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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その43~大陸平和会議開催前⑥~

「ドライアン王よ、お呼びですか?」

「すまぬなミューゼ女王、不躾なお誘いで。人が多くて、このくらいしかできなかった」

「構いませんよ。殿方の誘いを受けるのは女の誇りです」

「獣人の誘いでもか?」

「あなたのような偉丈夫に種族は関係ありませんわ。それに私の人間の感覚でいえば、私も結構な年齢となりましたので」

「それこそ俺には無用な配慮だ。獣人に人間の年齢の大小などわからんし、そなたは充分に知性的で美しい」

「これはお褒めにア預かり光栄ですわ」


 ミューゼは微笑み、ドライアンは苦笑して連れだって歩き出した。ドライアンは片手にワイングラスを持っていたが、それには手をつけることはなくそのままミューゼを庭園に誘い出した。それだけで政治の話であることはわかるし、あまり人には聞かれたくないということだ。ミューゼは黙して従い、護衛のエアリアルは後ろからひっそりとついて行った。

 こういった場所の庭園にはいくつかテーブルが設けられている。これも個人的な話し合いや密談などでは使用しやすいが、アルネリアはどうやら陰謀を奨励しているらしい。そのうちのテーブルは埋まっているものもあり、中には暗がりに紛れて逢引をしているような手合いもいたが、ドライアンは空いている席には目もくれず庭園を突っ切って外に出ようとした。裏口のような場所に出たのだが、そこには数名のアルネリアの騎士がいて止められた。


「これはドライアン王。お帰りになりますか?」

「いや、ちと夜風に当たるだけだ。久しぶりに人間の酒を大量に飲んだら酔ったようでな」

「では護衛を数名つけましょう。大切な御身に何かあっては大変ですから」

「このドライアンをどうにかできる者がこの会議に何名いると? それに儂の傍には獣将がいる。そなたたちが獣将よりも腕がたつと自負できるのであれば、供に加えてもよいが」


 意地の悪いドライアンの言葉だったが、騎士も引き下がりはしなかった。


「お戯れを・・・しかしそれでは我らが叱られます」

「では遠巻きになさいね。個人の自由時間に首を突っ込むのは、いかに任務といえど野暮ですよ」


 ミューゼに言われてはっとしたような顔をした騎士は小さくうつむくと、周囲の二名が無言でついてきた。ドライアンは彼らをちらりと見たが、それ以上何するわけでもなく足を運び、やがて何もない草原に出た。そこにはテーブルと獣将の一人リュンカが待っていた。


「お待ちしていました、王よ」

「ああ。殺風景な場所になったが申し訳ないな、ミューゼ女王。俺たち獣人はやはり自然に囲まれていないと、落ち着かないようだ」

「構いませんわ。私が人間であっても、やはり彼らに囲まれているのは落ち着きませんから」


 ミューゼの言い方にドライアンは一つ笑うと、リュンカを始め護衛を遠ざけた。それに倣いミューゼもエアリアルに下がるように指示する。当然、アルネリアの騎士たちも下がった。彼らが十分に離れたのを確認すると、ドライアンはようやく切り出した。


「厳重な護衛に感心する一方で、こうでもしないと、アルネリアの監視があるところじゃあ存分に話せないのは不便だな」

「それは私も同じですわ、王よ。正直申しまして、この会議にはもう少し賢い者が集まっていると思いましたが、諸国の政治家の質は落ちているのでしょうか。アルネリアが用意した宿舎、建物で権謀術数を巡らせても、彼らの掌で踊るにすぎないというのに」

「そなたもアルネリアは信用していないのか」

「アルネリアのみならず、伴侶でさえ時には疑うのが政治というもの。真の意味で十全の信頼を置ける者など、為政者におりましょうか?」

「言葉にすると寂しいが、その通りかもしれんな。まぁこの会話とて誰かに聞かれているかもしれんが」

「・・・そうですね」


 実はミューゼは防音の魔術を張っている。それは非常に簡素なものであるので、精度の高いセンサーには正直通用しないだろうが、本当の妨害魔術は自らの声と連携させてある。周囲10歩以上の場所から聞いても、ドライアンの声しか聴きとれないように工夫してあるのだ。唇の動きを読まれればそれまでかもしれないが、この暗がりではそれも不可能だろうと考えている。既に謀り合いは始まっているのだ。

 だがドライアンの方はそこまでは考えていないのか、それとも豪快かつまっすぐな性格なのか、いきなり本題に入った。


「この会議、主題は最終的にアルネリアに対する非難になると思うのだが、いかがか?」


 その言葉にミューゼは思わず息が止まるかと思った。まさか同じことを考えている相手がここにいるとは思っていなかったからだ。ミューゼは動揺を悟られぬようにゆっくりと言葉を返した。


「ローマンズランドの非難ではなく?」

「最初はそうだろう。今のところローマンズランドの使節団は到着していないが、誰も寄越さないとは考えにくい。誰も寄越さなければ自ら非を認めるようなものだからな。だが結局は今回の事態を止められない、盟主としてのアルネリアの責任能力を問われるのではないかと思う。そのために動いている連中がいるだろう?」

「さて、どうでしょうか?」

「とぼけないでいただこうか。俺はこの流れは非常に気になっているし、東の諸国で最も切れ者と名高いあなたが気づかぬわけがないだろう。アルネリアが非難されるのはまあ致し方ないだろうが、問題は弾劾にまで発展しないかということだ。それでは本末転倒になるだろう」

「どこのどなたかしら? そんなことを考えているのは」

「そなたも知っているはずだ。なんなら同時に名を挙げてみるか?」


 ドライアンの提案にミューゼはしばし悩んだ後、頷いた。


「今回の会議、裏で動いているのは――」

「「シェーンセレノ」」


 同時に同じ名を挙げたのをみて、ドライアンとミューゼは互いにふっと笑った。少なくともある程度腹を割って話せることは決まった。



続く

次回投稿は、9/18(月)19:00です。

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