戦争と平和、その60~大陸平和会議②~
主な会議をいつ開催するかわからぬように配慮したのに、これでは台無しである。いや、あるいは台無しにすること自体が目的なのかもしれないとミランダもミリアザールも思い始めていた。
そして威武を示すかのように空中を何度か旋回した後、多くの飛竜は離れた場所に飛んでいった。これはアルネリアに配慮したのではなく、飛竜の止まるだけの場所が確保できないとわかったからだろう。そして会場の2階バルコニー近くに飛来する一際大きな飛竜とその他十騎程の飛竜。飛竜から飛び降りた者は、間違いなくローマンズランドスウェンドル王と、その配下だった。
不遜な態度をとったローマンズランド一行に対し、出迎えたミランダが睨むような目つきで非難した。
「ローマンズランド王、スウェンドル王とお見受けする。いかに!?」
「いかにも、私はスウェンドルである。そなたは?」
「私はアルネリアの大司教アノルン。今回の会議の取り仕切りを任されています」
「ふむ、聞かぬ名だ。私の記憶ではそのような者が司教、あるいは大司教補佐にいた記憶がない。さてはそなた、巡礼上がりか?」
ミランダの眉がぴくりと動いた。まさかローマンズランドがアルネリアの大司教補佐や司教を気にしているとは思わなかった。ローマンズランドからグローリアへの留学生は受け入れておらず、彼らがアルネリアの情報を得る機会は限られていると思っていたが、思いのほか油断がならないようだ。強引なだけではなく、情報戦にもそれなりに注力していることがうかがえる。
だがミランダの動揺は一瞬だった。
「私の出自は今問題となりますまい。それよりも王よ、使節団とは言い難いほどの大軍団でいらした理由をお聞きしたい。この会議には20人以内の使節団でいらっしゃるように通達をしていたはずですが?」
「今何が問題かと言うのであれば、私が賓客であることがわかったにもかかわらず、一介の大司教ごときが私を立たせたまま詰問をするのかということだ。貴様に語ることは何もない、会議で理由は述べさせてもらおう」
強引に歩みを進めようとしたスウェンドルだったが、その前にアルベルトとイライザが立ちはだかった。抜剣こそしていないが、手に持った槍で行く手を阻んでいる。スウェンドルがじろりと睨んで威圧しても、まるで動じない二人の騎士。
「なんのつもりだ、下郎」
「もう一度言いましょう、王よ。私はこの会場の責任者、全ての賓客に対し安全を守る義務があります。貴殿の行動は戦争行為と受け取られても文句が言えない。この場にいる全員に対し、敵意がないと今誓っていただけますか?」
「無論だ。そもそも敵対するつもりならとっくに会場は火の海となっているだろうな。くだらん、通るぞ」
「なっ・・・話はまだ!」
スウェンドル王はミランダの制止も聞かず、アルベルトとイライザの槍をぐいと押しのけて前に進んだ。スウェンドルに続いて他の者も後に続いたが、その中にアンネクローゼがいるのをアルフィリースは確認していた。アンネクローゼも気付いたようだが、この状況では会話をするわけにもいかず、アンネクローゼはちらりとアルフィリースを一瞥しただけでその場を去った。その表情が以前見た時よりも蒼白で、やや疲れたように見えたのは気のせいではあるまい。おそらくは相当な心労が貯まっているのだろうと、アルフィリースは不憫に思った。
そしてミランダは歯ぎしりをしながらローマンズランドの使節を案内する羽目になったが、その際にイライザがアルベルトにそっと耳打ちした。
「どうしてスウェンドル王を通したのです、アルベルト。あの場面ではまだ行かせるわけにはいかなかったでしょう?」
「・・・行かせたのではない。押し通られたのだ」
「はい?」
「尋常ではない腕力だった。あの王は武人だとは聞いていたが、それにしても――」
アルベルトは軽く歪んだミスリル製の槍を見て、スウェンドル王の背中をちらりと見た。外依頼文武に秀でた王だとは聞いていたが、それなりの年齢のはず。ローマンズランドがいかに体格に優れる者が多いといえど、以前よりも激しい鍛練を続けるアルベルトが、腕力であっさり負けたことに違和感を感じずにはいられなかった。
そしてアルフィリースは彼らが立ち去った後、ミューゼとその近くにいたディオーレに声をかけた。
続く
次回投稿は、10/22(日)17:00です。