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呪印の女剣士【書籍化&コミカライズ】  作者: はーみっと
第五章~運命に翻弄される者達~
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戦争と平和、その2~報酬②~

「レイヤー、見つけた」

「ルナ、何か用事?」

「手紙。たまたま私が受け取ったから、検閲も済ましてしまった」

「? 誰から?」

「リリアム」


 その名前に、エルシアがぎょっとした。リリアムとレイヤーにどんなつながりがあるというのか。ルナティカは手紙を取り出すと、レイヤーに手渡した。レイヤーはそれを広げるとその場で読み始める。エルシアも興味本位で思わずそれを横から覗き込んだ。


「なになに・・・『私は近々ターラムの自警団の任を辞するつもりです。自分のやりたいことをもう少し見直してみるつもりです。その過程でアルネリアにあるイェーガーに寄ることもあるでしょう。その際は宿の手配をよろしくお願いします』だって」

「ほほう」

「な、な、な・・・」


 ルナティカとエルシアは手紙から言葉の裏にある意味を掴んだようだが、レイヤーはわかっていないようだ。ルナティカの目がリサのようにきらりと光ったところを見ると、何かしら下世話な意味だろうとレイヤーは察したが、それ以前にエルシアの平手が飛んできたのである。


「ふ、不潔だわ! レイヤーあなた、お使いのついでに何してたのよ!?」

「何したって・・・」

「よくわからないが、レイヤーのお使いに満足したということでは?」


 ルナティカは弁護したつもりだったが、既に頭に血が上ったエルシアには逆効果だった。


「何を『お使い』したってのよーーー!!!」


 甲高い絶叫と共に再度高らかな音が響いたかと思うと、レイヤーのほほにはやや控えめな大きさの真っ赤な紅葉ができていた。ロゼッタが音を聞きつけてやってくると、手紙をひったくって読むなり盛大に笑いだした。


「はっははは! そりゃあエルシアの嬢ちゃんは怒るだろうなぁ!」

「なんで? 意味がわからない」

「レイヤー、お前はもう少し女性の心を学びなよ? いいか、女が『宿の手配を頼む』ってのは『私のことを好きにしてもいいのよ』って意味なんだよ。もちろん勘繰りすぎかもしれねぇが、わざわざ手紙に書いて寄越すくらいだからそうなんだろうさ」

「なんで? 僕、好かれるようなことした?」

「知らねぇよ、でもいいじゃねぇのよ。リリアムってあんな強さで怖い女だが、滅多にいねぇほどの美人じゃん? それにエルシアも身だしなみするようになれば、あれは化けるぜぇ? お前、上手くすれば両手に花だぞ?」

「そんなことを言われても・・・」


 レイヤーがロゼッタにからかわれて困っていたので、ルナティカが助け舟を出した。


「ロゼッタ、からかうのもいいけど安心できない。二枚目にはカサンドラも当然連れて行くから、ロゼッタによろしくと書いてある。当然、カサンドラはロゼッタがもてなすのでしょ?」

「げえっ!? カー姉も来るのか? 冗談じゃない、その時アタイは留守だからな!」

「無理だと思う。貴女の体臭と気配は独特だから、三つ街を越えても追跡できるとリサが言っていた。逃がさない」

「いらねーんだよ、そんな情報は! くそっ、勘弁してくれ」


 ロゼッタが慌てて去って行ったので、ルナティカが片目を閉じてレイヤーに合図した。どうやら助けてくれたらしいが、ルナティカがそんなことをするとは随分と人づきあいが変わったものだと考えていた。

 だがレイヤーはどうか。ゲイルはエルシアがおそらく好きで、エルシアの気持ちにもなんとなく気付いてはいる。だがレイヤーは今の関係を変えたくないのだ。それに自分が気になるのは――レイヤーは自分も多少変われる時が来るのだろうかと、ふっと空を見上げていた。


***


「では報告をまとめましょう」


 アルフィリース主導の元、ターラムでの総括が会議室でなされていた。被害は原則なし。そしてそれぞれが得たこと、考えたことをアルフィリースがまとめ、エクラ、コーウェン、リサ、ラーナ、ライン、ジェシアといったイェーガーの肝となる人物が話し合っていた。各隊長級を呼んでいないのは、彼らにまだ伏せておきたい情報もあるからだ。

 アルフィリースが口火をきった。


「まず今回の遠征の成果よ。皆には伏せていたけど、ターラムの支配者なる人物に会うことに私は成功したわ」


 にわかに場がざわつく。アルフィリースはここまでそのことを秘密にしていた。もちろん、ターラムにはどんな監視の目があるかわからないし、得体の知れない気配を感じたことも一度や二度ではないからだ。

 アルフィリースは続けた。


「だけどターラムの支配者というのは、協力を引き出せるような人物ではなくてね。アルネリアの依頼は正直失敗だわ。彼らとアルネリアを同盟関係にすることは難しい。だけど、条件次第ではターラムはいくらでもアルネリアに協力するでしょうね。彼らは基本、ターラムの存続を第一にして動くから」

「それがわかっただけでも素晴らしいです~頭さえ押さえておけば、集団を御することはたやすいですから~」

「だけどターラムにはもう一人支配者がいたわ。完全にその人物だけで全てを把握できるわけじゃない。今回かなりの勢力を一掃したみたいだから、やりやすくはなっていると思うけど」

「具体的には、カラミティ、悪霊ども、ヤトリ商会、バンドラス盗賊団、それから議会に食い込んでいたサイレンスの一部ってことでいいのか?」

「じゃあ残っているのはもう一人の支配者だけということですか?」

「そうとも限らないわ。ターラムの司教ヴォルギウスの元にいた謎の神父。彼が何名かの部下を持っていたとの報告もあるわ。それがどうなったのかはアルネリアもわかっていない」


 全員が難しい顔をした。敵か味方か判然としない勢力というのは常に不気味である。そこでジェシアが手を挙げた。



続く

次回投稿は、6/28(火)8:00です。

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