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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その3~報酬③~

「わからないことはさておき、ヤトリ商会が潰れたとの情報があってから、フェニクス商会の手の者を使ってその資産価値を調べさせたわ。ヤトリが持っていた資産、流通路はほぼ全てターラムが押さえたようね。そこに私たちの取り分をいただく交渉を始めるわ。

 さすがに総取りは義理もあるし無理でしょうけど、今なら先にどの領域をもらえるかは優位に交渉できると思う」

「ちなみにヤトリの資産価値は?」

「現在判明しているものだけで、5000万ペンド」

「ご、ごせん!?」


 思わず頓狂な声を上げたのは、エクラ。小国の国家予算にも匹敵するその資金が一部だとするなら、どれほどため込んでいたのというのか。

 だがアルフィリースは冷静だった。


「私は詳しくないのだけど、ヤトリ商会の取り扱う商品はどんなものがあるのかしら? アルマスは武器、フェニクス商会は毛皮や織物が中心のはずだけど」

「ヤトリ商会は鉱物、宝石、細工物が多いかしら。ヤトリは審美眼に優れた商人でね、彼の鑑定した物品は真贋間違いないとまで言われたわ。芸術でも最終審査に呼ばれるほどの眼力の持ち主よ。ターラムは伝統工芸や伝統芸能の町でもあるし、ヤトリ商会が拠点を置いたのもわかるわね」

「鉱物、宝石か・・・」


 アルフィリースは少し唸ると、何かを考え付いたように顔を上げた。


「ジェシア、一つ頼まれてほしいのだけど、現物での報酬は1000万ペンドで結構だわ。その代りいくつかの鉱物の販売経路を押さえてもらえるかしら?」

「鉱物を? 現金を交渉するならそれは可能だと思うけど、いいの? 傭兵団だって用入りだし、最初にアルネリアから借り入れた300万は減るどころか増えているんじゃないの?」

「いいえ、その点は大丈夫よ。あとで押さえてほしい鉱物は一覧にするから、頼むわ。そのうち何点かだけでも押さえてもらえれば、私の目標は達成される」

「それはいいけど」

「・・・ははあ~、さすがアルフィリース。面白いことを考え付きますね~」

「わかったかしら、コーウェン?」

「大雑把ですけども~。ならばミリアザールに面会が必要ですね~ミランダ殿もですか~? 手続きをしておきましょう~」

「流石。お願いするわ」


 ラインはそのやりとりでアルフィリースの意図を察したが、他の者は何が何やらわからず、困惑するのだった。


***


「ミリアザール、土地を売って」

「な、なんじゃ藪から棒に」


 梔子がお茶を入れる暇もなく、アルフィリースはミリアザールに面会すると同時にそんなことを申し出た。面喰うミリアザールにアルフィリースは畳みかける。


「ターラムの支配者はいたわ。だけど誰かは教えられないし、ましてアルネリアとの交渉には応じない。力づくで押さえつけようとすればするほど、反発する相手よ」

「! ほほぅ、アルネリアが数百年かけて捕まえられん相手をこの短期間でよくぞ見つけたな。やはり『持っている』女よ、おぬしは。男運だけはからっきしじゃが」

「茶化さないで。相手は交渉事だけならあなたよりも上手よ、ミリアザール。あの相手には交渉は無駄、誠意をもって応対するしかないわ。でもローマンズランドへの進軍は滞りなく行えるはず。もしアルネリアが本格的に動いても、協力こそすれ邪魔することはないはずよ」

「その相手とやらは、ワシに教えられんのか?」

「無理ね、約束だもの」


 しばしミリアザールは鋭い眼光でアルフィリースを睨んだが、すぐにやめた。


「ふぅ、脅しの効かん相手は厄介よの。それともワシにも威圧感がなくなったのか。じゃがしかし、それでは依頼は達成したとは言えんの」

「その通りだわ。だけど私には金の用意がある。まず現在の借金、およそ400万ペンド、耳をそろえて返すわ。加えて100万ペンド。それで今アルネリアが蓄えているミスリルと、魔晶石の一部を売ってほしいわ」

「おぬし・・・」


 梔子が厳しい表情をして懐に手を差し込んだが、ミリアザールはそれを制した。


「ミスリルのことをどこで知ったかと聞くのは愚問じゃろうな。よかろう、続けよ」

「加えて500万。それで売れるだけの土地を選定してほしいの。あるでしょ、アルネリアの直轄領が。選定にはミランダの意見を参考にしたいわ。

 そしてさらに一つ。ターラムの支配者との交渉は私を介して行えるようにするわ。その代り、アルネリアとつながりのあるドワーフの工場を年単位で貸してほしいのよ。できるでしょう?」

「・・・恐ろしい女よ」


 ミリアザールは唸った。ミスリルのことを知っていたのも驚いたが、ドワーフのことをどこで聞きつけたか。戦いの趨勢は戦う前に決まっているとはよく言われたものだが、アルフィリースの情報収集能力は普通ではない。今までどの国にも見破られたことはないはずだが、驚きの連続だった。ミリアザールはアルフィリースのことを決して軽んじてはいなかったが、初めて心底恐ろしいと思ったかもしれなかった。

 ミリアザールは梔子の方を見て一つ頷いた。



続く

次回投稿は、6/30(金)8:00です。

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