殿に衆道の気がありましたら、確かに良好な反応は期待できませんが」

「おかしいとか・・・」


 湯気で完全に見えたわけではないが、よく考えてみるとジェイクは女の裸をまじまじと見たことは一度もなかった。そりゃあ小さいときはリサに風呂に入れてもらったこともあるが、その時はリサも幼かったし、女性を意識したことは一度もなかった。

 ジェイクも年ごろになり、それなりに異性を意識するようになると同世代の女性の体つきの変化が気になることもあったが、妙齢の女性と任務で関わることも少なく、特別気にかけたことはない。同級生の中では、デュートヒルデが体つきまで含めて最も容姿に優れるなどと噂になれば、あまり興味がなくなるという理由もあったかもしれない。まして、成人した女性の体を見るのなど初めてである。たまに出入りするイェーガーに露出の多い女傭兵はいるが、基本的に女性に免疫など全くないジェイクである。

 正直、リサに女性的な特徴を強く意識したことはないので、ジェイクは思わず顔を覆った指の間からティタニアを見てしまったのである。そしてティタニアの顔が目の前にあることに気付くと、全力で背を向けてティタニアから離れていた。


「ふむ。木石や男色ではないようですが、なぜ目を背けるのですか? 私が見ても良いと言っているのですが」

「馬鹿言え! そういうのは自分の男にしか見せないものだ。でなけりゃ娼婦だ! もっと自分を大切にしろ!」

「若いくせに随分と古風な言い方をしますね。女が男を誘惑する時にも見せるでしょうに」

「ゆ、ゆう、ゆうわ――」


 ジェイクがのぼせたのか、顔を真っ赤にしながら風呂の中に沈んだので、さすがにからかい過ぎたかとティタニアは慌ててジェイクを助け起こすことになった。

 ――ジェイクが再度目を覚ますと、そこにはティタニアの顔があった。だが寝ている状態で目の前にティタニアの顔があるということは――


「え、ええ、ええええ!?」

「女の膝枕くらいで動揺しないように。それでも騎士ですか」


 ティタニアに叱責されたジェイクだが、目の前に双丘が見えれば動揺するなという方が無理だった。それに頭の下にある感触は紛れもなく人肌。ジェイクは再度気を失うことだけはかろうじて避けたが、状況は何も好転していなかった。


「ちょ、ちょっと離れてティニー!」

「本当に女に免疫がないのですね。相手が美しい女だったら戦えますか? 昔、最強の騎士を倒したのは少女の姿をした暗殺者だったという逸話もあるのですよ? 戦士は常在戦場と言うでしょうに」

「それとこれとは話が別! だいたいティニーは何しに来たんだ!」

「本当に背中を流したり、それ以上があっても別によかったのですが、見せたいものがありまして。鍛錬は本来1日3回程度が丁度よかろうと思っています。貴方にも仕事があるでしょうから、回数を押さえましたが」


 ティタニアは慌てて起きたジェイクを見て、小さくため息をついた。ジェイクがその真意を問い返す前に、ティタニアは体を起こすと風呂場に入っていった。


「これができますか?」

「何?」

「よく見ておきなさい」


 風呂の水かさは丁度ティタニアの太腿が出るくらいだが、ティタニアが微動だにせずに立っているにも関わらず周囲の水は波立ち始め、ティタニアの「はあっ!」という掛け声と共に、風呂の湯が爆散した。ジェイクは正面から湯をかぶせられた格好になったが、目は開いたままだった。ティタニアのやったことが信じられなかったのだ。

 ティタニアの膝が既に水面の上にある。ティタニアは風呂の湯の半分程度を気合だけで吹き飛ばしたことになる。ジェイクが呆然として問いかけた。



続く

次回投稿は、11/19(日)15:00です。

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