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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その40~大陸平和会議開催前⑤~

「お前たちに与しない限り、クーデター派が俺を取り込む可能性がある。そういうことだな?」

「私たちに与しても、クーデター派の動きがどうなるかの保障は一切ありませんけどね」

「わかった。なら俺は今回の統一武術大会に出場しよう」

「は? ・・・ははぁ。目立てば彼らも手を出しにくい、そういう狙いですか。だがしかし、貴方は国では大罪人なのをお忘れか。彼らがその気になれば貴方を強制連行することもありえる」

「それはどうかな? 俺がお前の国の大罪人やらと同一人物だと、どうやって証明する? 生憎と、俺は偉そうな騎士様なんかじゃなく、傭兵のラインなものでね」


 ラインが手を広げて空とぼけたので、イブランは思わず大笑いしてしまった。


「いやぁ、そこで厚かましくでるところが何とも羨ましい! 私にはとても真似できません」

「俺もお前程腹黒くはなれないよ。最悪、俺がお前たちに協力しないとしても、囮として泳がせてクーデター派を釣り出す気だろう? 俺のことに憧れたの何のと言いやがるが、まるで敬意なんざ感じないぞ」

「これは・・・憧れでしたよ、昔はね。そして騎士に戻ってもらえれば、やはり憧れるでしょう。だが私は傭兵という立場には興味がありません。そのようなもので何が守れると言うのですか。私は騎士という存在に誇りを持っているのでね」


 ラインはイブランの本音を初めて聞いた気がした。確かにかつての自分に憧れたというのは嘘ではないだろう。その堅物の思考そのものが、かつての自分にそっくりだからだ。


「まぁ確かに俺も昔そうだったさ。だが傭兵は傭兵でな、大きな国なんていう訳の分からんもののために働くも、隣にいる誰かの生活を守ったりするのは案外気分のいいことなんだ。

 ただ傭兵ってのは何かを守るためにするよりも、どちらかというと何かに挑むためにやっている連中の方が多いがね。お前が気に食わないのはそういう部分なんだろうよ」

「ふん、知ったような口をきく。どうやら私が憧れた騎士はもういないようだ。それはいい、だがあの人を幻滅させることは許さない。せいぜい勝ち抜いてくださいよ」

「もちろんだ。俺が出ることはせいぜい全員にしっかり伝えてくれよ。俺たちの仲間に何かしやがったら容赦しないともな」

「クーデター派も、さすがにアレクサンドリアの名誉に傷をつけるような真似はしないと思いますがね」


 イブランは不快そうに返答し、背後の騎士と共に去って行った。ラインはしばしその場に留まり、まさかコーウェンが出てこないだろうかと疑い、さすがに誰もいないことを確認するとゆっくりと煙草を吸いながら、思いを故郷とディオーレに馳せていた。


***


「ええ!? 副長も統一武術大会に出場するんですか?」

「なんだ、何か悪いのか?」

「だって、アルフィリース団長がアルネリアからもらった、本戦からのシード権も放棄したでしょ? なんで今更」

「うるせぇ、気分が変わったんだよ。さっさと登録しやがれ」

「はぁ、そりゃあいいんですけど・・・今からじゃ予選出場になりますよ? 明日の早朝開始です。仕事があるんじゃなかったんですか?」

「構やしねぇよ。お前、俺の代わりにちょっと現場に立って、そこはいい、そこはもうちょっと丁寧にやれって交互に言っとけ。それでなんとかなるから」

「そんな無茶な。まぁ登録はしておきますけどね」


 ラインは統一武術大会の受付で働く団員に無理を言って、自分の名前を登録させた。煙草をゆっくりとふかしたのはいいのだが、背中に背負ったダンススレイブに、受付締め切りが迫っていることを指摘され、慌ててやってきたからだ。そして締め切りを少々過ぎたことが判明し、無理言ってねじ込んでもらったところである。


「で、何人予選には出るんだ?」

「ざっと2万人ですかね」

「はぁ? なんでそんな阿呆みたいな人数になったんだ?」

「そりゃあ統一武術大会ってのは良い士官の機会ですからね。諸国使節や、下手をすれば王族に直接その実力を主張する良い機会です。今回は予選突破の枠が1000人近く用意されていますし、物見遊山みたいな連中を差っ引いても5000人くらいは真剣なんじゃないですか? 俺が確認しただけでもB級やらA級の傭兵が何人も登録していましたし、予選突破は至難ですよ。

 それに会場はともかく審判が足らなさそうなんで、普通は一対一の勝ち抜き戦を行うんですが、まとめて集団戦で予選を行う予定です。よほど実力差がない限り、半分以上運ですね」

