戦争と平和、その51~予選会⑦~
「どうやって突破したの?」
「とりあえず襲い掛かってきた相手に応対していたんだ。やられないように必死で守って、とりあえず風船を二つほど割った。僕は一つ割られただけで済んだかな。それで制限時間が来たら、持ち点で僕が勝ったみたいだった」
「なんだよ、運みたいなもんじゃないか」
「強い人がいなかったみたいだしね。ほとんど皆自分の相手で精一杯だったみたいで、複数の敵に襲われることもなかった。運もよかったよ」
レイヤーの説明を聞いて、エルシアもゲイルも拍子抜けした。
「はぁ~、レイヤーらしい勝ち方ね。それにしても一言くらいかけなさいよ。試合が終わっていたら、応援してあげたのに。誰か応援に来てくれたの?」
「発表された時にすぐ試合開始だったから、誰にも伝える時間がなかったんだ、ごめんよ」
レイヤーの言葉は多くが嘘だ。組み分けが発表されてから試合開始まで時間がなかったのは本当だが、レイヤーの予選には3人のA級傭兵、グルーザルドの獣人がいた。レイヤーは彼らが手ごわいとすぐに見抜いたが、今まで戦った勇者の仲間と比べると、戦って負ける気もしなかった。
だが難しいのは、彼らほどの相手を倒してしまうとなると、自分の実力がばれてしまう。本戦出場の報酬はかなり魅力的で、上手くすれば単純な労働の仕事は断ってその時間を鍛錬やルナティカとの仕事に充てることができる。勝ちたいのはやまやまだが、単純に勝つわけにもいかなかった。
そこでレイヤーは一番弱そうな相手に目星をつけ、その男と互角の勝負を演じた。他の戦士たちも上手い具合に互角になったのも予想通りだった。この予選は誰か一人が制限時間内に勝ち抜けるという形では決着がつかず、ほとんどが制限時間時の持ち点で決着がついていることにも注目していた。
レイヤーは試合の成り行きを見ながら得点を調整し、最も違和感のない方法で勝ち抜いたのだ。
「(この方式を考えた人はこうなることを予測していたのかな。時間内に全員を打倒するのはかなり難易度が高い。圧倒的な実力差があるか、あるいは本当に運だと思うけどな)」
「何考えてるの、レイヤー」
エルシアがのぞき込んできたことに今気付き、レイヤーは我に返った。
「いや、よく勝ち抜けたなって」
「そりゃそうだろ。運の良さに感謝しろ、そして俺たちに飯を奢れ」
「それはいいけど、このあと夜まで警備の仕事だし、勝ち抜けた分仕事を前倒ししてもらうから、これからしばらく休みなしだ。奢るのはしばらく先だね」
「そんなのいつでもいいんだけど、次はもう本戦?」
「いや。予選参加者が多すぎるから、さらに絞るって言われた。次から一対一だけど、予選免除の選手が出てくる本戦までに、残り2-3回は戦わされるらしい」
「はっ、こりゃあお前の命運も尽きたな。負けろ負けろ!」
ゲイルがやけくそ気味に悪態をついたが、レイヤーはさらりと流していた。
「まぁ予選突破だけでも出来過ぎだし、お金は充分稼いだからね。もういつ負けてもいいから、気楽にいくよ」
「けっ、欲のない奴」
「せっかくだから応援はしてあげるわ。で、一つ相談なんだけど・・・」
エルシアは先ほどの譲り受けた木を取り出して、レイヤーに明日までに仕上げられないかと持ち掛けた。レイヤーはしばし考えたが、頷いてみせた。
「エルシアの頼みじゃ断れないね。今日仕事が終わってからでよければ引き受けるから、夜に部屋で待ってて。準備していくよ」
「ええ、お願いするわ」
「エルシアに手を出そうとしたら噛みつかれるぞー。気を付けろよ、レイヤー」
ゲイルが背後でからかったので、エルシアがきっとゲイルを睨んだ。
「誰が噛みつくって?」
「噛みつかれるだけで済めばいいけど」
「ちょっと、レイヤー?」
「揉めるなら他所でやってくれ、他の目もあるんだ」
ダロンが窘めた。確かに彼らの騒ぎ方は目立っていたが、ゲイルとエルシアは関係なく騒ぎ続け、それを見たレイヤーはくすりと笑って去って行った。
続く
次回投稿は、10/4(水)18:00です。