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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その9~冬の準備②~

「これはなんでぇ?」

「ふふふ~ドワーフの皆さんなら涎が出るほど面白い物ですよ~」


 ドワーフ達は赤ら顔をしながらその紙をぼんやりと眺めていたが、すぐにその目が見開かれ、酔いは3回も瞬きする間に醒めてしまっていた。


「これは・・・武器の設計図か。それも、見たことのねぇ類のやつばかりだ。これはおめぇが書いたのか?」

「そうですよ~今まで書き溜めた力作です~。創れますかぁ?」

「小娘よぅ、おめぇはドワーフのなんたるかをわかってねぇようだな? 素材さえありゃあドワーフに作れねぇもんなんてねぇんだよ!」


 どん、と胸を叩いてガハハと笑うドワーフたち。そこでコーウェンはもう一つの設計図を取り出した。


「ならこっちも出してみますが~、これを設計した人間は『多分100年以上かかると思うから、長期的に考えて』って言ってました~。これはどうですかぁ~?」

「何ィ!? 俺たちドワーフに喧嘩売ってんのか!」


 ドワーフたちがひったくるようにしてとったその図面だが、彼らはその図面を見て青ざめた。そこにはドワーフたちにすら理解不可能な図面が書いてあったからだ。

 ドワーフたちは青ざめながら、恐る恐る質問した。


「お前よぅ、これ・・・本気で作るつもりか?」

「もちろん本気です~。でも提案したのは私ではなく、団長ですが~。無理ですか~?」

「いや、無理とは言わねぇがよ。鉄の鳥を空に飛ばすのなんざ、凧を空に上げるのとはわけが違うんだぞ? 理屈はわかる、作ることもできる。だが思考錯誤で何人死ぬやら。おっそろしい物を考えやがる、あんたの団長は」

「会ってみますか~?」

「ああ、俄然興味が湧いてきた。こんな突拍子もないことを考え付く馬鹿は大好きだぜ」


 ドワーフっちはその後も設計図についてあれこれと議論を交わしていた。アルフィリースが『鉄の鳥』と名付けたその設計図は、飛竜を使わずとも空を飛べるように考えられたものである。動力こそ未完成だが、いずれは魔力を活用せずとも飛べるようにと工夫するつもりだ。アルフィリースは当座、火を用いるつもりのようだが、危険性からも将来的には別の動力源を用いるべきだと考えているらしい。

 コーウェンがその是非について尋ねた。天馬や飛竜がいるこの世界で、そんなものは開発における労力と見合わないのではないかと。だが、アルフィリースの答えは至極単純だった。


「竜や天馬が絶滅したら? 飛翔の魔術はあれだけ魔術協会が研究を積み重ねても上手く行かず、人間に協力的で飛行可能な種族は天馬と竜しかない。仮に空を飛べる魔王が飛竜と天馬の全滅を目論んだら、人間はあっという間に滅ぼされるでしょうね」


 その言葉にコーウェンは衝撃を受けた。確かに、今まで考えても見なかった可能性ではある。自分が戦略について考えてもみない一手を指摘されるのはいつぶりか。そしてアルフィリースは付け加えた言葉が、なおもコーウェンに衝撃をもたらした。


――竜の衰退はもう始まっているわ。私たち人間は遅かれ早かれ、自力で空を飛ぶ必要がきっとくるのよ。それが何十年後か何百年後かわからないけど、海が荒れた海流のために渡れないというのなら、空を飛んででもこの大陸以外の外の世界を探す必要が来るのだわ――


 アルフィリースの考えはどこまで先の時代を見越しているのか。コーウェンは天下百年の計は考えたことがあるが、千年の計は考えたことがない。しかし、おそらくではあるが、アルフィリースは人類の衰退までの何千年の歴史というところまで考えたことがあるのだ。そのことにコーウェンは衝撃を受け、背を向けたアルフィリースに向けて膝を付き、自然と臣下の礼をとっていた。

 この時、コーウェンの中でアルフィリースは協力者ではなく、正式に主となったのである。


「(決めました~アルフィリースのためにこそ、私の叡智の全てを捧げます~。アルフィリースはただの傭兵ではない~きっとこの先の歴史を作っていくのでしょう~。いえ~、アルフィリースが歩いた後が~、人類のより良い歴史に繋がるはずです~。そのための邪魔をする者は全て私が排除します~。まずはそのためにも~、オーランゼブルなるものを退けねば~。そしてまだまともに勝ったことのない策士クラウゼルにも~、私は勝たなければなりません~。

 非常に困難な道のりですが~、きっとやりとげてみせます~)」


 コーウェンは一つの決意を抱き、未完成であった図面を一気に完成させドワーフの元に持ち込んだ。そして見事、ドワーフの興味を引くことに成功したのだ。交換条件でなく、ドワーフを仲間として取り込む。これがアルフィリースの目論見だった。

 そしてアルフィリースの策はさらに続いた。ドワーフと適度に仲良くなった後、彼女はエルフの居場所をドワーフに聞きだしたのである。エルフとドワーフが犬猿の仲であることは有名だが、仲が悪いゆえに相手の居所を知っているとアルフィリースは読み、事実それは当たっていた。アルフィリースがこんな発想をするのも、アルフィリースはエルフの居所を突き止めることが、ひとつのオーランゼブルに対する切り札になると考えていたからだった。

 だが今まで情報を集めようとしても、エルフたちの居所は中々見つからなかった。シーカーに聞いても、エルフは他種族とのかかわりを断ち、どこかに隠遁しているのではないかとのことだった。シーカーとエルフは元から仲が悪いし、互いに不干渉の協定を結んでからはこれ幸いとばかりに行き来がなくなったのである。

 エルフが人間との関わりを公に断ってから随分と時間が流れているのだが、まさかシーカーやその他の種族とのかかわりまで断っているとは思わなかったのだ。ならば深緑宮にいるロクサーヌはなんなのかという話になるのだが、彼女はエルフの中でも異端中の異端であり、あまり参考にならなかった。

 またロクサーヌ本人にエルフの里について聞いてみたが、それだけは決して口を割らないとのことだったし、仮に強制的に口を割らせようとした場合、エルフの里に関する記憶が消去されるように魔術を施されているとのことだった。それは外に出たエルフ全てが同様で、原則一度里を出ると滅多なことでは戻れないし、戻るにはそれなりに罰と制約を受ける必要があるとのことだった。よってロクサーヌを問い詰めることは無意味だった。

 打つ手がなかったところに、ドワーフとの関わりを持てることになったアルフィリースの行動は早かった。



続く

次回投稿は、7/12(水)7:00です。

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