「ぬう・・・お前、明日の組み合わせだけどな・・・」


 ラインが急に声を潜めたので、団員は慌てて首を横に振った。


「あぁ~、ダメダメ。いくら副長でもそれは駄目ですって。だいたい管理にはアルネリアやギルドも関わっているんだ。イカサマはなしですって」

「そこをなんとかしろよ。すげえ強い奴と当たったらどうすんだ」

「知りませんよ! そもそも副長が反則みたいなものじゃないですか。相手の方がよっぽど気の毒だ」

「馬鹿! 万一でも俺が負けたら、晒し者じゃねぇか!」

「自業自得でしょ?」


 しばしぎゃあぎゃあと言い合っていたが二人だが、アルネリアの関係者に団員は呼ばれたせいで、事なきを得た。ラインは項垂れたまま、やや呆れ顔のダンススレイブに連れられ、次の朝に備えるために帰っていった。

 そして統一武術大会に関わる裏方たちはそこからが本番であった。予想されたよりも遥かに予選登録者が多かったため、会場のやりくりや、審判の人数確保、当日の案内などが間に合わない可能性が出てきたのだ。公平を期すために登録締め切りから組み合わせなどを確定させるため、これから徹夜で準備する必要がありそうだった。


「組み合わせは決まり次第、順番に書いて予選会場の入り口に張りだせ! そうすれば、予選が始まっても次々に追加できる!」

「予選会場は現在8箇所準備しているが、それでは捌ききれん! 予選は3日で終わらせろとのお達しだ。なんとしてもあと倍の会場と審判を確保しろ!」

「予選出場者への通達は不可能だ。予選開始の時間に間に合わなければ、自動的に失格にしろ」

「文句が出たら?」

「時間に間に合わない者があまりに多ければ、後で救済措置を考える!」

「救護班の手配はできたか? 明日は怪我人が多いから、神殿騎士団と周辺騎士団のシスターだけじゃ間に合わん。グローリアの学生にも依頼したのか?」


 徐々に鉄火場と化す会議の現場、作業所で、数名の傭兵たちがぼやいていた。


「俺も予選に出たかったんだけどなぁ」

「しょうがないだろ。イェーガーの総数じゃ団内の戦いみたいになるし、団長がD級以下の傭兵は特別な事情がない限り、今回は遠慮しろってお達しだ。それに俺たちがライン副長や、ダロン隊長やエアリアル隊長みたいな戦士と戦って勝てると思うか? 化け物ばかりだよ、あれは」

「それはそうだけどさぁ、祭りは参加することが重要だろ? 団内にいるガキどもも参加するらしいじゃないの」

「ゲイルとかエルシアか? あいつはらナリは子どもでも、実戦をくぐっているからな。特別だってよ。祭りも命がないと楽しめないぞ? それに命の危険のない裏方でも十分な報酬は出るしな。他にも強そうな奴らが大量に来ていた。手配書で見たような連中もいた気がしたんだがね」

「平和会議中は恩赦が出ることが多いからな。それを狙ってのことじゃないか?」


 信じられないとばかりに、傭兵たちが苦い顔をした。


「ガラが悪くなるから恩赦は逆に危険だと思うんだがなぁ。治安維持に携わる身にもなってみろってんだ」

「それはアルネリアの騎士がやってくれるだろ。それよりお前、受付の締め切り直前に来た、髪の長い女剣士、見たか?」

「見てないが、それが?」


 興奮気味に一人の団員が語る。


「ありゃうちの団にもいないような美人だったぜ。いや、うちの団って美人が多いだろ? 俺は最初イェーガーに所属した時、こりゃあなんて幸せなんだって思ったんだが、その中でもとびっきりだ。背中には似合わない大剣を二本も背負ってたがな」

「女の力じゃ二本も大剣を振るえないだろ、ロゼッタ隊長はさておきだがな。名前は覚えていないのか? そんなに美人なら顔を拝みたいんだが」

「ええと、さっき名前を書いたなぁ。明日の早い時間帯で登場だったと思うが・・・ああ、これだ」

「何々・・・『ティタニア』だって? ああ、こりゃあ見る価値ないな」


 吐き捨てた傭兵に、他の仲間が質問する。


「なんでだよ?」

「伝説の剣帝を名乗るような女剣士に、ろくなのはいないよ。売名行為ってやつだな。せいぜいブスか詐欺師だ」

「ひっでえ言いようだな。だが本当に美人は美人だぞ?」

「はいはい、時間があれば見に行きますよ」


 一気に熱が冷めたのか、会話はそこで一度終わり彼らは作業に集中したのだが、確かにそこにはティタニア、登録武器は大剣と書かれていたのである。



続く

次回投稿は、9/12(火)20:00です。

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