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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
1512/2685

戦争と平和、その50~予選会⑥~

 確かに実力者だったが、負けたという感覚がエルシアにあまりない。強いというよりは、非常に戦い慣れている感じだった。熟練の戦士や剛力の戦士に負けるならともかく、同世代の女子に負けたという事実がエルシアを打ちのめしていた。ゲイルの皮肉にすら反論できないほど、エルシアは腹を立て、落ち込んでいたのだ。

 そしてそこに歩いてきたのが、エルシアを倒した女の子だった。背後にはダロンも驚くほどの巨躯の女子を連れている。ゲイルも思わず跳ね起きたが、どう見てもロゼッタより頭二つ以上大きい。ここまでの背丈の女はまず見ないと言っていい巨人だった。


「もし、そこの闘技者の方」

「・・・何よ」


 エルシアは呼びかけられて初めて顔を上げた。巨躯の女に一瞬驚いたような表情をしたが、落ち込んだ心にはさほど大きな感銘も与えないようだった。だがエルシアを倒した闘技者は、エルシアに興味津々なようだった。


「名前はなんというのです?」

「名乗る時は自分から名乗りなさいよ」

「なんだこいつ、生意気な女だな」


 巨躯の女がエルシアを小突こうとしたが、それを小柄な女が止めた。


「黙りなさいウーナ。失礼しました、私はミュラーの鉄鋼兵所属のサティラです。改めてあなたのお名前は?」

「イェーガーのエルシアよ」

「エルシア。良い響きだわ」


 サティラはエルシアを見て微笑むと、ウーナに目線で合図した。ウーナはやや不服そうだったが、その背中に担いだ袋から一つの木材を取り出し、エルシアに渡した。


「これは?」

「エルシアの戦い方であれば、木剣とはいえもっとしなりのある素材を選んだ方がよいでしょう。グレイオークと呼ばれる北方で取れる木材です。これを削って明日の女子部門に備えるといい」

「女子部門? 恥の上塗りをしろって?」


 エルシアがサティラを睨んだが、サティラは首を振って否定した。


「自分を卑下するのはおやめなさい。あなたはそれほど弱くもないし、若いのであればもっと経験を積んだ方がよい。年と戦場の経験は?」

「15歳よ。戦場に出てから1年と少し」

「私は16ですが、戦場の経験は10年に及ぶわ。経験は何より得難い。良い師と仲間、それに戦場に恵まれるといい。しっかり成長すれば、A級の傭兵も目指せるわ」


 自分を負かした相手に褒められるのは、エルシアにとって奇妙な気分だった。


「ふーん、買いかぶられたものね。それで、私が出場して何かあなたにいいことあるわけ?」

「おまえさぁ!」

「いいのよウーナ」


 サティラはウーナを制すると、既にエルシアに背を向けていた。


「どうするかはあなた次第ね。ただ私は強い傭兵をもっと見たい。これは趣味のようなもので、強くなった相手を倒してもっと私は強くなりたいだけ。女であればなおよいわ。私も女ですからね」

「変な奴」

「良く父にも同じことを言われます。私は女子部門にも出るつもりですし、こっちのウーナも出場するわ。実力は私とさほど変わりなし、私自身もあなたともう一度戦ってみたい」

「気が向いたらそうするわ」


 エルシアはひらひらと手を振ったが、既に視線は手の中にある木材に落ちていた。どうするかは一目瞭然だった。

 そしてダロンが思い出したように手を叩いていた。


「あの巨躯、そしてミュラーの鉄鋼兵。確かそんな傭兵が最近出たと聞いたな。確か団長ドードーの娘で、副隊長の一人だったはずだ」

「じゃあ、口調からしたらさっきの小さい方が隊長? 俺らとそんなに変わらないように見えたぜ?」

「そうなのだろう。ドードーは非常に子だくさんだが、そのどれもが一流の傭兵だと聞いたことがある。エルシアは運が悪かったな。ミュラーの鉄鋼兵の隊長なら、A級でも上位に位置する傭兵だ。剣を握って一年少しでは太刀打ちできなくてもしょうがな――」

「気に入らないわ」


 エルシアは木材を持つと、ダロンの言葉を否定するようにすっくと立ちあがった。その顔には既に落ち込んだ様子はない。


「明日の女子部門とやらで勝ち上がってやる。それであの調子の乗った女もぼっこぼこにしてやるわ」

「調子が出てきたじゃないか」

「当然だわ。この木材はレイヤーにでも削ってもらうわ。そのレイヤーはどこ?」

「確か同じ時間に予選だったぞ? そろそろ戻ってくるんじゃ・・・」

「呼んだ?」

「のわあっ!」


 ゲイルは突然背後からレイヤーに声をかけられて驚いた。足音くらいさせろと、レイヤーを小突いている。


「つい」

「つい、で足音消すんじゃねぇよ! お前はどうだった? 予選突破は無理でも、一人くらい倒したのか?」

「なんとか予選突破したよ」

「そーかそーか、やっぱり・・・って、ええ!?」


 ゲイルが心底驚いていた。それもそうだろう、今日予選があった中では、レイヤーは3人目の突破者なのだ。朝のドロシー、ライン以外、まだ誰も予選を突破していない。

 時刻は昼とはいえ、イェーガーの傭兵はどの組にも一人は入っているほどは参加している。傭兵としての等級ランクが上位の者、つまりは隊長格の傭兵はまだほとんど出ていないが、ここまで200名近くが脱落したことになる。その中でレイヤーが突破するとは、ゲイルは冗談でも考えていなかった。

 だが、ゲイル以上にむきになったのはエルシアだ。



続く

次回投稿は、10/2(月)18:00です。

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