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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その54~予選会⑩~

「・・・巨人族のダロンだ。すぐに始めていいか?」

「ええ、もちろん。これしきで疲れるような鍛え方はしていません。それよりも、そちらは武器を使わなくてよろしいのですか?」

「構わん。むしろお前相手では邪魔にしかならん」

「?」

「少し俺も本気を出す。それだけのことができるのならば、無残なことになりはすまい」


 ダロンが言い終わると同時に、マイルズは突然の衝撃に横に吹き飛ばされた。場外にならないために地面に腕を突き刺したが、それでも危うく腕が地面に刺した衝撃で千切れるかと思ったほどだ。肩は抜けたが、それだけで済んだのが不思議なくらいの衝撃だった。受けた方の腕は痺れて、しばし使い物になりそうにない。

 ダロンは単に振り回した腕で横殴りにしたのだが、なんとも桁違いな威力だ。外れた肩を入れるマイルズの中に湧いたのは恐れではなく、歓喜の感情であった。


「これが巨人の腕力・・・凄い! 話には聞いていましたが、それ以上です!」

「棄権は勧めぬ。どうせそんなタマではあるまい」

「ここまで容赦なく扱われるとは感激の極み。私の全身全霊をもって、いざ!」


 マイルズが再度構えると、ダロンめがけて突撃した。だが今度は迎え撃つ戦い方ではなく、ダロンの攻撃を丁寧に躱し、懐に飛び込む機会を窺う小兵の戦い方に変化した。ダロンの背丈を考えれば、マイルズの拳は全てが急所に届かない。ならば一撃離脱を考えるのが妥当だが、それにしても全身筋肉という鎧で固められたダロンのどこを狙うべきかと、観客たちは疑問に思いながらも声援を送る。


「脚・・・ですね」

「もちろんそうね。だけどその脚すらもどこを狙うか。膝裏に一撃を入れても、ダロンが体勢を崩すとは考えにくいわ」


 楓の意見をミランダは肯定しながらも疑問に持ったが、見るにマイルズの攻撃には迷いがない。膝周辺に打撃を集めながら、狙いを定めているように見えた。

 ティタニアがつぶやく。


「ふむ・・・あと3発程度でしょうか。まぁあの習熟度と体格差では、そのくらいの打撃の蓄積が必要でしょうね」

「3発?」

「ダロンとやらが倒れるまで」


 ティタニアの言葉通り、ダロンの攻撃をかいくぐりながらマイルズが3発の拳を打ち込んだとき、ダロンの膝回りに激痛が走り、続いて膝の感覚を失くしてダロンはたまらずその場に膝をついていた。

 そしてその膝を踏み台に、マイルズがダロンの顎を狙う。


「好機!」

「・・・まだ早い」


 マイルズの戦い方を見守っていた仲間の内、女性がつぶやいた。そしてその言葉通り、ダロンが顎を打ち抜かれると同時に、マイルズに強烈な正拳を見舞っていた。

 膝を踏み台に飛んだせいで、衝撃を吸収できないマイルズはそのまま宙を吹き飛び、観客の中に落下していた。もちろん場外である。


「勝負あり! 勝者、イェーガーのダロン!」


 審判の判定と共に、観客が湧いた。だが当のダロンは勝ち名乗りや勝者の称賛を浴びることなく、膝をやや引き摺るようにしてその場を去っていった。

 そして観客の中に落ちたマイルズは、何事もなかったかのように飛び起き、仲間の元に戻っていった。


「すみません、やられてしまいました」

「戦いの興奮に巻き込まれたわね。技術はともかく、心構えが未熟だわ」

「すみません、姉上」


 興奮から一転、意気消沈したマイルズの頭に仲間たちが手を置く。


「そう責めるなウルス。マイルズにとっては初めての強敵との戦いだ。興奮もやむなきことだろう。こんな場所で、あれほどの戦士と出会うとは思ってもみないことだしな」

「その通りだ。真剣勝負での敗北は、誰しも通る通過儀礼のようなものだ。だがこれでマイルズも一人前の戦士の仲間入りといったところだろう」

「・・・ふぅ、兄弟子様たちは甘すぎます。我々の標的が誰かお忘れか?」

「もちろんティタニアだ」


 最も精悍な、白いひげの壮年の男が答えた。立ち位置からも、どうやら彼がこの一団を率いるらしいことがわかる。


「ウルスよ、心配するな。誰しも忘れているわけではないのだ。だがこれでマイルズも頭数として数えられる程度には成長したということだ。そして常に気を張っていては、勝てるものも勝てん。主導権は我々が常に握っているのだ。それまでは鋭気を養えばよい。時に羽目を外すことも必要だろう」

「さすが長は話がわかっていらっしゃる」

「長ベルゲイよ。あなたがそういうなら私は何も。それより、この会場に――」


 ウルスが会場を見渡すと、ベルゲイは頷いた。


「うむ、ティタニアがおるな」

「本当ですか!?」

「あそこじゃろうて」


 長と呼ばれたベルゲイが指さした先には、ミランダとティタニアが並んで立っていた。視線が急にこちらに向けられ、ミランダは思わず身をすくめた。まさか自分まで巻き込まれるのは勘弁だと思ったのだ。

 だがティタニアは堂々としたもので、まっすぐ彼らの視線を受け止めていた。そしてミランダに忠告したのだ。


「あの少年が兵卒程度の実力だとしたら、あそこに並んでいる連中は間違いなく大隊長、師団長級の強さを持っているでしょう。彼らが本気で暴れ始めたら、アルネリアの兵士でも相当腕利きの者を連れてこねば、止めることすら容易ではないでしょうね。

 そして彼らに一斉に襲われれば、私とて本気で応戦せねばならない。そうなれば被害が周囲に及ぶかもしれません」

「応戦せずに逃げれば?」

「この狭い会場で? 私もできればそうしますが、どこまで逃げれるものか。迷惑をかけるかもしれないことだけは先に告げておきますが、私から仕掛けることは決してありませんことも断っておきます。何かあれば彼らの方を責めてください」

「ふん、動向を見張っておくわ。あなたも含めてね」

「いいでしょう」


 ミランダは楓に目で合図をすると、楓は音もなく群衆に紛れて姿を消した。そしてティタニアも踵を返した。ミランダは最後に、彼女の背中から声をかけた。



続く

次回投稿は10/10(火)18:00です。

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