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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その23~導師の試練①~

「何!?」

「ちょっと、どういうつもり?」

「言ったはずだがね、既に試練は始まっていると。残念だが、真竜ですらこの体たらくだ。魔人と戦った時よりも真竜は不抜けている。どのみち種族として終わりが近いのかもしれないな」

「その偉そうな物言い。何様のつもりですか、あなた」


 リサの敵意に、アースガルは微笑んで返した。


「ただの人間であることに違いはない。だが何も考えていない真竜よりは、世の真理に近いとは思うがね。ああ、古い種族と言えば、テトラポリシュカもそうか。多目天などとうに絶滅した種族だというのに、死ぬ間際にせめてその魔眼だけでも摘出しておいておけば役に立ったろうに。若い頃から気の利かない女だった。

 真に娘のことを思うのであれば、そうすべきだったとは思わないかね?」


 アースガルがウィクトリエに水を向けたのだが、それは彼女にとって最大級の侮辱であった。本来温厚なウィクトリエでも、こればかりは我慢がならなかった。


「どれだけ凄い魔法使いなのか知りませんが、今の言葉を取り消しなさい!」

「魔法使いではない、導師だ。言葉は正確に使いたまえ。それとも君の母はその程度の教育しかしなかったのかね?」

「貴様!」


 ウィクトリエがアースガルにつかみかかろうとした瞬間、マイアと同じように鎖が飛び出て彼女を絡めとった。ウィクトリエは鎖を引きちぎるべく全力で抵抗したが、全くの無駄であった。ウィクトリエは無念そうに、今度は床に沈められていった。

 危険を感じたラインとフォスティナが武器を構えたが、ラーナとアルフィリースがそれを制した。


「待ってください!」

「落ち着きなさい!」


 その言葉にすんでのところで止まる二人。アースガルは座ったまま、わずかに微笑んでいた。


「賢明だ」

「・・・まだ説明が終わっていないのではありませんか? 試練だと言うなら、どのような試練なのか。また、どうすれば終了するのか言うべきです」

「残念だがそれを言う必要はない。これは君たちにとって必要だから行われることなのだ。世に全て訪れる事象に無駄なものはなく、人はその意図を汲み取れないだけ。君の花の事もそうだとは思わないか?」

「そんな馬鹿な話がありますか! あの残酷な死に方が、試練ですって! 試練を受ける受けないも聞かずに強制的に始めて、二人を連れ去って! すぐに二人を返してもらいましょうか!」

「落ち着きなさい、ラー・・・」


 アルフィリースが窘めようとしたが、今度は天井から出た鎖がラーナを絡めとった。アルフィリースは咄嗟に彼女を捕まえたが、鎖はまるで意志があるかのようにラーナだけをもぎ取り、天井に消えていった。

 呆然としてそれらの成り行きを見つめていた面子だが、これまで身じろぎもしなかったエアリアルが言葉を発した。


「・・・なるほど、なんらかの条件で発動する魔術だな。条件に合致したものだけを連れ去る、そんなところか」

「冷静だな、草原の娘よ」

「狩りでは冷静さを欠いた者から死ぬ。仲間が目の前で死んでも、眉一つ動かさず獲物を狙わなければならない時もある」


 エアリアルの言葉に、アースガルが拍手を送った。


「なるほど。その冷静さが将来の闇の魔女にもあれば、こんな事態にはならなかっただろうに。素質はあるが、まだ年若すぎるか。それとも、母の死に際も影響しているのかな?」

「そこまで把握しているのか」


 アースガルの情報網に驚きを隠せないアルフィリース達だが、ここまで押し黙っていたラインが口を開いた。


「一つだけ答えろ。どうやったらこの試練は終わる?」

「それを当てるのも試練のうちだ」

「ちっ、しょうがねぇな。リサ、いなくなった面子は無事か?」


 ラインが怒りも露わにリサに問いかける。だがリサのセンサーには何も引っ掛からなかった。


「・・・おかしいですね。この部屋から先にセンサーが飛びません。まさか結界で部屋を覆ったのですか?」

「そんな気配はしなかったわ。だって部屋は・・・」

「既に結界の中に囚われた可能性もある。あるいは空間ごと転移させられたかも。ここは既に異空間かもな」


 フォスティナが答えた。そして慎重に剣の柄で部屋の入り口を押して開けていた。部屋の扉は無事に開いたし、見える限り外の様子もおかしくはないが、人気が一切ない。先ほどまで満室で賑わっていた宿だ。どうやら何らかの結界が発動しているのは間違いないらしい。

 フォスティナは扉を閉めようとしてやめた。部屋の外にわずかでも出ることが危険である可能性もあったからだ。


「フォスティナ、閉めないの?」

「・・・やめておく。この手の罠は何度か経験したことがある。古い遺跡で発動する罠の中に、わずかでも決められた道筋をそれると転移させられるというものがあった。あれは相当古い魔術だったと思うが、それと同じような感じがする。致死性だとは限らないが、避けるに越したことはない。この導師殿は古い魔術も使えるだろうしな」

「結界だというの? 気配はなかったわ」

「結界ではない。異空間、とでも呼ぶのか? この空間自体が魔術で作られている可能性が高い」

「ご名答。うかつに外に出ないことだ。私にもどうなるかわからないからね」


 一見何もない宿屋にしか見えないが、急に外の空間が不気味に感じられてきた。ラインとリサは外を食い入るように見つめたが、アルフィリースはお茶を注ぐとソファーに深く腰かけてくつろぎ始めた。

 さすがの冷静さを保つエアリアルも、またアースガル本人もその態度には目を丸くした。



続く

次回投稿は、8/9(水)21:00です。

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