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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その70~会議初日、夜④~

***


「予選会はどうなった?」

「あ、副長」


 ラインは自分の仕事が終わると、イェーガーの食堂に顔を出した。アルフィリースや主だった人物が護衛としてほとんど抜けている以上、ラインが団長代行となる。ただでさえ忙しいのに面倒ではあるが、団に変わったことがないかどうかは気にかけていると示す必要がある。

 イェーガーの面々はほとんどが拠点内に塒を持つため、アルネリアが準備した宿泊施設に泊まる必要もない。いつも通りここで朝飯をとり、予選会場に向かっていく。終われば、当然ここに帰ってくる。

 食堂の話は誰が勝ち抜けた、誰が負けたという話でもちきりだった。ラインは適当にその辺の団員に声をかけてみる。


「中隊長以上は勝ち抜ける奴が多いとは思うが、予想外に勝った奴、負けた奴はいるか?」

「そんなにいないですかね。平団員からはレイヤーが抜けたのが一番予想外ですかね。あとはだいたい順調です」

「そうかよ」


 ラインは席につくと軽食を準備させた。まだやることは山ほど残っているのだが、ラインの周りには自然に人が集まる。本人が望もうが望むまいが、ラインには人望があった。

 ラインは肉をほおばりながら周りの連中に状況を確認する。


「予選で勝ち抜けた人数が多すぎて、明日以降も勝ち抜けた者同士でもうちょっと絞るそうじゃねぇか。大会の運営もザルだな」

「まぁ予選勝ち抜けの報奨金が大きいですからね。恩赦も出るだろうから普段傭兵に追われるような連中も集まっているでしょうし、反響が多すぎたんでしょ」

「ちっ、ミランダが派手にやりすぎるからだ。色々考えているようですぽっと抜けているあたり、アルフィリースとは逆だな」

「なんのことですか?」

「こっちのことだよ」


 ミランダのことを新米たちはしらない。対外的にはいまだにアノルン、で通しているからだ。ラインはそれ以後素早く食事をとると、一通り傭兵団内を見回ることにした。まさかとは思うが、イェーガーそのものが襲われるとしたら、今が一番危ういと考えたからだ。現にアルフィリースは、入団したばかりの新人や、大会の参加者である流浪の傭兵にも一部イェーガーの敷地を貸し出している。

 懐が広いと言うよりは鷹揚ともとれる対応にラインは頭痛がしたが、団長の方針では仕方がない。イェーガーを見学させてあわよくば取り込むつもりだろうが、どんな連中が紛れているかもわかったものではないのだ。団内に残した魔女や魔術士だけでは対応できるとは限らない。ラインは目端のきく部下数名に、団内をそれとなく警戒するように言い含めたが、それもどこまで効果があるのか。

 ダンサーは念のため剣に戻し、常に携行するようにしている。ナイツオブナイツも何を考えているかわからないし、やれることはやっておきたいというのがラインの考えであった。そんな彼に部下の一人が報告に来る。


「副長、流しの夜鷹が集団で団内に入り込んでいるみたいです。注意しやすか?」

「たりめーだ、イェーガー内ではそういうのは禁止だ。そもそも聖都アルネリアで春を売るのは御法度だ。ごねるようなら金を握らせて、穏便にご退場願え。競技者の宿舎じゃ活動が規制されていないから、そっちに案内しろ」

「うっす」


 ラインは巡回を再開した。まだ夜風は冷たいが、その方が頭は冴えていい。最近は色々ありすぎて、考えをまとめる暇もなかった。それでも必死でアルフィリースの助けになろうと努力しているが、どうやら自らが落とした影というのはどこまでもついて回るらしい。そろそろ決着をつけなければ、このままではイェーガーにも迷惑をかけかねない。

 もし迷惑となるようなら団を抜けるつもりでいたのだが、それも今では難しいことに気付く。なんだかんだで頼りにされているし、レイヤーを始めとした新人に稽古をつけるのは面白く、アルフィリースが何を行動に移すのか見守るのは楽しい。いつの間にか頭の先までイェーガーの雰囲気に浸かり、気に入ってしまった自分がいることに気付いた。

 

「ひと段落ついたら、ちょいと暇をもらって片付けてくるかな。だがアルフィリースに言いたくねぇな・・・お前はどう思う?」

「どうして風下の私に気付けるのかしら? やはり不思議な男ねぇ」


 顔を薄絹で覆った女が背後に立っていた。その周囲には同じような表情と気配の4人の女。おそらくはさっきの報告にあった夜鷹の一味に違いないだろう。だがこんなところで何をしているのか、それに先ほどの傭兵はどうしたのか。

 ラインは覚えのある気配に嫌悪感を思い出していた。


「今日の俺は冴えてるからな。また来たのか、虫女」

「あら、私のことをご存じ?」

「とぼけてんじゃねぇ。俺は一度覚えた奴の気配は忘れん。お前は体を変えても独特の雰囲気は消せねぇよ。何度現れようが、俺が正体を見抜いてやる」

「おお、怖い。本当に鋭い男だこと」


 くすくすと笑うカラミティたち。だが前回と違い、殺気が全くない。その目的がラインにも見えず、かえって不気味にラインは感じられた。



続く

次回投稿は、11/11(土)16:00です。

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