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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その47~予選会③~

「レイヤー、どうして予選に出るの?」

「知らないの? 予選突破者に出る金一封、僕の報酬半年分に相当するんだよ」

「・・・聞いた私が馬鹿だったわ」


 レイヤーも少しやる気を出したのかと思ったのに、聞いた自分が馬鹿らしくなってエルシアは肩を落とした。


「エルシアはお金目的じゃないの?」

「ふん! お金もそうだけど、腕試しに決まっているわ。私の実力がどのくらいになったのか、試す良い機会だもの」

「おう、俺とエルシアは揃って予選突破してやるから、レイヤーは安心して負けていいぞ! 飯ぐらいは予選突破の金で奢ってやるからよ!」


 そう言ってゲイルがエルシアの肩に手を置いたので、エルシアはするりと避けてゲイルに足をかけていた。ゲイルは思い切りすっころび、鼻をしたたか打ち付けていた。


「いってぇ! 何すんだ!?」

「足元をすくわれないようにっていう忠告よ、感謝なさい」

「げっ、鼻血が止まらねぇ。どーすんだ、これ。俺、予選三組目だぞ?」

「それだけ自信があるなら良いハンデでしょうよ」


 エルシアは皮肉を言ったが、実のところゲイルの最近の実力はかなり伸びている。体格の伸びも素晴らしく、もうエルシアよりも頭二つ背が高くなりつつある。大人と比べても体格に遜色なく、ロゼッタの特殊兵たちの訓練にもやすやすとついていけるそうだ。元々体力はあるゲイルだ。体格に技術が伴えば、将来的に腕利きの傭兵になるのは明らかだ。一つ心配なのはそのお調子者の性格と、勤勉ではないことだろうか。

 ゲイルはなんとか鼻血を止めるために、救護班に走っていった。走れるあたり、心配はないだろうとレイヤーはふっと笑った。そして準備に余裕のある面子は、ドロシーの応援に集まっているらしいので、そちらに向かうことにしたのだ。増設された予選の会場は急造のため、広場にロープと柵で円を作っただけの簡素な造りである。

 場外に出るか、降参するか、審判が戦闘不能と断じたらそこまでとなる。そして安全に配慮して、模擬刀など殺傷力の低い武器を使用する。木製でありさえすれば種類は不問。そして防具の着脱は自由だった。

 競技場の10方向からそれぞれ予選出場者が入場してくる。ドロシーは周囲には待ちきれないと(はや)っていたが、実に冷静に入って来た。そのたたずまいたるや、すでに熟練の傭兵を思わせる。


「ドロシー、勝つかしら?」

「おそらくは大丈夫だ。ドロシーはかなり強くなっている。模擬戦では何度かやられた」

「うそ? ダロンから?」

「エメラルドもやられたよー? ドロシー、人間にしてはかなり強い」


 エメラルドが誇らしそうに語ったので周囲も驚いたが、ラインは冷静な意見を出していた。


「まぁ予選にどこぞの騎士様や、A級の傭兵でも混じっていない限りは普通に勝つだろ。ドロシーの腕前は保障するぜ」

「手に持った握り飯がなければ、そのセリフが格好良いんだがねぇ」


 タジボに指摘されたが、ラインは朝飯をほおばっていた。会場が同じなためそこで準備しているのだが、ドロシーの展開も気になったらしい。本来控えの場にいるはずなのだが、客に混ざって見物しているのだ。

 そしてその隣にすっと近寄る影があった。


「隣、よいかな?」

「あぁん? って・・・ごほごほっ」


 ラインの隣に頑強な獣人が突然立った。見覚えのある顔だとラインは思ったが、確かドライアンの隣にいた獣将ではなかったかと思い思わずむせた。


「えーと、確か獣将の」

「ロッハだ。久しぶりだな」

「あっ、ロッハ将軍?」

「ヤオか。元気にしているようだな」


 ロッハもヤオには目をかけていたので、軽く近況を報告していた。


「ドライアン王の護衛ではないのですか?」

「あの王に護衛が必要か? 補佐官も必要ないと言われたよ。なので部下の予選を見に来た」

「どなたです?」

「ゼフだ」


 ロッハがドロシーの反対から入って来た獣人を指さす。ヤオにも見覚えがある顔だった。


「ゼフ殿。確かロッハ将軍の側近ですね?」

「本戦の枠は我々でいっぱいになったのでな。奴は若い。俺の側近だと南方戦線にも滅多に行けないし、鬱憤が貯まっていた様子でな。しょうがないから連れてきて予選に出した。次だが、その様子だと知り合いがいるのか?」

「ええ、うちの団員が一人」


 ヤオがドロシーを指さした。


「ゼフの奴は人間と戦ったことがないはずだ。人間が使う鉄器相手は本来ならかなり難しい。とはいえ今回は我々も爪には保護具がかぶせられるし、そちらも木剣だがな」

「それでも強敵ですね」

「そうだろうな。お前でも勝てるかどうかは五分ではないだろうか」

「厄介なのはそれだけじゃねぇな」


 ラインが指さした先には、巨人と見まがえるほどの大柄な戦士が立っていた。会場がざわついている。ダロンほどではないが、並の人間よりは頭三つ分ほど大きい。体格も筋肉もそれに伴い肥大している。

 あの体格なら、肉体そのものが凶器になる。木製の武器など関係なさそうだった。


「西の国の『海の男』って連中だな。たまに出稼ぎで傭兵なんぞをやるが、海が凍ったり、海が荒れやすい寒い時期にかけてがほとんどだ。最近は海魔の活動が盛んで不漁だとは聞いていたが、こっちに出てきたんだな。多分金目的だ」

「強いのか?」

「見た目どおりだ、腕力なら普通の人間は勝てん。隊長格になると、巨人を投げ飛ばすともいうしな。それにもう一人、あのローブの男はおそらく暗殺、賞金首を狩ることを専門としている傭兵だ。暗器を仕込んでいるわけじゃないだろうが、腕が立つことは間違いない。かなり難関な予選の組だな」


 ラインの説明に仲間たちの不安がよぎる。そして出場者の名前が呼ばれ、出場者たちがそれぞれ現れたが、ドロシーは仲間を見つけると、笑顔で手を振っていた。逆にゼフは油断なく身構えている。その様子を見てロッハがラインに聞いた。


「誰が有利とみる?」

「有利なのはおたくの兵士だよ。だがそうだな――」

「だが?」

「勝つのはドロシーだな」


 ラインの確信と同時に、開始の合図がかかった。



続く

次回投稿は、9/26(火)19:00です。

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