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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その44~大陸平和会議開催前⑦~

「なんだ、やはり知っているのではないか」

「まぁその名が上がらないとしたら、相当な『ぼんくら』でしょうね」

「ぼんくらと来たか。中々俗な言葉がでたな、王女」

「割と得意ですの、昔教えてくれた方がいまして」


 ドライアンは一つ笑って、話を続けた。


「何者なのだ、シェーンセレノとは。俺も探ったが、やはり人間世界での情報収集には限界があってな」

「どこまでご存じかしら」

「突如出現した女政治家。元は地方領主の娘で、メイヤーにも遊学経験があるが、特にこれといった優秀な成績は残さず。自分の領に戻ってからは領主である父の補佐を行うが、これまた目立った業績はなし。

 数年間の間表には出ず、病に臥せっていたと思われたが、父が病床について領主代行として活動するようになってから、突然と言っていいほど才能を発揮した。あっという間に中央政府に食い込み、外務大臣の任を受けてからは諸国をまたにかけて活動している、といったところか」

「十分な情報ですわ。付け加えるとしたら――」


 ミューゼはどこまで言うべきか少し悩んだが、ドライアンを信用することにした。会議の場でも仲間が必要だ。それも力があり、切れ者の。自分一人だけでも会議の主導権を握る自信はあったが、ドライアンが仲間にいて損をすることはないだろうと考えたのだ。獣人に対する偏見はまだあるが、ドライアンその人を侮る諸侯はまずいない。


「元々内気な性格ですわね、外に出るよりも静かに部屋で本を読むような。メイヤーで際立った成績が残せなかったのも、座学の成績ではなく、討論の現場で緊張しすぎて発言ができなかったことが原因でしょう。政治家において、引っ込み思案という気質は負の要素以外の何物でもありませんわね。

 メイヤーから帰還後父親の補佐をしたというのは名目で、精神を病んだとも伝えられています。それがあの豹変ぶり。よほど革新的な出来事があったか、それとも別人なのか」

「別人か! なるほど、その可能性は考えなかったな」

「それも可能性の話ですわ。問題なのは彼女が無視できない影響力を持っていて、そしてローマンズランドと、それを抑止できないアルネリアを痛烈に批判していること。まだ静観している諸侯がほとんでしょうが、熱烈な支持者もいます。会議では一波乱あるでしょうね」

「おぬしはどちらだ? シェーンセレノを支持するのか?」


 ミューゼは困ったような表情をした。思わせぶりな、その焦らしたような仕草に惑う者もいるかもしれないが、ドライアンはそのようなことはないし、ミューゼもドライアンに対してそのようなつまらぬ色仕掛けを使う気もなかった。


「私は誰か特定の個人を支持することはありませんよ。状況に応じて好ましいと思える主張に同調はするでしょうが」

「なんだ、日和見主義者だとでも言うつもりか?」

「お言葉には気をつけてほしいですわね、大局を読むことが必要だと言っているだけですわ。ただし、ローマンズランドの行動は看過できないことに違いありませんが、どこに状況を落とし込むかが問題でしょう。仮に全面戦争ともなれば、どれほどの被害が出るか。理想的にはこれ以上の戦争を回避し、ローマンズランドに補償をさせて終了、が望ましいのですが」

「そんな終わり方をすると思うか?」

「求めるものが食糧や一定の権利なのであれば、まとまりもするでしょう。ですが――」


 ミューゼは一つの可能性を考えた。かつて師であるアルドリュースに教えられ、当時は否定した可能性。為政者としてアルマスなどの存在意義を考えるようになるとわかったこと。


「彼らの目的が戦争そのものであれば、終わることはないでしょうね」

「戦争そのものか。武器商人でもあるまいし、一国がそんな理由で動くと思うかね?」

「まともな者が為政者なら。ですが、黒の魔術士が背後にいるのであれば何でも起こり得るのでは」

「その証拠、何か掴んでいるのか?」


 ドライアンが身をひとつ乗り出した。どうやらこの話が本番だということだろう。


「それが本題ですか?」

「その通りだ。生憎と俺の間諜たちは何もつかめなかった。獣人の間諜はローマンズランドでは目立ちすぎる。だがそなたならどうかと思ったのだがな」

「そうですね――確たる証拠は掴んでいないのですが、ローマンズランドを追及する手立てなら考えています」

「ほう? それはなんだ?」


 急かすドライアンをミューゼは制した。


「まだ会議の成り行きすらもわかりません。初日が終わった後にでも再度お話ができればと思いますが」

「よかろう。ではできる限り協力いたそう。この会議の間は少なくとも協力する。そういう関係でよいかな?」

「あら? 私としては末永くお付き合いいただけるならそれも構いませんわ」

「もちろんだが、もう少し関税を緩くしてもらえるのなら実現できそうだが」

「それとこれとは別のお話ですわ」

「手厳しい」


 ドライアンはそう言って手にあるワインを飲み干すと、政治の話とは関係なく、ミューゼとのしばしの談笑を楽しんだ。



続く

次回投稿は9/20(水)19:00です。

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