戦争と平和、その7~報酬⑦~
「そんなこと言わないで探してよ~土地がないと困るんだってばぁ。ねぇねぇねぇ」
「ええい、駄々っ子か! 待ちなさいよ、この辺で土地を分捕れるくらいの貸しがある連中は・・・」
「本当に接収するつもりですか? さすがにやめた方が・・・」
エルザの常識的な発言は盛り上がる二人に相手にされなかった。そしてミランダとアルフィリースはああでもない、こうでもないと話しあっている。そしてアルフィリースが度々条件を変えながら、一つの可能性を提示した。
「それなら目端のきく人が仕切っている村の近くはどう? 何だったらこっちで森とか切り開いて、開墾作業を手伝ってもいいし」
「そこまでする? うーん、だったら・・・」
「そういえば、農作業の場所を広げたいからと森の開墾申請が届いていましたね。フルール村でしたか」
「どこ、それ」
「ここです」
エルザが地図を広げて示したフルール村は、アルネリアから馬で3日程度の場所だ。距離的には離れてこそいるが、馬で半日以内の場所には大きな街もある。何よりアルフィリースが気に入ったのは、近くに山と川があること。森の中にぽつんとその村が点在しているのだが、人口は500名程度とあった。それなりの規模の持つ村だ。
「どうしてこんなところに村が? 森の中に作るにしては、規模が大きいわ」
「昔は前線だったそうよ。アルネリアが前線だったころ、この森や山には魔王がいた。森はだいぶ切り開いてしまったけど、元はもっと深い森のはず。その時の名残で村は存在しているのでしょう。どこでも住めば都ってことなのかしらね」
「ふ~ん・・・」
アルフィリースは半分程度しか納得していないのか返事もうろんげだったが、とりあえずの候補地は出てきたようだ。その後もある程度議論を重ねて候補地を数個出すと、アルフィリースはミランダに礼を述べてその場を後にした。ミランダは大あくびを出していたので、おそらく仮眠をとるのだろう。エルザは執務に戻ったが、イライザとアルベルトはアルフィリースと共に部屋を出た。
懐かしい顔に、アルフィリースが話しかける。
「久しぶりね、アルベルト。顔を長らく見なかったけど、凄味が増したかしら?」
「凄味が増したかどうかは自分ではわかりませんが、多少なりとも強くなったかと。ミランダ様の剣となることくらいはできるでしょう」
「なるほど、かなり自信がついたようね」
「そういうあなたは、底知れなさが一層強くなった。前から思っていたが、貴女の強さは単なる強さでは測れない気がする。一体どこからその底知れなさが出るのですか?」
「私に聞かれてもね。ラーナ、どう?」
「それは私にもわかりませんよ」
だって、アルフィリースの力の源は私にもまだわからないのですから、と言おうとしてラーナは言葉を飲み込んだ。結局のところ理解できない力なのだし、誤解を与えれば相手に不信感だけが募る。この生真面目そうな聖騎士二人は、扱う力の対称性からも本能的にラーナは苦手としていた。
それになんだか、この二人がただの人間だとは思えなかった。見た目は間違いなく人間で、なおかつこれだけ聖なる気と魔力を纏いながら、どこかしら歪に感じられるのはなぜだろうか。ラーナはアルベルトと目が合うと背筋がぞくりとしたが、それを悟られないようにアルフィリースの背後に下がり、会話に加わらないようにした。
そして深緑宮の出口で二人と分かれた後、笑顔だったアルフィリースの表情は真剣そのものになった。
「――上手く行ったわ。おおよそ予想通りね」
「はい?」
「ラーナ、リサに連絡。フルール村に向かい、至急調査を。腕のいいセンサー数名と、カザス、クローゼス、セイトを連れて行って。理由はカザスに聞けばわかるわ。
もう一つ、ドワーフには手土産がいるわね。ウィクトリエとタジボ、それにダロンがいいかしらね。あとは、手に入る中で最高の酒をジェシアに手配してもらってちょうだい。さらにコーウェンに連絡を。準備を進めておいて、と言えばわかるわ」
「はぁ。あのぅ、アルフィ。何を企んでいるか教えてもらっていいですか?」
だがラーナの質問に、アルフィリースは薄く微笑んだだけである。
「楽しみにしていてよ、ラーナ。種明しが早すぎては面白くないわ。一つ言えるのは、私たちにはいつでもツキがあるということよ」
そう言ったアルフィリースの笑顔を見て、ラーナは確かに底が知れない人だと納得したのだった。
続く
次回投稿は、7/8(土)8:00です。